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薬剤師さん、ごめんなさい [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日は雑談です。

診療所は院外処方なので、
診察の後で処方箋を発行し、
それを調剤薬局でお薬に変えてもらうことになります。

その処方箋に不備があったり、
薬の組み合わせや量などについて、
薬剤師さんの目から見て疑問の点があると、
診療所に問い合わせの電話が入ることになります。

処方医の立場としては、
完璧な処方でなければなりませんし、
そう心掛けてはいるのですが、
実際には頻繁に電話が掛かって来ます。

その多くは、申し訳ありません、凡ミスやうっかりミスです。

この点で僕のような底辺の医者は、
薬のプロである薬剤師の皆さんには頭が上がりません。

ミスにも色々なものがあり、
ちょっと気を付ければ防げるものもあれば、
防ぐことが難しいものも中にはあります。

先日こんなことがありました。

30代の女性の方が初診で診療所を受診され、
1年前の受診歴は残っていたのですが、
そこでは特にご病気はありませんでした。

風邪症状の後で咳が止まり難いという訴えで、
これは今しばしば見られるものです。
熱はなく全身状態は特に問題はありません。
咳は咽喉がむず痒い感じで始まり、
一旦出てしまうとなかなか止まりません。
咽喉を見ても腫れはなく、
聴診器で呼吸音を聞いても特に異常はありません。

数日前に他の医療機関を受診して、
その時の処方はニューキノロン系の抗生物質であるクラビットと、
痰切れの薬であるムコダインの2種類でした。

咳の風邪に検査をしないですぐクラビットというのは、
比較的よく出される処方ですが、
ネットなどで著明な某先生などからは、
目を吊り上げて、バカ医者と、
吊るし上げに遭うこと必至の処方です。

処方した理屈は、
咳風邪にはマイコプラズマやクラミジアの感染の事例があり、
その場合第一選択のマクロライド系の抗生物質には、
現在は耐性菌が多いので、
耐性菌の少ないニューキノロンを使用しよう、
という考え方です。

ただ、
マイコプラズマの肺炎では、
病初期から発熱は必発で、
本来は肺炎の有無をレントゲンなどで確認するべきですし、
軽症の事例で本当に抗生物質の使用が、
予後の改善に結び付くという根拠はありません。
また、特に結核の流行地域においては、
ニューキノロンの使用により、
結核が見落とされたり、
その予後が悪化する、という、
海外の報告もあります。

従って、咳の風邪と思われる患者さんに対してのニューキノロンの使用は、
あくまで慎重でないといけないのです。

余談でした。
話を元に戻します。

クラビットの処方は4日間だったので、
僕はその使用はそのまま続けてもらい、
それに加えて喘息にも使用する抗アレルギー剤と、
シロップの咳止めを処方しました。

患者さんが診療所を出てしばらくしてから、
調剤薬局から電話が入りました。

その患者さんは緑内障で点眼薬の処方を受けているので、
シロップの咳止めは禁忌で使えない、
と言うのです。

こうしたことは結構あります。

風邪薬や咳止めなどに含まれている、
抗ヒスタミン剤は、
抗コリン作用を持っているので、
緑内障には禁忌です。

精神科や心療内科で使用される薬剤の大多数には、
矢張り抗コリン作用があるので緑内障には禁忌です。

腹痛や結石の痛みに使用されるブスコパンも、
抗コリン剤なので緑内障には禁忌です。

ただ、実際には一口に緑内障と言っても、
その程度は様々で、
その病態も異なりますから、
その全てにおいて、
同じように悪化のリスクがあるとは言い切れません。

実際に心療内科の患者さんのケースなどでは、
緑内障の点眼をしているからと言って、
処方を中止するのは現実的ではないので、
眼科の先生に問い合わせをすると、
問題ないので使って下さい、と言われることが殆どです。

抗ヒスタミン剤やそれを含む処方を出す時には、
従って緑内障と男性では前立腺肥大の有無の問診が、
必須なのですが、
せわしないとうっかりすることがあります。

今回は以前の初診時に既往症なしであったことと、
30代の女性であったことから、
あまりその可能性を考えずに、
特に聞くことなくそのまま処方してしまいました。

僕のミスです。

ただ、多くの緑内障の点眼の処方は、
問題のないケースが臨床上は多いので、
僕は薬剤師さんからお電話で指摘を受けた時に、
そんなことをちょっと言い訳めいた感じで話しました。

すると、ちょっと木で鼻を括ったような感じで、
「でも、全ての緑内障は禁忌になっていますから」
と言われたので、
いけないことなのですが、
ちょっとカチンときてしまい、
やや攻撃的な感じの受け答えになってしまいました。

電話を切ってすぐ反省しましたが、
こういうのは後の祭りです。

患者さんには申し訳なかったのですが、
もう一度診療所まで戻って来て頂き、
お詫びをして悩んだ末に麦門冬湯を出しました。
これも馬鹿の何とか…みたいな漢方の使い方で、
本当はしたくなかったのですが、
考える時間もなく、
何となくお茶を濁す感じになりました。

こういうことが一度あると、
もう絶対にないようにしよう、
と心に誓うのですが、
それでも忙しさに紛れて、
つい凡ミスをしてしまうことがあり、
それを指摘されると、
つい大人げない態度を取り、
大人げない言葉を発してしまうことがあります。

僕は性質として、
そうしたことが1つあると、
2日くらいはウジウジと悩んでしまうので、
そんなダメージを食らうくらいなら、
気を付ければ良いのに、と思うのですが、
なかなか難しいところです。

今日の話は端的に言えば、
「薬剤師さん、ごめんなさい」
ということです。

いつも教えて頂いてばかりなのに、
つい卑小などうでもよいプライドもどきが頭を出して、
腹を立ててしまう心の貧しさをお許し下さい。

今日もよろしくお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

底辺薬剤師

石原先生。
毎朝、勉強させていただいております。
緑内障の禁忌は、メーカーの怠慢と厚労省の指導不足だと考えています。
隅角閉塞緑内障禁忌と添付文書を改訂すれば良いことなのに、風邪シーズンは本当にこの一手間に多くの時間を取られてしまいます。
我々も保険のシステムのためとは言え、いつも、「先生ごめんなさい!」と思いながら電話しています。
これからも、楽しくためになるブログを楽しみにしております。
by 底辺薬剤師 (2013-12-11 09:33) 

オレンジ

石原先生。今回のお話興味深かったです。
私も30代の女性ですが、1年前の人間ドックで両眼の緑内障がわかり、
以降点眼治療をしています。
1日1滴さすだけであり、自覚症状も全くないこともあり、
私自身も自分が緑内障であるという自覚が薄いような気がします。

市販の風邪薬をよく見ると、緑内障の患者は禁忌と書かれていますね。
以前、うっかり飲んでしまった後で気づいて不安になり、
MRの方に聞くと「そう書いてあるけど実際は問題ない」と言われてほっと安心した経験があります。

風邪などで病院にいく際には緑内障である旨忘れずに
きちんとお医者様にお伝えしたいと思いました。
by オレンジ (2013-12-11 11:13) 

ごぶりん

添付文書を鵜呑みにして疑義をかけて来る薬剤師さんに迷惑している医師も多いかと思います。(例えば妊婦さんや授乳婦さんへの投与とか)
この場合だと、薬剤師が患者さんに隅角閉塞なのか開放なのか確認して、更に緑内障治療を受けている担当医から抗コリン剤の服用について何か説明を受けているか、また緑内障発症後に服用した薬歴を確認したり、場合によっては患者さんの許可を得て眼科医に問い合わせたうえで、疑義すべきじゃないかなぁと思うんですが。
薬剤師は薬の事だけに専念できるのでそれ位しないと存在意義がないと思います。


by ごぶりん (2013-12-11 12:51) 

北岡

いつも、勉強になるお話をありがとうございます。
今回の話題もなるほど。。という内容で何度も経験しています。されど、他の方が仰っていますように、緑内障と一括りにいっても、様々ありますし、急性挟隅角内閉塞の緑内障であるかは、患者さん本人に尋ねてもわからない、です。だから添付文書の禁忌には不満を持つ事がありますね。難しいです。
また、勉強させていただきます。
by 北岡 (2013-12-11 21:19) 

89314

私は緑内障or前立腺肥大の患者さんに抗コリン薬が出た場合は
抗コリン薬を処方した医師ではなく、担当眼科医or泌尿器科医に
電話かけます。

たいてい風邪薬で疑義かけるので「短期なら問題ない。」以外の
答えが返ってきたことはありません。
by 89314 (2013-12-11 21:25) 

ごぶりん

眼科の門前薬局にいるんで必ず緑内障のタイプはチェックしてますよ。閉塞or開放隅角を知っている患者さんもおられるし、そうでなければ発症からの治療経過を事細かに伺えば大体どちらのタイプか分かりますです。チェックしとかないと他の病院処方薬又はOTC薬との相互作用チェックができませんもん。
by ごぶりん (2013-12-11 23:47) 

fujiki

皆さんへ
コメントありがとうございます。
大変参考になりました。
緑内障の禁忌については、
もう少し添付文書の記載なども、
現実的に整理されると良いと思いますし、
併用リスクの高い病変について、
眼科の先生からの何らかの振り分けにようなものも、
薬局や他科医療機関との間で、
連携がスムースに取れるようになることが、
望まれていると思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-12-12 08:26) 

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