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新規抗凝固剤による間質性肺炎について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は終日レセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

イグザレルト(一般名リバーロキサバン)という、
新規の抗凝固剤を服用中の患者さんで、
薬剤との関連が疑われる、
3例の死亡事例を含む13例の間質性肺炎が報告され、
先月の終わりに当該の製薬会社より、
「適正使用についてのお願い」という文書が出されました。

製薬会社の推計では、
概ね20万人の患者さんにこの薬が使用され、
そのうち少なくとも13例の事例が報告されている、
ということになります。

イグザレルト(一般名リバーロキサバン)は、
Ⅹaという凝固因子の阻害剤で、
血液が固まる血栓の産生を抑える効果の薬です。
こうした薬を抗凝固剤と呼んでいます。

飲み薬の抗凝固剤は、
長くワーファリン(一般名ワルファリン)
という薬が使用されていましたが、
食事の制限が必要であったり、
定期的に血液検査をして、
その量を調節するという煩雑さがあり、
代わり得る薬の開発が望まれていました。

その1番手が、
2011年に発売された、
直接トロンビン阻害剤というタイプの、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)と言う薬で、
2012年に2番手として発売されたのが、
イグザレルト(商品名リバーロキサバン)です。
その後アピキサバン(商品名エリキュース)が、
2013年に3番手として発売されました。

しかし、
実際にダビガトランの使用が開始されてみると、
特に高齢者で重篤な出血の合併症が、
相次いで報告され、
問題となったことは、
これまでにも何度か触れました。

そんな訳でこの3種類の新薬の有害事象として、
問題の中心は常に出血系の合併症であったのですが、
その蔭に隠れるようにしてこれまではあまり触れられず、
今回改めて注目される結果となったのが、
間質性肺炎です。

今回イグザレルトの情報が出たので、
この薬が3剤の中で、
間質性肺炎が多いように思われた方がいるかも知れませんが、
必ずしもそうではありません。

先行したダビガトランの場合、
発売後半年の事例を集積した市販直後調査において、
既に9例の間質性肺炎が報告され、
そのうちの4例が死亡されています。
その時点での処方の総数は推計で7万人です。

イグザレルトは市販直後調査では、
間質性肺炎は1例のみの報告です。
その時点での処方の総数は推計で2万人です。

この時点では問題にならないと思われた有害事象が、
その後処方事例が20万人を越えた時点で、
死亡3例を含む13例と初めて注目されたことが、
今回の報告に繋がっているのです。

つまり、ダビガトランもイグザレルトも、
間質性肺炎の発症頻度という面では、
大きな違いがないと考えるのが現時点では妥当です。

ダビガトランには抗炎症作用や抗繊維化作用があり、
その意味では間質性肺炎の進行にむしろ拮抗するメカニズムを持っています。

実際、2011年には、
ネズミの間質性肺炎のモデル動物で、
ダビガトランが治療効果を示した、
という論文も発表されています。

こうした薬剤でも、
実際には少なからず間質性肺炎が発症するのが、
薬剤の臨床というものの厄介なところです。

間質性肺炎の原因は様々ですが、
薬剤性の場合には、
一種のアレルギー的な機序が想定されています。

イグザレルトの今回発表された死亡事例では、
投与10日目には少なくとも咳などの症状が出現しており、
この時点で既に間質性肺炎が発症していることが疑われます。
同時に発表された回復事例では、
ダビガトランからイグザレルトへの変更後、
4日目には既に急激な呼吸困難が生じています。
その一方でワルファリンからの変更事例では、
50日以上経ってから咳や血痰が出現しています。
ただ、その事例は肺よりの出血を伴っていて、
必ずしも間質性肺炎が、
病状の主体とも言い切れません。
更にはプラザキサによる同様の事例においても、
多くは薬剤開始後1週間程度の発症となっていて、
これが通常は典型的な経過と思われます。

日本で間質性肺疾患のマーカーとして、
良く使用されているKL-6(シアル化糖鎖抗原KL-6 )の値は、
今回報告された重症事例では上昇していますが、
症状出現時より、
むしろ薬剤中止後の悪化時の上昇が多く、
早期診断には限界も感じさせます。
今回のデータを見る限り、
一般的に正常上限とされる500U/mL未満であっても、
否定は出来ないと思います。

いずれにしても、
新規抗凝固剤はイグザレルトのみならず、
プラザキサやエリキュースにおいても、
特に使用開始後7日以内において、
急速な間質性肺炎の発症する事例があることを念頭に置き、
患者さんには咳や血痰、息切れなどの症状があれば、
風邪と安易に考えずに受診を勧めることが望ましいと思いますし、
保険適応上は問題がありますが、
開始時にKL-6を測定しておいて、
咳などの症状出現時に再検することは、
1人の患者さんの副作用のリスクが大きい末端の医療者にとっては、
一定の有用性があるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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心配ママ

お世話になっております。メールが届かないようなので、こちらでお返事頂けたらと思います。

心療内科は受診していませんが、私は心気症を患っていると思います。
今現在も、喉に違和感があるような気がして食道がんではないかと不安にかられています。
胃カメラ検査で食道がんの有無を確認したいのですが、小さい子供がいるのでなかなか病院には行けません。家族も私の頻繁な病院での検査に呆れていて、子供達を病院に連れ回してばかりで可哀想だ。お前は自分勝手だと全く理解してもらえず、苦しい毎日を送っています。
私は食道がんなのでしょうか。
約1年2ヶ月前の胃カメラでは何も異常はなく、ピロリ菌は検査をして除菌しました。
半年前の耳鼻咽喉科での鼻からのカメラも異常ありませんでした。
私は32歳、喫煙、アルコールはしません。
30代の食道がん罹患率は10万人に3人ぐらいだという記事を見たのですが本当にそんなに少ないのですか?
先生は今までで30代で食道がんになってしまった患者さんはいらっしゃいましたか?

お忙しいところ申し訳ありませんがよろしくお願いします。
by 心配ママ (2014-02-05 11:06) 

fujiki

心配ママさんへ
30代の食道癌は極めて稀で、
診療所でもこれまで経験はありません。
喫煙、アルコールのリスクもないですから、
基本的にはあまりご心配をされないで良いと思います。
お時間が取れる時に、
胃カメラの再検をして頂ければ良いのではないでしょうか?
慌てる必要はないように思います。
by fujiki (2014-02-05 14:05) 

心配ママ

お返事ありがとうございます。
少し安心しました。やはり精神的なものなのかもしれませんね・・。
お忙しいなか、ありがとうございました。
by 心配ママ (2014-02-05 15:21) 

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