精神疾患の患者さんの禁煙治療におけるバレニクリンの効果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
統合失調症と双極性障碍の患者さんに対する、
禁煙治療の効果についての論文です。
診療所においては、
主にバレニクリン(商品名チャンピックス)の使用と、
シンプルな心理療法を併用した禁煙治療を行なっています。
概ねその成功率は7割程度です。
ただ、問題になることの1つは、
精神疾患で治療中の患者さんにおける、
チャンピックスの使用をどう考えるか、
ということです。
チャンピックスは脳のニコチン受容体に働く薬で、
基本的には吐き気以外の副作用は少ない薬剤ですが、
稀な副作用の1つとして、
不眠やイライラ、焦燥感などの精神症状が生じることがあり、
自殺企図との関連も指摘する意見があります。
精神疾患の患者さんは禁忌ではありませんが、
慎重投与の扱いであり、
特に精神症状が不安定な場合には、
チャンピックスの使用は行なうべきではないと考えられます。
それでは患者さんが落ち着いている状態の時にはどうでしょうか?
精神科に通院中の患者さんで、
主治医は別にいて、
診療所で禁煙治療を希望される患者さんの場合、
必ず主治医の先生に、
チャンピックスの治療をしても良いかどうかを、
事前に聞いてもらうようにしています。
診療所で処方している患者さんでは、
病状が落ち着いている方の場合には、
慎重に処方を行ない、
病状が不安定な場合には、
チャンピックスは使用しない方が良いと説明しています。
精神科の先生のお考えも色々で、
「チャンピックスは一切不可」と言われる先生もいますし、
病状に合わせての判断をされる先生もいます。
この問題は現状、
必ずしも統一された見解はないようです。
さて、海外の統計においては、
重症の精神疾患の患者さんの喫煙率は、
53%に上っていて、
これは間違いなく精神疾患を持たない患者さんより高い数値です。
これまでにチャンピックスを含む薬剤や心理療法による、
精神疾患の患者さんへの、
禁煙治治療の臨床試験の報告は複数ありますが、
例数は少なく、試験のデザインの厳密性も、
それほど高くはないものが殆どです。
そうしたこれまでの報告によれば、
精神疾患の患者さんでは、
そうではない方と比較して、
禁煙治療の成功率は低く、
また一旦禁煙に成功しても、
短期間で再度喫煙してしまうケースが、
これも多いとされています。
チャンピックスなどの薬物治療の標準的な使用期間は、
日本でも海外でも3ヵ月です。
あるデータによれば、
精神疾患の患者さんが心理療法のみで、
禁煙に成功する確率は5%に留まり、
それがチャンピックスなどを含む薬物治療を併用すると、
24%にまで上昇しますが、
3ヵ月の治療後に薬剤を中止すると、
その3ヵ月後には半数の患者さんは再び喫煙をしている、
という結果になっています。
こうした一旦禁煙に成功した患者さんの、
再喫煙の防止のために、
試みられている方法の1つが、
3ヵ月を越えてより長期間薬物治療を継続する、
というものです。
診療所で禁煙治療を行なっていても、
しばしばご質問を受けることは、
3ヵ月の治療ではまだ禁煙を継続する自信がないので、
もっと長期間薬を使用出来ないか、
というものです。
しかし、現時点ではこれは保険診療では認められていません。
海外においては、
より長期間の薬物治療の臨床試験が、
複数行なわれていて、
一定の有効性が確認されています。
今回の試験は、
精神疾患の患者さんに対して、
これまでより厳密な方法を用いて、
通常の3ヵ月のチャンピックスによる治療後に、
より長期間の薬物治療を継続して、
その効果と安全性とを検証したものです。
患者さんはアメリカの10箇所の精神科の専門施設において、
18歳から70歳の統合失調症と双極性障碍の喫煙患者さん、
トータル203名にチャンピックスによる3ヵ月の禁煙治療を行ない
(通常の心理療法との併用です)、
禁煙に成功した87名の患者さんを、
くじ引きで2つの群に分けて、
一方にはチャンピックスをその後も使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その後10ヵ月の治療を継続し、
最初の治療から76週までの経過観察を行なっています。
その結果、治療開始後1年の時点で、
チャンピックスを継続していたグループでは、
40人中60%に当たる24名が禁煙を継続していたのに対して、
3ヵ月以降偽薬をお使用していたグループでは、
47名中僅か19%に当たる9名のみが禁煙を継続していました。
これが76週の時点になると、
禁煙が継続されていたのは、
チャンピックス群で40名中12名の30%、
偽薬群で47名中5名の11%でした。
これは途中の脱落症例は、
禁煙失敗としてカウントされています。
この間精神疾患の悪化などのメンタル面での有害事象は、
偽薬との間で有意な差はありませんでした。
このように、今回の結果を見る限り、
精神疾患の患者さんのように、
禁煙後の再喫煙率が高い患者さんにおいては、
3ヵ月の治療後もチャンピックスの使用を継続することで、
一定の喫煙抑制効果が期待出来ます。
1年程度の使用においては、
問題となるような有害事象の増加はないようです。
ただ、現実的にはまず最初の203人中、
3ヵ月の治療で禁煙が出来たのは42.8%で、
最終的に76週まで禁煙が継続されたのは、
両群合わせても17名ですから、
わずか8%の低水準です。
そうなると精神疾患をお持ちの患者さんの禁煙治療は、
チャンピックスの使用のみでは、
いずれにしても不充分で、
今後より有効性の期待出来る治療の選択肢が、
是非必要となるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
統合失調症と双極性障碍の患者さんに対する、
禁煙治療の効果についての論文です。
診療所においては、
主にバレニクリン(商品名チャンピックス)の使用と、
シンプルな心理療法を併用した禁煙治療を行なっています。
概ねその成功率は7割程度です。
ただ、問題になることの1つは、
精神疾患で治療中の患者さんにおける、
チャンピックスの使用をどう考えるか、
ということです。
チャンピックスは脳のニコチン受容体に働く薬で、
基本的には吐き気以外の副作用は少ない薬剤ですが、
稀な副作用の1つとして、
不眠やイライラ、焦燥感などの精神症状が生じることがあり、
自殺企図との関連も指摘する意見があります。
精神疾患の患者さんは禁忌ではありませんが、
慎重投与の扱いであり、
特に精神症状が不安定な場合には、
チャンピックスの使用は行なうべきではないと考えられます。
それでは患者さんが落ち着いている状態の時にはどうでしょうか?
精神科に通院中の患者さんで、
主治医は別にいて、
診療所で禁煙治療を希望される患者さんの場合、
必ず主治医の先生に、
チャンピックスの治療をしても良いかどうかを、
事前に聞いてもらうようにしています。
診療所で処方している患者さんでは、
病状が落ち着いている方の場合には、
慎重に処方を行ない、
病状が不安定な場合には、
チャンピックスは使用しない方が良いと説明しています。
精神科の先生のお考えも色々で、
「チャンピックスは一切不可」と言われる先生もいますし、
病状に合わせての判断をされる先生もいます。
この問題は現状、
必ずしも統一された見解はないようです。
さて、海外の統計においては、
重症の精神疾患の患者さんの喫煙率は、
53%に上っていて、
これは間違いなく精神疾患を持たない患者さんより高い数値です。
これまでにチャンピックスを含む薬剤や心理療法による、
精神疾患の患者さんへの、
禁煙治治療の臨床試験の報告は複数ありますが、
例数は少なく、試験のデザインの厳密性も、
それほど高くはないものが殆どです。
そうしたこれまでの報告によれば、
精神疾患の患者さんでは、
そうではない方と比較して、
禁煙治療の成功率は低く、
また一旦禁煙に成功しても、
短期間で再度喫煙してしまうケースが、
これも多いとされています。
チャンピックスなどの薬物治療の標準的な使用期間は、
日本でも海外でも3ヵ月です。
あるデータによれば、
精神疾患の患者さんが心理療法のみで、
禁煙に成功する確率は5%に留まり、
それがチャンピックスなどを含む薬物治療を併用すると、
24%にまで上昇しますが、
3ヵ月の治療後に薬剤を中止すると、
その3ヵ月後には半数の患者さんは再び喫煙をしている、
という結果になっています。
こうした一旦禁煙に成功した患者さんの、
再喫煙の防止のために、
試みられている方法の1つが、
3ヵ月を越えてより長期間薬物治療を継続する、
というものです。
診療所で禁煙治療を行なっていても、
しばしばご質問を受けることは、
3ヵ月の治療ではまだ禁煙を継続する自信がないので、
もっと長期間薬を使用出来ないか、
というものです。
しかし、現時点ではこれは保険診療では認められていません。
海外においては、
より長期間の薬物治療の臨床試験が、
複数行なわれていて、
一定の有効性が確認されています。
今回の試験は、
精神疾患の患者さんに対して、
これまでより厳密な方法を用いて、
通常の3ヵ月のチャンピックスによる治療後に、
より長期間の薬物治療を継続して、
その効果と安全性とを検証したものです。
患者さんはアメリカの10箇所の精神科の専門施設において、
18歳から70歳の統合失調症と双極性障碍の喫煙患者さん、
トータル203名にチャンピックスによる3ヵ月の禁煙治療を行ない
(通常の心理療法との併用です)、
禁煙に成功した87名の患者さんを、
くじ引きで2つの群に分けて、
一方にはチャンピックスをその後も使用し、
もう一方は偽薬を使用して、
その後10ヵ月の治療を継続し、
最初の治療から76週までの経過観察を行なっています。
その結果、治療開始後1年の時点で、
チャンピックスを継続していたグループでは、
40人中60%に当たる24名が禁煙を継続していたのに対して、
3ヵ月以降偽薬をお使用していたグループでは、
47名中僅か19%に当たる9名のみが禁煙を継続していました。
これが76週の時点になると、
禁煙が継続されていたのは、
チャンピックス群で40名中12名の30%、
偽薬群で47名中5名の11%でした。
これは途中の脱落症例は、
禁煙失敗としてカウントされています。
この間精神疾患の悪化などのメンタル面での有害事象は、
偽薬との間で有意な差はありませんでした。
このように、今回の結果を見る限り、
精神疾患の患者さんのように、
禁煙後の再喫煙率が高い患者さんにおいては、
3ヵ月の治療後もチャンピックスの使用を継続することで、
一定の喫煙抑制効果が期待出来ます。
1年程度の使用においては、
問題となるような有害事象の増加はないようです。
ただ、現実的にはまず最初の203人中、
3ヵ月の治療で禁煙が出来たのは42.8%で、
最終的に76週まで禁煙が継続されたのは、
両群合わせても17名ですから、
わずか8%の低水準です。
そうなると精神疾患をお持ちの患者さんの禁煙治療は、
チャンピックスの使用のみでは、
いずれにしても不充分で、
今後より有効性の期待出来る治療の選択肢が、
是非必要となるように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2014-01-14 08:03
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