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ディオバンのことその他のこと [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から書類など書いて、
それから今PCに向かっています。
連休明けでどうも調子が出ませんが、
どうにか頑張ります。

それでは今日の話題です。

今日は雑談です。

ディオバン(一般名バルサルタン)をめぐる、
日本の臨床試験のデータ捏造問題が、
収束に向かうどころか拡散を続けています。

先日は滋賀医科大学が主導して、
慈恵医科大学の試験と同時期に行われた、
SMARTと呼ばれる試験のデータも、
ほぼ改竄されていたことが発表されました。

この試験は例数は150例という小規模の試験ですが、
ディオバンと、
広く使用されている、
アムロジピンという降圧剤とを比較し、
血圧は同一に低下させながら、
半年の経過観察で、
アムロジピンはおしっこのアルブミンという蛋白質が、
増加しているのに対して、
ディオバンではそれが低下しているという結果が、
極めて明確に示されているものです。

おしっこに出るアルブミンは、
高血圧による腎機能の低下の、
初期の検査所見であると考えられているので、
この結果は、広く使用されているアムロジピンと比較して、
ディオバンを使用した方が、
将来の患者さんの腎機能の低下を、
抑制することが出来る可能性を示唆しています。

しかし、タネを明かされた手品を見ているのですから、
当然のことなのですが、
今にして思うと、
これだけの例数で、
こんなクリアが結果が出るのは、
どう考えても作為が加わっているとしか思えません。

アムロジピンを使用した群と、
ディオバンを使用した群とで、
血圧の数値自体が物の見事に一致していて、
これは慈恵医科大学の試験や、
京都府立医大の試験と、全く同一の傾向です。

つまり、同じ人間の手が加わっている可能性が、
非常に高いと思われます。

捏造を一体誰がしたのでしょうか?

この点については、
製薬会社と大学側の見解はいずれの事例においても、
明確に対立しています。
大学側は元製薬会社の研究員が、
勝手に数値を操作して不正をした、
と言わんばかりですが、
製薬会社側は関与は限定的だと強調しています。

本来はお金は製薬会社から出ているにしても、
研究の実施の主体は大学の研究者にある筈ですから、
元製薬会社の研究員が数字の操作を行なったとしても、
責任の主体は研究の実際の主体にこそあるべきですが、
当事者がそうは言えないという辺りに、
問題の根の深さが窺えます。

今後の処方への対応という面でも、
色々な意見があります。

僕は個人的には、
処方を大きくは変えない、という方針で、
不安に思われる方には、
他剤への変更は行なっていますが、
特定の薬剤にシフトさせる、ということはしていません。

ACE阻害剤に変えるべきである、とか、
いやいや利尿剤に変えるべきである、
というような発言をされている医療者の方もいますが、
一般論としてそうした言い方をするのは、
軽率であるように個人的には思います。

利尿剤もACE阻害剤も、
これまでには広く使用されてきた歴史があり、
しかしディオバンのような薬剤にシフトして来た背景には、
意外にその副作用が厄介であったり、
健康保険上の用量設定が、
実状に合わないものであったり、
という経緯があり、
簡便に使用出来る薬剤に、
自然に移行していった、という意味合いもあるからです。

勿論安易に流れ過ぎた弊害は、
臨床医の反省すべき点ではありますが、
全てを利尿剤に変更すればそれでOK,
というような言説は軽率に過ぎると思います。
安易にそうした流れになれば、
絶対にそれはそれで問題が起こりますし、
患者さんにも不利益が生じます。
利尿剤は意外にリスクのある薬なのです。
あくまでケースバイケースで考えるべきことで、
ディオバンのようなタイプの薬が、
適している事例も当然あるのだと思います。

SNSなどで毒々しく粘着質なことを言われる、
少数の例外が目立つので、そうは見えませんが、
大多数の医者は非常に従順で勉強熱心で、
権威を愛する傾向があるように、
個人的には思います。

偉い先生が「ディオバンが良いよ」と言われれば、
真面目にその先生の書いた記事を読み、
その先生の講演を聞いて、
その通りに処方を出すのです。

意見を鵜呑みにする訳ではないのです。
それなりに勉強して、考えた上でそうするのですが、
それでも権威には従順する傾向は強いので、
あまり結論に対しての疑問は感じないのです。

それが今回のようなことがあると、
一体何を信じれば良いのか、
ということになり、
今度はこうした先生を批判して、
やや過激な内容を大きな声でネット発信するような、
ネットの人気者に、
乗り換えて従順さを示す、
ということになりがちです。

ただ、僕は個人的には、
過激な言説に従順になることは、
たとえそこに一面の真理があるにしても、
リスクが却って大きいように思えてなりません。

総じてやはり詰らないことを言う偉い先生の方が、
従順である対象としては適しているのです。

ただ、そうした先生が、
同じような種別の2つの薬のうち、
どちらか一方を良い薬のように言う時は、
その情報については、
基本的に耳を塞いでいるのが賢明なように思います。

あんなことがあったのにも関わらず、
製薬会社のパンフレットには矢張り、
大学教授といった立場の先生が、
同じように新薬の宣伝すれすれのご発言や記述を繰り返していて、
こうしたものを目にすると、
絶望的な気分にもなるのですが、
そうしたご発言や記述に不適切な点があれば、
常に批判の声を挙げてゆくのが、
末端の医療者としても、
今後は求められてゆくのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 1

akemi

先生、こんばんは。
吟味して選んだつもりの道でも
偏った情報や権威者に誘導? されていたことに
気づいたときの虚しさややるせなさは
どの仕事の世界でも味わうものなのですね。

「常に批判の声を挙げてゆく」
心に刻みました。

最近第1号の記事から読み始め
週末のお話に夢中です。
(あ、医療関係もちゃんと勉強させていただいてます)
奈良の物語、楽しみにしています・・・
お忙しいと思いますが是非お書き下さいね。




by akemi (2013-11-05 19:19) 

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