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抗生物質を最も使っているのは誰? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

医者による抗生物質の乱用により、
多くの抗生物質の効かない耐性菌が増えている、
というのは、
最近耳にしない日も目にしない日もないほど、
流布されている言説です。

テレビなどに出て来る専門家の発言では、
日本には「開業医」という悪い種族がいて、
本来は慎重に使用するべき抗生物質を、
滅多矢鱈と処方しているのがその最大の原因であり、
言外には、
そうした悪い奴らを滅ぼさないと、
医療は良くならない、
というようなニュアンスが感じられます。

こうした先生のご高説をお聞きすると、
抗生物質を使っているのは、
医者だけのようです。

しかし、実際にはそうではありません。

こちらをご覧下さい。
家畜の抗生物質使用量.jpg
これは先月のNew Engalnd…の解説記事に添えられた図ですが、
アメリカで年間に使用される抗生物質の、
使用対象の内訳を見たものです。

驚くなかれその使用量の8割は、
人間様ではなく、
家畜や海産物への使用です。

日本ではあまり新しい統計を見付けられなかったのですが、
2001年くらいのデータとして、
人間用の2倍以上が、
矢張り動物用か飼料添加用の用途に使われています。

何故これだけ多くの抗生物質が、
家畜に使用されるのでしょうか?

その理由の1つは家畜の感染予防目的であり、
もう1つは飼料に抗生物質を混ぜて育てると、
成長促進作用があるという知見があり、
その目的の使用です。

それでは実際にどのような抗生物質が使用されているか、
という点については、
農水省の発表がありますが、
凡そ人間に使用されている抗生物質は、
その殆どが使用されていると言って、
過言ではありません。
アメリカではニューキノロン系の抗生物質は、
2005年にその家畜への使用が禁止されていますが、
農水省の平成24年の資料を見る限り、
日本ではそうした規制はないようで、
ニューキノロンも大量に使用されていますし、
ペニシリンやセフェム系、
マクロライド系などの抗生物質も使用されています。

これだけ使用されているのですから、
当然耐性菌が増えることも想定されます。

ただ、その頻度や人間への影響については、
色々な意見があり、
深刻な問題である、という見解がある一方で、
現状の使用法においては、
それほど大きな問題にはならない、
というような見解も根強くあるようです。

明確に関連があると思われるのは、
病原性大腸菌やカンピロバクターによる食中毒です。

豚や鶏への抗生物質の使用は、
他の動物より耐性菌が生じ易いことが知られていて、
そのための調査も定期的にされています。
その結果、豚や鶏の腸内にいる大腸菌やカンピロバクターは、
高頻度に耐性化していることが確認されていて、
それがそのまま人間に感染するのですから、
焼き鳥やホルモン、生の部分が残った豚肉などからの感染では、
そうした耐性菌が人間でも増えているのです。

これはですから、
医者が人間の治療に対して、
不要な抗生物質の使用を避けることが、
勿論効果がない訳ではありませんが、
カンピロバクターの耐性化を防ぐ、
というような観点から考えれば、
家畜の抗生物質の対策を講じなければ、
抜本的な解決には繋がらない、ということになります。

食物連鎖は感染症においては、
言うまでもなく重要な役割を果たしています。

新型インフルエンザのような感染も、
豚や鶏などの動物を介していることが、
多くの事例で明らかにされていますし、
そうした動物の体内での変異が、
人間への脅威に結び付いているのです。

従って、抗生物質の耐性菌の問題は、
勿論人間に対して使用を行なう医師も、
その役割は大きいのですが、
家畜などへの使用も含めて、
より大きな視点で議論を深め、
トータルな対策を講じる必要があるのではないかと思います。

念の為補足しますが、
僕は勿論全ての医者は、
適正な抗生物質の使用を心掛けて、
耐性菌の出現防止に努める責務があると思います。
ただ、抗生物質の害というものをトータルに考える時には、
それだけでは不充分で、
人間以外への使用も含めて、
より広い視点で考えるべきではないか、
という趣旨ですので、
どうかその点は誤解のないように、
お読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

zzz

石原、こんにちは。いつも面白いお話ありがとうございます。

そういえば、つい最近北海道でタミフル耐性菌が出た、とニュースになってましたね。
ステロイド補充中の身としては、「何でほっかいどー!?自分は渡航禁止だ!!」(北海道の方すいません、あくまで個人的特殊事情のためですので)と思ったほどでした。
しかし、今日のお話からすると、北海道といえば畜産(?)
いや、また素人の早とちりかもしれませんが、いずれにしても家畜にニューキノロン系なんて強力な奴が使われてたなんて、しかも人間に関係するなんてびっくりでした。
ただ、意固地に抗生剤拒否というのもなんですしね。難しい問題ですね。
by zzz (2014-01-11 16:51) 

ねね

先生はじめまして、以前より拝見しておりました。
記事とは関係ないコメントで大変申し訳ございません。
去年10月に胃がん検査でペプシノゲン、ピロリが陽性でC群とのことで、胃カメラをしました。
結果、慢性胃炎と萎縮性胃炎とのことで除菌をお願いしたいと申し出て、除菌のお薬を始めて、呼気検査をしました(結果は次回です)
教えていただきたいのですが、
胃カメラしたときに細胞診?生検?という一部を切り取るようなことはされませんでした。
胃カメラをして、胃に何かあれば必ずしていただけると思っていたのですが、そのような検査もなく
技師さんが胃カメラをして、その画像を医師があとで見て、その結果がまた10日後という形でした。
細胞を切り取って検査というのは、しないこともあるのでしょうか?

by ねね (2014-01-11 22:45) 

fujiki

zzzさんへ
コメントありがとうございます。
トータルに直接の家畜から人間への感染が、
多いということではないのですが、
無視出来る影響ではないような気がします。
by fujiki (2014-01-14 08:13) 

fujiki

ねねさんへ
胃カメラは技師さんではなく、
医者が行なっていると思います。
生検は悪性の疑いなどがないケースでは、
行なわないこともあると思います。
萎縮の程度や次回の検査をいつごろ行なうのが良いか、
というような点については、
説明の際にしっかり聞いて頂くのが良いと思います。
by fujiki (2014-01-14 08:16) 

ねね

先生、こんばんは★
お返事ありがとうございます。

胃カメラしたあと、なにもとくにおっしゃらず、最初に説明してくれた看護師さんが
では、次回結果を診察で先生から話されますから、と言われただけでしたので
では、胃カメラをしたのは内視鏡技師さんんとかなのかな、と。診察室では違う先生でしたので。
麻酔はしてないので意識ははっきりしていたので、もし先生ならモニター見ながら説明してくれるとばかり思っていました。
胃カメラも、一年に一度はしてください、とのことでした。
一年に一度でだいじょうぶなのでしょうか?
いつも以前から、胃痛がしたり、すぐお腹が痛くなるので、
とても不安です。
胃がんだったら、一年に一度で見つかりますか?
by ねね (2014-01-15 17:36) 

fujiki

ねねさんへ
それは胃の粘膜の状態によって異なりますので、
一概には言えません。
ただ、症状は癌と関連はないことが殆どですから、
当面は先生の言われる通りの方針で、
良いように思います。
ご心配でしたら、
再度お聞きしてみて下さい。
by fujiki (2014-01-16 08:13) 

匿名

抗生物質は食欲不振に対しての投与ですね。食欲増進効果がある。抗精神病薬(抗うつ薬)同様に女性化乳房の作用もあり、乳汁が大量に出るようになる。

しかし、医学の世界で抗生物質は細菌への選択毒性というルールが存在するので、動物細胞には直接作用しないことになっています。

実際はインタビューフォーム記載の通りで、血圧低下や心機能抑制などは降圧剤よりも強かったりします。それを建前ではないことにして、利用できるのです。

だから、耐性菌などの感染症が目に見えて問題とならない程度であれば使ったもの勝ちの状態です。

なぜなら、医療界がこの作用を認めることは不可能だからです。

抗生物質にGPCRへの強力な作用があるとは認めることができる訳がないです。
by 匿名 (2016-04-11 10:08) 

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