万城目学「とっぴんぱらりの風太郎」 [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
診療は年末年始の休診に入っています。
いつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
今日はこれから神奈川の実家に戻る予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
僕の大好きな万城目学(まきめまなぶ)さんの新作が、
今年の9月発売されました。
週刊文春に2年に渡り連載された、
万城目さん初めての時代物で、
最も長い長篇です。
これは同じ文藝春秋社から刊行された、
「プリンセス・トヨトミ」とちょっとした繋がりがあり、
その前日談とでも言うべきものです。
ただ、単純にそれだけのものではなく、
震災後初めての作品ということもあって、
運命に翻弄される庶民の悲哀も、
書き込まれていますし、
戦争物としての描写にも力が入っていて、
戦争や紛争の危機が、
にわかに身近なものとなった現代にも、
寄りそう内容になっています。
一読の価値は間違いなくありますが、
単行本で270ページを越えるまでは、
あまり読者をワクワクさせるようなことが起こらないので、
万城目さんのファンであれば、
期待だけで読み進むことが出来るのですが、
初めての方は挫折することもありそうです。
ただ、その後は一気呵成に物語は突き進みます。
ラストは正直、「これしかない」という感じではなく、
登場人物の辻褄を合わせただけ、
という印象があるのですが、
読者も一緒に長い旅をした、
という実感があるので、
そう失望感は残りません。
以下ネタばれがあります。
「プリンセス・トヨトミ」は、
豊臣秀吉の血を引くお姫様が、
現代でも秘かに崇拝されている、という話ですが、
「とっぴんぱらりの風太郎」は、
秀頼の生まれたばかりの娘が、
大阪夏の陣の戦場から、
如何にして救い出されたのかを、
描いた物語です。
救い出された秀頼の末裔が、
「プリンセス・トヨトミ」の茶子になる、
という仕掛けです。
ただ、それが本筋ということではなく、
庶民から見た「戦争」を描くのが眼目で、
落ちこぼれの忍者の青年を主人公に、
彼が目にした大阪冬の陣、夏の陣の戦場が、
極めてリアルにかつ壮絶に描写されます。
世の中をちょっと斜に見たような、
能力はあるのに、
なかなかやる気を出さない主人公は、
「鴨川ホルモー」以来、万城目さんの定番ですが、
今回も矢張りそのスタンスに魅力があり、
ねねの依頼に本気を出す当たりは、
いつもの手だな、とは思いながらも、
ワクワクする思いがします。
それだけに、予定調和的に脇役がどんどん殺され、
最後は主人公も死んで終わるラストは、
やや着地に失敗した感じがあります。
これは矢張り、
主人公は生き残らないと意味がないのではないでしょうか。
非現実的な仕掛けとして、
ひょうたんの精のようなものが、
主人公を助けるのですが、
結局「アラジンと魔法のランプ」の趣向と同工異曲のもので、
それほどの工夫なく終わってしまうのも、
万城目さんの作品としては、
物足りない感じが残ります。
これももうひと押し欲しいところです。
内容的には大阪冬の陣の描写が、
非常に優れていて、
戦争の無残さを生々しく感じさせるのですが、
クライマックスはどちらかと言うと、
ただの忍法小説のパターンになるので、
その辺りのバランスを疑問に感じるのです。
要するに山田風太郎がやりたかったのかな、
と思いますし、
そう考えると題名はそのものズバリなのですが、
忍法貼の奇想の魅力では、
風太郎が遥かに上なので、
そう見せ掛けてラストは別の方向に舵を切った方が、
より万城目さんらしい作品になったのではないかと思います。
総じて、リーダビリティはさすがですし、
読んで損はないのですが、
万城目さんとしては、
色々なものを盛り込もうとし過ぎて、
散漫になった印象がありますし、
これから何を書くべきなのか、という辺りに、
まだ試行錯誤が見える感じがします。
個人的には次作に目の覚めるような快作を、
期待したいと思います。
ただ、帯の「その時、1人対10万人」というのは、
売るための煽りだと思いますが、
確かにそうした文言は本文にあるものの、
そうした展開にはならないので、
やや誇大広告の感があります。
それではそろそろ出掛けます。
皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
診療は年末年始の休診に入っています。
いつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。
今日はこれから神奈川の実家に戻る予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
僕の大好きな万城目学(まきめまなぶ)さんの新作が、
今年の9月発売されました。
週刊文春に2年に渡り連載された、
万城目さん初めての時代物で、
最も長い長篇です。
これは同じ文藝春秋社から刊行された、
「プリンセス・トヨトミ」とちょっとした繋がりがあり、
その前日談とでも言うべきものです。
ただ、単純にそれだけのものではなく、
震災後初めての作品ということもあって、
運命に翻弄される庶民の悲哀も、
書き込まれていますし、
戦争物としての描写にも力が入っていて、
戦争や紛争の危機が、
にわかに身近なものとなった現代にも、
寄りそう内容になっています。
一読の価値は間違いなくありますが、
単行本で270ページを越えるまでは、
あまり読者をワクワクさせるようなことが起こらないので、
万城目さんのファンであれば、
期待だけで読み進むことが出来るのですが、
初めての方は挫折することもありそうです。
ただ、その後は一気呵成に物語は突き進みます。
ラストは正直、「これしかない」という感じではなく、
登場人物の辻褄を合わせただけ、
という印象があるのですが、
読者も一緒に長い旅をした、
という実感があるので、
そう失望感は残りません。
以下ネタばれがあります。
「プリンセス・トヨトミ」は、
豊臣秀吉の血を引くお姫様が、
現代でも秘かに崇拝されている、という話ですが、
「とっぴんぱらりの風太郎」は、
秀頼の生まれたばかりの娘が、
大阪夏の陣の戦場から、
如何にして救い出されたのかを、
描いた物語です。
救い出された秀頼の末裔が、
「プリンセス・トヨトミ」の茶子になる、
という仕掛けです。
ただ、それが本筋ということではなく、
庶民から見た「戦争」を描くのが眼目で、
落ちこぼれの忍者の青年を主人公に、
彼が目にした大阪冬の陣、夏の陣の戦場が、
極めてリアルにかつ壮絶に描写されます。
世の中をちょっと斜に見たような、
能力はあるのに、
なかなかやる気を出さない主人公は、
「鴨川ホルモー」以来、万城目さんの定番ですが、
今回も矢張りそのスタンスに魅力があり、
ねねの依頼に本気を出す当たりは、
いつもの手だな、とは思いながらも、
ワクワクする思いがします。
それだけに、予定調和的に脇役がどんどん殺され、
最後は主人公も死んで終わるラストは、
やや着地に失敗した感じがあります。
これは矢張り、
主人公は生き残らないと意味がないのではないでしょうか。
非現実的な仕掛けとして、
ひょうたんの精のようなものが、
主人公を助けるのですが、
結局「アラジンと魔法のランプ」の趣向と同工異曲のもので、
それほどの工夫なく終わってしまうのも、
万城目さんの作品としては、
物足りない感じが残ります。
これももうひと押し欲しいところです。
内容的には大阪冬の陣の描写が、
非常に優れていて、
戦争の無残さを生々しく感じさせるのですが、
クライマックスはどちらかと言うと、
ただの忍法小説のパターンになるので、
その辺りのバランスを疑問に感じるのです。
要するに山田風太郎がやりたかったのかな、
と思いますし、
そう考えると題名はそのものズバリなのですが、
忍法貼の奇想の魅力では、
風太郎が遥かに上なので、
そう見せ掛けてラストは別の方向に舵を切った方が、
より万城目さんらしい作品になったのではないかと思います。
総じて、リーダビリティはさすがですし、
読んで損はないのですが、
万城目さんとしては、
色々なものを盛り込もうとし過ぎて、
散漫になった印象がありますし、
これから何を書くべきなのか、という辺りに、
まだ試行錯誤が見える感じがします。
個人的には次作に目の覚めるような快作を、
期待したいと思います。
ただ、帯の「その時、1人対10万人」というのは、
売るための煽りだと思いますが、
確かにそうした文言は本文にあるものの、
そうした展開にはならないので、
やや誇大広告の感があります。
それではそろそろ出掛けます。
皆さんも良い年の瀬をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-12-30 07:20
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本年もお世話になりました。
来たる年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
お休みの間ゆっくりなされて
良い年をお迎えくださいね!☆^^
by ゆうのすけ (2013-12-31 00:14)
Dr.Ishiha今年は色々とお世話になりました。
来年も宜しくお願いします!
また大変興味深い記事をお待ち致しております。
良いお年をお迎えください。
by bpd1teikichi_satoh (2013-12-31 05:10)