西加奈子集成(その3) [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は診療はいつも通りですが、
夜から奈良に行くので、
明日の更新はお休みとさせて頂きます。
土曜日なので趣味の話題です。
西加奈子さんの作品を年代順にレビューする3回めです。
まずこちらから。
⑨「うつくしい人」
前作の「窓の魚」に続いて、
非常に暗く地味なムードの作品です。
孤独なOLが仕事を辞めて、
離島のホテルに滞在し、
そこで謎の外国人やバーテンと出逢い、
最終的に生きる希望を取り戻す、
というような話です。
主人公の家族との葛藤も描かれますが、
それほどの膨らみを持って、
物語に関わる、ということはありません。
作者自身の、かなり行き詰まった感じが、全編に漂っていて、
読んでいて息苦しいような思いさえします。
ただ、描写は非常に平板で単調なので、
フィクションを読むという楽しみには乏しく、
モノトーンの作者の夢の世界を、
そのまま提示されたような気分になります。
島の風景も全く目に浮かびませんし、
謎めいた人物も、
書き割りのようにしか感じません。
明確に失敗作だと思いますが、
作者の精神の中では、
この夢の放浪のような作品が、
その後の脱皮のためには、
不可欠であったのかも知れません。
これはコアな西さんのファン以外には、
あまりお薦めは出来ません。
⑩「きりこについて」
「きりこは、ぶすである。」という、
ドキリとする一文から始まるファンタジー色の強い作品で、
久しぶりに西加奈子節とでも言うべき、
多彩なレトリックと関西弁が乱れ飛ぶ、
初期からのファンには、
懐かしい世界が展開されます。
三年寝太郎みたいな感じもありますし、
一種の民話的な世界で、
登場する奇矯な人物達や猫達も、
それぞれにかっちりと描けています。
ただ、ぶすの女の子が、
自分がぶすと認識されていることに、
気付くまでを描く前半は、
かなり「イタイ」話になっていて、
そのささくれ立った感じが、
好き嫌いの分かれるところだと思います。
引きこもり以降の後半は、
一気にファンタジー色が強まり、
牧歌的なムードになります。
別に意外性がある、という訳ではないのですが、
語り手が最後に姿を現すと、
最初の暴言めいた一文が、
そうではなかったことになる締め括りも、
洒落ていて悪くありません。
非常に面白いのですが、
初期の「あおい」や「さくら」に比べると、
勢いはあまり感じることがなく、
印象はもっと内省的で、
はしょったような短さも、
少し物足りなく感じます。
一時のどん底より、
突き抜けた感じはあるのですが、
まだ本調子ではないな、
というように思いました。
⑪「炎上する君」
西さんの2冊目の短編集で、
8編の作品が収められてます。
最初の「太陽の上」こそ、
いつもの風俗描写の小品ですが、
その後は奇想天外なファンタジー色の強い作品が並びます。
2番目の「空を待つ」が、
目の覚めるような傑作で、
これは一読鳥肌が立ちました。
息をのむほど美しい夕焼けの空の下、
「あいたい、どこにいますか。」というメールに、
返事が返って来た時の戦慄的な感動は、
まさに天才の筆のなせる業です。
これは本当に小品ながら、
最近では小説を読んで、
最も感動したかも知れません。
前例のない話ではないと思いますが、
この鋭利な洗練度は最高です。
かと思うと3番目の「甘い果実」は、
着地に失敗して転んだような、
おやおやという凡作で、
西加奈子は本当に油断がなりません。
「空を待つ」に準じるのが、
表題作の「炎上する君」で、
これも奇怪な題名に、
決して名前負けしていない怪作で、
コンパクトな絶叫マシーンように、
鬱屈した天才少女2人の、
迷宮のような心の闇を、
スリリングに駆け抜けて、
間然とするところがありません。
この2編以外は正直出来はかなり落ちますが、
それでも奇想の世界に、
心地良く身を委ねることは出来ます。
非常なお薦めですが、
僕のようには感動しない方も多いかも知れません。
こうしたものを読むと、
「きりこについて」などは、
矢張り長さの割に、
水増しされた物足りなさを感じます。
⑫「白いしるし」
これはまた、藝術家同士の恋愛を描いた、
ダークな恋愛小説で、
「窓の魚」や「きれいな人」の系譜に属する作品です。
前半は勢いがあって面白いのですが、
後半はかなり内省的で平坦な感じになり、
無理矢理のようなラストは、
ちょっと一貫性を欠いているように思います。
文体はただ一時期より練れて来ていて、
「窓の魚」の頃の、如何にも何処かから、
借りて来たような感じではなく、
「あおい」や「さくら」の頃とは違う、
しかし西加奈子独自の文体に、
近付いているようには思えます。
次作の「円卓」からは、
また1つ抜けた感じになりますが、
それ以降はまた後日にまとめたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は診療はいつも通りですが、
夜から奈良に行くので、
明日の更新はお休みとさせて頂きます。
土曜日なので趣味の話題です。
西加奈子さんの作品を年代順にレビューする3回めです。
まずこちらから。
⑨「うつくしい人」
前作の「窓の魚」に続いて、
非常に暗く地味なムードの作品です。
孤独なOLが仕事を辞めて、
離島のホテルに滞在し、
そこで謎の外国人やバーテンと出逢い、
最終的に生きる希望を取り戻す、
というような話です。
主人公の家族との葛藤も描かれますが、
それほどの膨らみを持って、
物語に関わる、ということはありません。
作者自身の、かなり行き詰まった感じが、全編に漂っていて、
読んでいて息苦しいような思いさえします。
ただ、描写は非常に平板で単調なので、
フィクションを読むという楽しみには乏しく、
モノトーンの作者の夢の世界を、
そのまま提示されたような気分になります。
島の風景も全く目に浮かびませんし、
謎めいた人物も、
書き割りのようにしか感じません。
明確に失敗作だと思いますが、
作者の精神の中では、
この夢の放浪のような作品が、
その後の脱皮のためには、
不可欠であったのかも知れません。
これはコアな西さんのファン以外には、
あまりお薦めは出来ません。
⑩「きりこについて」
「きりこは、ぶすである。」という、
ドキリとする一文から始まるファンタジー色の強い作品で、
久しぶりに西加奈子節とでも言うべき、
多彩なレトリックと関西弁が乱れ飛ぶ、
初期からのファンには、
懐かしい世界が展開されます。
三年寝太郎みたいな感じもありますし、
一種の民話的な世界で、
登場する奇矯な人物達や猫達も、
それぞれにかっちりと描けています。
ただ、ぶすの女の子が、
自分がぶすと認識されていることに、
気付くまでを描く前半は、
かなり「イタイ」話になっていて、
そのささくれ立った感じが、
好き嫌いの分かれるところだと思います。
引きこもり以降の後半は、
一気にファンタジー色が強まり、
牧歌的なムードになります。
別に意外性がある、という訳ではないのですが、
語り手が最後に姿を現すと、
最初の暴言めいた一文が、
そうではなかったことになる締め括りも、
洒落ていて悪くありません。
非常に面白いのですが、
初期の「あおい」や「さくら」に比べると、
勢いはあまり感じることがなく、
印象はもっと内省的で、
はしょったような短さも、
少し物足りなく感じます。
一時のどん底より、
突き抜けた感じはあるのですが、
まだ本調子ではないな、
というように思いました。
⑪「炎上する君」
西さんの2冊目の短編集で、
8編の作品が収められてます。
最初の「太陽の上」こそ、
いつもの風俗描写の小品ですが、
その後は奇想天外なファンタジー色の強い作品が並びます。
2番目の「空を待つ」が、
目の覚めるような傑作で、
これは一読鳥肌が立ちました。
息をのむほど美しい夕焼けの空の下、
「あいたい、どこにいますか。」というメールに、
返事が返って来た時の戦慄的な感動は、
まさに天才の筆のなせる業です。
これは本当に小品ながら、
最近では小説を読んで、
最も感動したかも知れません。
前例のない話ではないと思いますが、
この鋭利な洗練度は最高です。
かと思うと3番目の「甘い果実」は、
着地に失敗して転んだような、
おやおやという凡作で、
西加奈子は本当に油断がなりません。
「空を待つ」に準じるのが、
表題作の「炎上する君」で、
これも奇怪な題名に、
決して名前負けしていない怪作で、
コンパクトな絶叫マシーンように、
鬱屈した天才少女2人の、
迷宮のような心の闇を、
スリリングに駆け抜けて、
間然とするところがありません。
この2編以外は正直出来はかなり落ちますが、
それでも奇想の世界に、
心地良く身を委ねることは出来ます。
非常なお薦めですが、
僕のようには感動しない方も多いかも知れません。
こうしたものを読むと、
「きりこについて」などは、
矢張り長さの割に、
水増しされた物足りなさを感じます。
⑫「白いしるし」
これはまた、藝術家同士の恋愛を描いた、
ダークな恋愛小説で、
「窓の魚」や「きれいな人」の系譜に属する作品です。
前半は勢いがあって面白いのですが、
後半はかなり内省的で平坦な感じになり、
無理矢理のようなラストは、
ちょっと一貫性を欠いているように思います。
文体はただ一時期より練れて来ていて、
「窓の魚」の頃の、如何にも何処かから、
借りて来たような感じではなく、
「あおい」や「さくら」の頃とは違う、
しかし西加奈子独自の文体に、
近付いているようには思えます。
次作の「円卓」からは、
また1つ抜けた感じになりますが、
それ以降はまた後日にまとめたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-11-02 08:25
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