何故沈降炭酸カルシウムは甲状腺機能低下症で禁忌なのか? [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
これは先日コメント欄で、
ご質問を頂いたものです。
薬の添付文書という使用の説明書には、
その薬の「禁忌」という項目があります。
「禁忌」というのは非常に強い言葉で、
ある薬がある病気で禁忌であれば、
健康保険でその病名が付いた時点で、
一切その薬の使用は出来ない、ということになります。
ただ、この禁忌と書かれている項目には、
もっともだと思うものがある一方で、
確かにそうしたこともあるけれど、
一律に禁止とするのは却って診療上の混乱を招くのではないか、
と疑問に思うようなものもあります。
たとえば風邪薬や咳止めなどに含まれる抗ヒスタミン剤は、
その多くで緑内障という目の病気が禁忌となっています。
しかし、緑内障にも多くの種類や病態があって、
実際には抗ヒスタミン剤により悪化が生じる可能性があるのは、
そのうちのごく一部です。
従って、本来はもっと緑内障の状態を限定した記載にするか、
禁忌ではなく「慎重投与」の記載にするのが妥当だと思いますが、
添付文書はそうした改定がされることはなく、
何十年も前と同じ記載になっているのです。
ただ、こうした禁忌の記載の中には、
何故それが禁忌でなければならないのか、
程度の問題ではなく、そのこと自体が、
不思議に思えるものもあります。
沈降炭酸カルシウムは、
カルシウムの補充のための薬であるとともに、
酸を中和する作用があるので胃薬でもあり、
また小腸でリンと結合してその吸収を抑制するので、
腎不全などの高リン血症の治療薬でもあります。
この沈降炭酸カルシウムの添付文書に、
甲状腺機能低下症と副甲状腺機能亢進症の患者さんには、
この薬が禁忌であることが書かれています。
このうち、副甲状腺機能亢進症については、
全く疑問はありません。
この病気は、血液のカルシウムを維持するホルモンが、
過剰に分泌されることにより、
骨が壊れて血液のカルシウムが上昇する病気です。
従って、カルシウムを含む製剤は、
病態を悪化させるので禁忌なのです。
しかし、甲状腺機能低下症はどうでしょうか?
甲状腺と副甲状腺は別物で、
甲状腺機能低下症で血液のカルシウムが上昇することは、
通常はありません。
ある沈降炭酸カルシウムの添付文書には、
「甲状腺ホルモンに対する反応が鋭敏な甲状腺機能低下症では、
高カルシウム血症は好ましくない病態であり」
という意味不明の記載があり、
これを読むと甲状腺機能低下症では、
高カルシウム血症になり易く、それが重症化し易いように思えますが、
僕の知る限りそうした事実はありません。
甲状腺機能亢進症においては、
時に高カルシウム血症を来す事例があります。
これは以前大学病院にいた時に、
自分でデータを取っていたことがあります。
甲状腺ホルモンは骨代謝を活発にするので、
骨吸収と骨形成の両方が亢進しますが、
バランス的には骨破壊が有意になるので、
通常骨塩量は低下します。
この時血液のカルシウムは変化しないことが多いのですが、
事例によってはカルシウムが上昇することもあります。
従って、甲状腺機能亢進症においては、
カルシウム製剤は注意して使用した方が良いのですが、
甲状腺機能低下症で、
そう大きくカルシウムが動くことはないと思います。
それでは何故、沈降炭酸カルシウムは甲状腺機能低下症で禁忌なのでしょうか?
こちらをご覧下さい。

2000年6月のJAMA誌に掲載された、
炭酸カルシウムとの同時服用が、
甲状腺ホルモン製剤の吸収に与える影響についての論文です。
1998年の同じJAMA誌に、
この文献のきっかけとなる症例報告が掲載されています。
それによると、
甲状腺癌の手術後に、
術後甲状腺機能低下症に対して、
甲状腺ホルモン製剤を使用していた患者さんが、
1000ミリグラムもしくは1200ミリグラムのカルシウムを同時に服用したところ、
甲状腺ホルモン製剤を充分量使用していたにも関わらず、
予期せぬ甲状腺機能低下症の悪化が認められた、
という内容になっています。
このカルシウムの服用時間を、
甲状腺ホルモン製剤と数時間ずらしたところ、
甲状腺機能は元に戻りました。
概ね4時間空ければ影響はなく、
その記載が今でも引用されています。
つまり、同時に服用したカルシウムの影響で、
甲状腺ホルモン製剤の吸収が妨害されるか、
その効力が低下するような影響が生じた可能性が高い、
という内容です。
甲状腺の手術後には、
甲状腺機能低下症と共に、
副甲状腺が切除された場合に、
血液のカルシウムの低下が起こりますから、
カルシウムの製剤とビタミンDの製剤を術後に服用するのは、
一般的な治療法です。
それで薬の相互作用により、
甲状腺機能に問題が生じるとすれば、
臨床上でも大きな問題になる訳です。
ご紹介した2000年の文献は、
そのメカニズムを検証したもので、
甲状腺ホルモンの補充療法をお行なっている、
20例の甲状腺機能低下症の患者さんに、
3ヵ月間炭酸カルシウム1200ミリグラムを同時に服用してもらい、
その前後の甲状腺機能の変化を観察しています。
甲状腺機能低下症の原因は、
橋本病、甲状腺手術後、放射性ヨード治療後、
など様々です。
結果として、
カルシウムの服用により、
血液の甲状腺ホルモンの数値は低下し、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度は上昇しています。
ただ、カルシウム使用前の平均が1.6mIU/Lから、
カルシウムの使用により2.7に上昇し、
使用中止後には1.4に低下していますから、
軽度の変化に留まっています。
実際にTSHが上昇したのは20例中13例の患者さんで、
そのうちの4例では正常上限を超えていました。
最も上昇した事例で7.8ですから、
まあごく軽度の甲状腺機能低下症のレベルです。
1998年の症例報告では、
TSHの上昇は10を超えていますから、
より顕在性の機能低下症になっています。
他にも同様の症例報告があり、
中には100を超えるような、
高度の機能低下が生じた事例もあります。
甲状腺の全摘手術後や放射性ヨードのアブレーション後では、
自前の甲状腺ホルモンの分泌は100パーセントなくなり、
全て内服した甲状腺ホルモン剤に頼らなければなりませんから、
それだけその薬剤の吸収が阻害された時の、
影響は大きいことが想定されます。
2000年の文献では橋本病の事例なども含まれていて、
その場合は自前のホルモンも一定量は分泌されているので、
そうした事例を一緒に解析しているという点が、
この文献の弱さだと思います。
それでも、ほぼ間違いのない結論として、
甲状腺ホルモン製剤とカルシウム製剤とを同時に服用すると、
事例によって甲状腺ホルモン製剤の吸収が低下し、
そのためにホルモン剤を飲んでいても、
甲状腺機能低下が悪化する、
ということが起こり得る、ということは言えると思います。
沈降炭酸カルシウムが製剤としては多いのですが、
症例報告では他のカルシウム製剤によるものもあり、
沈降炭酸カルシウムに限定して考えるべきではないと思います。
それでは、何故カルシウム製剤が甲状腺ホルモンの吸収に影響を与えるのでしょうか?
2000年の文献においては、
試験管レベルでの実験で、
胃酸と同じ酸性の環境においては、
カルシウムと甲状腺ホルモンの結合が増加し、
それだけ吸収が減少する可能性が示唆されています。
しかし、実際には甲状腺ホルモンの吸収は主に小腸で行われるので、
胃酸の影響がどの程度存在するのかは分かりません。
炭酸カルシウムと甲状腺ホルモンがキレートを形成して、
吸収が低下するとする説明が多いのですが、
あまり文献などは引かれておらず、
実際に証明された事実であるのかどうかは、
確認が出来ませんでした。
まとめますと、
沈降炭酸カルシウムの禁忌に甲状腺機能低下症が記載されているのは、
全ての甲状腺機能低下症、と言う意味ではなく、
敢くまで甲状腺ホルモン製剤を飲まれている患者さんでは、
と言う意味です。
そうした患者さんが同時に沈降炭酸カルシウムを服用すると、
甲状腺ホルモンの吸収が阻害される可能性があるので、
同時服用は避け、少なくとも4時間は、
空けて内服することが推奨されます。
従って、本来は禁忌とするのは不適切で、
禁忌は「高カルシウム血症」のみとして、
甲状腺ホルモン製剤とは併用注意と記載し、
「同時服用では効果が減弱する可能性があるので、
少なくとも4時間は間隔を空けて服用すること」
という記載が適切だと思います。
ネットで検索すると、
「ヒヤリ・ハット事例」として、
沈降炭酸カルシウムを含む市販のキャベジンと、
甲状腺ホルモンを併用した事例が取り上げられ、
あたかも深刻な被害を与えるかのように記載されていますが、
こういうものもはなはだ不適切だと思います。
胃薬の多くは沈降炭酸カルシウムに限らず、
甲状腺ホルモン製剤の吸収は阻害する可能性があるのですから、
4時間空けての服用を指示すればそれで良いので、
ことさらに禁忌を強調するのは誤りです。
説明としては、
「甲状腺ホルモンは水や電解質の排泄を増加させ、
カルシウムの代謝にも影響を与えることから、
甲状腺ホルモンの分泌に異常のある患者に炭酸カルシウムを投与すると、
高カルシウム血症をきたす恐れがある」
という文面が吸収の問題と共に記載されています。
何処の誰がこうした文言をひねり出したのかは分かりませんが、
読まれてお分かりのように意味不明で、
少なくとも甲状腺機能低下症のみで禁忌であることの、
説明にはなっていません。
甲状腺ホルモンは尿中へのカルシウムの排泄を促進しますが、
同時に骨代謝を促進しますから、
結果としては甲状腺機能亢進症では、
むしろややカルシウムは高値に傾きます。
一方で甲状腺機能低下症では、
明瞭な傾向は生じません。
尿中へのカルシウム排泄を重視すれば、
甲状腺機能低下で高カルシウムに傾きそうですが、
実際には副甲状腺ホルモンの関与がずっと大きいので、
そうした現象は起こらないのです。
これは一例に過ぎませんが、
添付文書の記載には不正確な記載や不適切な記載が多々あり、
それをまた自己流に解釈される方がいるので、
本当にややこしいことになっています。
もっと定期的な修正が必要だと思いますし、
現場の疑義がもっと直接的に記載の変更に、
反映されるような仕組みが必要なのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は水曜日なので診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。
それでは今日の話題です。
これは先日コメント欄で、
ご質問を頂いたものです。
薬の添付文書という使用の説明書には、
その薬の「禁忌」という項目があります。
「禁忌」というのは非常に強い言葉で、
ある薬がある病気で禁忌であれば、
健康保険でその病名が付いた時点で、
一切その薬の使用は出来ない、ということになります。
ただ、この禁忌と書かれている項目には、
もっともだと思うものがある一方で、
確かにそうしたこともあるけれど、
一律に禁止とするのは却って診療上の混乱を招くのではないか、
と疑問に思うようなものもあります。
たとえば風邪薬や咳止めなどに含まれる抗ヒスタミン剤は、
その多くで緑内障という目の病気が禁忌となっています。
しかし、緑内障にも多くの種類や病態があって、
実際には抗ヒスタミン剤により悪化が生じる可能性があるのは、
そのうちのごく一部です。
従って、本来はもっと緑内障の状態を限定した記載にするか、
禁忌ではなく「慎重投与」の記載にするのが妥当だと思いますが、
添付文書はそうした改定がされることはなく、
何十年も前と同じ記載になっているのです。
ただ、こうした禁忌の記載の中には、
何故それが禁忌でなければならないのか、
程度の問題ではなく、そのこと自体が、
不思議に思えるものもあります。
沈降炭酸カルシウムは、
カルシウムの補充のための薬であるとともに、
酸を中和する作用があるので胃薬でもあり、
また小腸でリンと結合してその吸収を抑制するので、
腎不全などの高リン血症の治療薬でもあります。
この沈降炭酸カルシウムの添付文書に、
甲状腺機能低下症と副甲状腺機能亢進症の患者さんには、
この薬が禁忌であることが書かれています。
このうち、副甲状腺機能亢進症については、
全く疑問はありません。
この病気は、血液のカルシウムを維持するホルモンが、
過剰に分泌されることにより、
骨が壊れて血液のカルシウムが上昇する病気です。
従って、カルシウムを含む製剤は、
病態を悪化させるので禁忌なのです。
しかし、甲状腺機能低下症はどうでしょうか?
甲状腺と副甲状腺は別物で、
甲状腺機能低下症で血液のカルシウムが上昇することは、
通常はありません。
ある沈降炭酸カルシウムの添付文書には、
「甲状腺ホルモンに対する反応が鋭敏な甲状腺機能低下症では、
高カルシウム血症は好ましくない病態であり」
という意味不明の記載があり、
これを読むと甲状腺機能低下症では、
高カルシウム血症になり易く、それが重症化し易いように思えますが、
僕の知る限りそうした事実はありません。
甲状腺機能亢進症においては、
時に高カルシウム血症を来す事例があります。
これは以前大学病院にいた時に、
自分でデータを取っていたことがあります。
甲状腺ホルモンは骨代謝を活発にするので、
骨吸収と骨形成の両方が亢進しますが、
バランス的には骨破壊が有意になるので、
通常骨塩量は低下します。
この時血液のカルシウムは変化しないことが多いのですが、
事例によってはカルシウムが上昇することもあります。
従って、甲状腺機能亢進症においては、
カルシウム製剤は注意して使用した方が良いのですが、
甲状腺機能低下症で、
そう大きくカルシウムが動くことはないと思います。
それでは何故、沈降炭酸カルシウムは甲状腺機能低下症で禁忌なのでしょうか?
こちらをご覧下さい。

2000年6月のJAMA誌に掲載された、
炭酸カルシウムとの同時服用が、
甲状腺ホルモン製剤の吸収に与える影響についての論文です。
1998年の同じJAMA誌に、
この文献のきっかけとなる症例報告が掲載されています。
それによると、
甲状腺癌の手術後に、
術後甲状腺機能低下症に対して、
甲状腺ホルモン製剤を使用していた患者さんが、
1000ミリグラムもしくは1200ミリグラムのカルシウムを同時に服用したところ、
甲状腺ホルモン製剤を充分量使用していたにも関わらず、
予期せぬ甲状腺機能低下症の悪化が認められた、
という内容になっています。
このカルシウムの服用時間を、
甲状腺ホルモン製剤と数時間ずらしたところ、
甲状腺機能は元に戻りました。
概ね4時間空ければ影響はなく、
その記載が今でも引用されています。
つまり、同時に服用したカルシウムの影響で、
甲状腺ホルモン製剤の吸収が妨害されるか、
その効力が低下するような影響が生じた可能性が高い、
という内容です。
甲状腺の手術後には、
甲状腺機能低下症と共に、
副甲状腺が切除された場合に、
血液のカルシウムの低下が起こりますから、
カルシウムの製剤とビタミンDの製剤を術後に服用するのは、
一般的な治療法です。
それで薬の相互作用により、
甲状腺機能に問題が生じるとすれば、
臨床上でも大きな問題になる訳です。
ご紹介した2000年の文献は、
そのメカニズムを検証したもので、
甲状腺ホルモンの補充療法をお行なっている、
20例の甲状腺機能低下症の患者さんに、
3ヵ月間炭酸カルシウム1200ミリグラムを同時に服用してもらい、
その前後の甲状腺機能の変化を観察しています。
甲状腺機能低下症の原因は、
橋本病、甲状腺手術後、放射性ヨード治療後、
など様々です。
結果として、
カルシウムの服用により、
血液の甲状腺ホルモンの数値は低下し、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)の濃度は上昇しています。
ただ、カルシウム使用前の平均が1.6mIU/Lから、
カルシウムの使用により2.7に上昇し、
使用中止後には1.4に低下していますから、
軽度の変化に留まっています。
実際にTSHが上昇したのは20例中13例の患者さんで、
そのうちの4例では正常上限を超えていました。
最も上昇した事例で7.8ですから、
まあごく軽度の甲状腺機能低下症のレベルです。
1998年の症例報告では、
TSHの上昇は10を超えていますから、
より顕在性の機能低下症になっています。
他にも同様の症例報告があり、
中には100を超えるような、
高度の機能低下が生じた事例もあります。
甲状腺の全摘手術後や放射性ヨードのアブレーション後では、
自前の甲状腺ホルモンの分泌は100パーセントなくなり、
全て内服した甲状腺ホルモン剤に頼らなければなりませんから、
それだけその薬剤の吸収が阻害された時の、
影響は大きいことが想定されます。
2000年の文献では橋本病の事例なども含まれていて、
その場合は自前のホルモンも一定量は分泌されているので、
そうした事例を一緒に解析しているという点が、
この文献の弱さだと思います。
それでも、ほぼ間違いのない結論として、
甲状腺ホルモン製剤とカルシウム製剤とを同時に服用すると、
事例によって甲状腺ホルモン製剤の吸収が低下し、
そのためにホルモン剤を飲んでいても、
甲状腺機能低下が悪化する、
ということが起こり得る、ということは言えると思います。
沈降炭酸カルシウムが製剤としては多いのですが、
症例報告では他のカルシウム製剤によるものもあり、
沈降炭酸カルシウムに限定して考えるべきではないと思います。
それでは、何故カルシウム製剤が甲状腺ホルモンの吸収に影響を与えるのでしょうか?
2000年の文献においては、
試験管レベルでの実験で、
胃酸と同じ酸性の環境においては、
カルシウムと甲状腺ホルモンの結合が増加し、
それだけ吸収が減少する可能性が示唆されています。
しかし、実際には甲状腺ホルモンの吸収は主に小腸で行われるので、
胃酸の影響がどの程度存在するのかは分かりません。
炭酸カルシウムと甲状腺ホルモンがキレートを形成して、
吸収が低下するとする説明が多いのですが、
あまり文献などは引かれておらず、
実際に証明された事実であるのかどうかは、
確認が出来ませんでした。
まとめますと、
沈降炭酸カルシウムの禁忌に甲状腺機能低下症が記載されているのは、
全ての甲状腺機能低下症、と言う意味ではなく、
敢くまで甲状腺ホルモン製剤を飲まれている患者さんでは、
と言う意味です。
そうした患者さんが同時に沈降炭酸カルシウムを服用すると、
甲状腺ホルモンの吸収が阻害される可能性があるので、
同時服用は避け、少なくとも4時間は、
空けて内服することが推奨されます。
従って、本来は禁忌とするのは不適切で、
禁忌は「高カルシウム血症」のみとして、
甲状腺ホルモン製剤とは併用注意と記載し、
「同時服用では効果が減弱する可能性があるので、
少なくとも4時間は間隔を空けて服用すること」
という記載が適切だと思います。
ネットで検索すると、
「ヒヤリ・ハット事例」として、
沈降炭酸カルシウムを含む市販のキャベジンと、
甲状腺ホルモンを併用した事例が取り上げられ、
あたかも深刻な被害を与えるかのように記載されていますが、
こういうものもはなはだ不適切だと思います。
胃薬の多くは沈降炭酸カルシウムに限らず、
甲状腺ホルモン製剤の吸収は阻害する可能性があるのですから、
4時間空けての服用を指示すればそれで良いので、
ことさらに禁忌を強調するのは誤りです。
説明としては、
「甲状腺ホルモンは水や電解質の排泄を増加させ、
カルシウムの代謝にも影響を与えることから、
甲状腺ホルモンの分泌に異常のある患者に炭酸カルシウムを投与すると、
高カルシウム血症をきたす恐れがある」
という文面が吸収の問題と共に記載されています。
何処の誰がこうした文言をひねり出したのかは分かりませんが、
読まれてお分かりのように意味不明で、
少なくとも甲状腺機能低下症のみで禁忌であることの、
説明にはなっていません。
甲状腺ホルモンは尿中へのカルシウムの排泄を促進しますが、
同時に骨代謝を促進しますから、
結果としては甲状腺機能亢進症では、
むしろややカルシウムは高値に傾きます。
一方で甲状腺機能低下症では、
明瞭な傾向は生じません。
尿中へのカルシウム排泄を重視すれば、
甲状腺機能低下で高カルシウムに傾きそうですが、
実際には副甲状腺ホルモンの関与がずっと大きいので、
そうした現象は起こらないのです。
これは一例に過ぎませんが、
添付文書の記載には不正確な記載や不適切な記載が多々あり、
それをまた自己流に解釈される方がいるので、
本当にややこしいことになっています。
もっと定期的な修正が必要だと思いますし、
現場の疑義がもっと直接的に記載の変更に、
反映されるような仕組みが必要なのではないでしょうか。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-12-25 08:02
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コメント(3)
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文献的考察が確かで参考になりました。
by 坂田 利家 (2015-10-05 14:12)
薬剤師です。本日、職場で患者さんから尋ねられ webに 先生のコラムを見つけ、文献、臨床の話などあり 参考になりました。ありがとうございます。
by 小林美雪 (2016-04-27 04:09)
ありがとうございます。
すごく疑問に思っていたことがすっきりいたしました。
by コマツ (2016-06-23 13:44)