宮部みゆき「ペテロの葬列」 [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日はまだ診療所は休診ですが、
レセプト作業のため終日仕事の予定です。
それは良いのですが、
体調が最悪なのがブルーです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドラマ化もされた杉村三郎シリーズの第3弾、
宮部みゆきさんの「ペテロの葬列」が、
昨年末に単行本化されました。
これは複数の地方新聞に連載されたもので、
単行本化が待たれていた作品です。
このシリーズは「誰か Somebody」、「名もなき毒」と続いていて、
主人公の杉村三郎は大財閥の会長の、
妾腹の娘とひょんなことから結婚した、
逆玉の輿のお婿さん、
という浮世離れのした設定になっています。
今時この設定はどうなのかしら、
というように思いますし、
ドラマ版などを見ると、
恥ずかしくて見ていられないような感じなのですが、
原作を読む限りは、
決して不自然とは思えません。
語り口が見事なので、
ついつい飲み込んでしまうのです。
宮部マジックと言うべきかも知れません。
このシリーズは、
一種のハードボイルドで、
絵空事めいた主人公の設定が、
むしろ主人公を透明な存在としていて、
その非現実的な視点を介して、
リアルな「現代の悪」を投射しよう、
という試みのものです。
1作目は自転車による交通事故死が描かれ、
2作目では虚言癖のあるトラブルメーカーの女性が描かれます。
両方ともなるほどな、という感じです。
今回の3作目もなるほどな、という感じの、
「現代の悪」が描かれます。
ただ、これまでの2作品と比較すると、
作品のテーマとなっている「悪」が、
ミステリーではこれまでにも、
散々取り上げられているものなので、
何が起こるか先の読めない展開が続く前半は、
非常に魅力的なのですが、
一旦物語の構造が露になってしまうと、
何だこれか、と言う感じで、
正直がっかりする部分はあります。
また、いつものことですが、
小ネタ的な部分に、
ミステリー的なトリックが使われているのですが、
宮部さんはこうしたトリックの扱いがあまりお上手ではなく、
如何にも取って付けたような感じになっているのが、
物足りなく感じます。
ラストは色々な意味で衝撃的で、
これはこれで悪くないと思いますし、
おそらく次作の展開も既に織り込まれているのだと思います。
ただ、個人的には、
もう少し物語そのものの謎に、
奥行きと意外性とがないと、
大胆な構成も活きないように思います。
今回はちょっと集約感がなくて長過ぎますよね。
宮部さんのファンであれば、
読んで後悔はしないと思いますが、
もし初めて宮部さんの長篇をお読みになるのであれば、
この作品はお勧めしません。
大胆な構成は、
シリーズの前2作を読んでいないと、
活きない性質のものですし、
単独の作品の出来としては、
前作の「名もなき毒」の方が上だからです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日はまだ診療所は休診ですが、
レセプト作業のため終日仕事の予定です。
それは良いのですが、
体調が最悪なのがブルーです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
ドラマ化もされた杉村三郎シリーズの第3弾、
宮部みゆきさんの「ペテロの葬列」が、
昨年末に単行本化されました。
これは複数の地方新聞に連載されたもので、
単行本化が待たれていた作品です。
このシリーズは「誰か Somebody」、「名もなき毒」と続いていて、
主人公の杉村三郎は大財閥の会長の、
妾腹の娘とひょんなことから結婚した、
逆玉の輿のお婿さん、
という浮世離れのした設定になっています。
今時この設定はどうなのかしら、
というように思いますし、
ドラマ版などを見ると、
恥ずかしくて見ていられないような感じなのですが、
原作を読む限りは、
決して不自然とは思えません。
語り口が見事なので、
ついつい飲み込んでしまうのです。
宮部マジックと言うべきかも知れません。
このシリーズは、
一種のハードボイルドで、
絵空事めいた主人公の設定が、
むしろ主人公を透明な存在としていて、
その非現実的な視点を介して、
リアルな「現代の悪」を投射しよう、
という試みのものです。
1作目は自転車による交通事故死が描かれ、
2作目では虚言癖のあるトラブルメーカーの女性が描かれます。
両方ともなるほどな、という感じです。
今回の3作目もなるほどな、という感じの、
「現代の悪」が描かれます。
ただ、これまでの2作品と比較すると、
作品のテーマとなっている「悪」が、
ミステリーではこれまでにも、
散々取り上げられているものなので、
何が起こるか先の読めない展開が続く前半は、
非常に魅力的なのですが、
一旦物語の構造が露になってしまうと、
何だこれか、と言う感じで、
正直がっかりする部分はあります。
また、いつものことですが、
小ネタ的な部分に、
ミステリー的なトリックが使われているのですが、
宮部さんはこうしたトリックの扱いがあまりお上手ではなく、
如何にも取って付けたような感じになっているのが、
物足りなく感じます。
ラストは色々な意味で衝撃的で、
これはこれで悪くないと思いますし、
おそらく次作の展開も既に織り込まれているのだと思います。
ただ、個人的には、
もう少し物語そのものの謎に、
奥行きと意外性とがないと、
大胆な構成も活きないように思います。
今回はちょっと集約感がなくて長過ぎますよね。
宮部さんのファンであれば、
読んで後悔はしないと思いますが、
もし初めて宮部さんの長篇をお読みになるのであれば、
この作品はお勧めしません。
大胆な構成は、
シリーズの前2作を読んでいないと、
活きない性質のものですし、
単独の作品の出来としては、
前作の「名もなき毒」の方が上だからです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2014-01-04 07:49
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こんばんは、初めまして。宮部ファンになって、そろそろ20数年です。初めて読んだのが、《魔術はささやく》
しかも初めて知ったのが、ドラマ化になったからです。ドラマを観て本を読みたくなり、それが切っ掛けです。
彼女の小説は、出る度に読んでいます。今回の《ペテロの葬列》は、ワタシの中では衝撃的でした。とても、読み進めたくないような、そんな小説でした。と言うのは、ワタシの悪い癖で、結末を先に読んでしまうんですよね。。。それが、今回はアダになりました。
杉村三郎が、次回には別の形で登場するのではないか、と期待しています。
そう、(たぶん)全ての宮部ファンが期待しているように、探偵として。
ワタシにとって、今回のこの《ペテロの葬列》は、ワタシへの応援歌でもありました。
by タケちゃん (2014-03-01 18:42)
タケちゃんさんへ
コメントありがとうございます。
「魔術がささやく」はシンプルで、
辻褄が合わないところはあるのですが、
非常に魅力的な作品でしたね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-03-04 08:21)