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選択的SGLT2阻害剤イプラグリフロジンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプトのまとめ作業をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スーグラ.jpg
昨日話題にしたインクレチン関連薬以来初めての、
全く新しいメカニズムによる2型糖尿病の治療薬が、
来月には発売の予定です。

これは選択的SGLT2阻害剤と総称される薬剤で、
DPP4阻害剤の時と同じように、
同じメカニズムの薬剤が、
5種類以上続々と発売される予定です。

その先陣を切る形で、
おそらく最初に発売となるのが、
このスーグラ(一般名イプラグリフロジン)です。

SGLT2阻害剤とはどのような薬で、
どのような特徴があるのでしょうか?

糖尿病という名前は、
尿にブドウ糖が出ることから名付けられています。

血液には一定の濃度のブドウ糖が含まれていますが、
糖尿病のない人ではおしっこにはブドウ糖は出ません。

これはどうしてかと言えば、
一旦腎臓の糸球体という濾紙のような場所を通過した尿の元が、
尿細管という管を通過する際に、
殆どのブドウ糖が再び吸収されて血液に戻るからです。

これを尿細管におけるブドウ糖の再吸収と呼んでいます。

このブドウ糖の再吸収を行なっているのが、
SGLT(ナトリウムイオン/グルコース共輸送体)です。

SGLTにはSGLT1とSGLT2の2種類があり、
尿細管にはその両方が分布していますが、
主に働いているのはSGLT2で、
SGLT1は尿細管でも弱い働きをしていると共に、
主に小腸でブドウ糖の吸収に大きな働きをしています。

糖尿病のない方では、
血液中のブドウ糖のほぼ100%が、
SGLT2とSGLT1の働きで、
尿細管から再吸収されるので、
殆ど尿には糖は出ません。
平均で大人の場合、
1日に180グラムのブドウ糖が、
糸球体で濾過された後に再吸収されるのです。
血糖値はせいぜい140mg/dLくらいです。

それが糖尿病により血糖値が上昇し、
血液の濃度が170から180mg/dLくらいを越えると、
濾過された全てのブドウ糖を再吸収することは出来なくなり、
その余分が尿に出るのです。
これが尿糖で、
糖尿病と言われる所以です。

さて、今回ご紹介する新薬のイプラグリフロジンは、
選択的SGLT2阻害剤です。

SGLT2は尿細管でのブドウ糖の再吸収をしているので、
それが阻害されるということは、
結果として尿のブドウ糖の量が増えることになります。

確かに通常より余計ブドウ糖が尿から排泄されれば、
それだけ血糖値も下がるように思います。

しかし、必要なブドウ糖が身体で利用されないのが、
糖尿病の病態ですから、
これは何か本質的なことではないような気がします。

本当にこうした薬を使うことで、
糖尿病の患者さんを治療したと言えるのでしょうか?

これについては幾つかの知見があります。

まず、SGLT2の遺伝子を働かなくしたネズミの実験のデータがあります。

SGLT2のないネズミでは、
尿量が通常の3倍になり、
尿糖は通常の500倍に増加します。
このネズミは過食になり水分も沢山とって良く動きますが、
糖尿病にはならず、
低血糖にもなりません。
つまり、SGLT2のないネズミは、
そう不健康ではないようです。

人間にもこれに似た病態があります。
腎性尿糖と呼ばれる状態です。

健康診断などで尿糖が出ているのに、
血糖値が正常で糖尿病のない人がいます。
これは生まれつきの体質で、
こうした人は別に糖尿病にはなりませんし、
寿命が短い、というようなこともありません。

実はこの腎性尿糖は、
SGLT2をコードする遺伝子の変異です。
SGLT2が部分的に阻害されているので、
尿に出るブドウ糖が増えるのです。

従って、簡単に言えば、
選択的SGLT2阻害剤というのは、
腎性尿糖にする薬なのです。

完全に尿細管のブドウ糖の再吸収が止まってしまったら、
それはそれで大きな問題ですが、
実際にはSGLT1が代償的に働くので、
再吸収の抑制はせいぜい全体の5割から6割程度に留まります。
つまり、SGLT2が働かなくなると、
それを補うためにSGLT1の働きが高まるので、
一定レベルのブドウ糖は、
SGLT1の働きで再吸収され、
選択的にSGLT2を阻害することは、
そう大きな健康上の問題にはならないのです。

それでは、
糖尿病の患者さんにおける、
選択的SGLT2阻害剤の意義は何処にあるのでしょうか?

実は高血糖になると、
SGLT2の活性が高まり、
通常より多くのブドウ糖が、
再吸収を受けることが分かっています。

これは食事にも影響を受け、
糖質を多く摂るとSGLT2の活性が高まり、
糖質を制限するとSGLT2の活性は低下します。

つまり、血糖値があるレベルを越えて上昇すると、
おしっこに出るブドウ糖の量も抑制されてしまうので、
尚更に血糖値が下がらない、
という悪循環が生じるのです。

糖質制限食が食後の血糖値を下げるのは、
1つには糖質制限によりSGLT2の活性が下がり、
おしっこに排泄されるブドウ糖が増えるからです。

そう考えると、
選択的SGLT2阻害剤を使用するということは、
糖質制限をすることと同じ効果があり、
糖尿病の悪循環のメカニズムのうち、
その一部を解除する効果が期待出来る、
ということになります。

糖尿病の専門家の先生が、
この薬に注目するのは、
そうした点があるからなのです。

ただ、問題は矢張りありそうです。

SGLT2が阻害されれば、
尿量は増え身体は間違いなく脱水に傾きます。
ネズミでは食事量と水分量が代償的に増えてバランスを取るのですが、
糖尿病の患者さんでそうしたことが起これば、
薬剤の効果は相殺されてしまいますから、
脱水に誘導する格好にはどうしてもなる訳です。
臨床試験の1年くらいのデータでは、
体重減少の傾向が見られていますから、
それが本当に健康的な現象であるのかどうかは、
より詳細に検証する必要があります。

また、尿糖が増加することにより、
尿路や性器の感染症が増えることは間違いがなく、
感染の持続は長期的には発癌のリスクも高める可能性があります。

この薬を使用することが、
糖質制限と同じような効果を示すとすれば、
糖尿病の悪循環を切るためには有効性が高いと思いますが、
一旦血糖値が安定した状態になれば、
むしろ継続する意義は減少するようにも思います。

コンセプトとしては、
利尿剤と同じように考えるのが良いかも知れません。
勿論病態によっては持続的に使用するのもありなのですが、
基本的な使用法は糖毒性の解除のために、
一時的に使用するのが望ましく、
その後はメトホルミンやDPP4阻害剤に切り替えて、
安定した状態を維持するのが、
より効果的な使用法ではないか、
というように思うのです。

現状は安易に飛びつくことはせず、
どのような患者さんのどのような時期に、
最も適切な薬剤であるのかを、
慎重に考えながら、
その有効な使用法を探りたいと思っています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

tama

はじめまして。
毎日拝見しております。
記事中の、>糖質制限食が食後の血糖値を下げるのは、
1つには糖質制限によりSGLT2の活性が下がり、
おしっこに排泄されるブドウ糖が増えるからです。
これは糖質制限によって血中のブドウ糖は減少するが、減少分が尿中に排泄されるという意味でしょうか。
私の場合は糖質制限により血中の血糖値(測定器より確認)、尿中のブドウ糖(試験紙の色調、テルモ尿統計数値)共に
減少しているので疑問が生じました。
by tama (2014-03-07 19:45) 

fujiki

tama さんへ
これは糖尿病により活性化されたSGLT2が、
糖質制限により正常に近くなる、
とお考え下さい。
吸収される糖質自体が減れば、
尿糖も減ると思います。
尿糖が増えるかどうかは、
相対的な問題のように思います。
by fujiki (2014-03-07 20:46) 

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