吐き気止めの妊娠中の安全性について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
妊娠中の吐き気止めの安全性についての論文です。
こうした研究は、
地味ですが臨床には非常に役立つものなのです。
妊娠中に使用する薬の安全性というのは、
臨床医であれば産婦人科でなくても、
誰もが経験し、かつ頭を悩ませる問題です。
薬の安全性は製薬会社が一番情報を持っている筈ですが、
殆どの薬の資料には、
「妊娠中の安全性は確立されていない」のような、
決まった冷たい文面が書かれているだけで、
実際の医療者の判断に役立つような情報は、
まず間違いなく書かれていません。
動物実験のデータなどは添付されていますが、
妊娠中に安全に使用されている薬でも、
動物実験ではしばしば胎児への毒性を、
示唆するようなデータがありますから、
必ずしも動物実験のデータが、
そのまま人間に直結するものではありません。
逆に動物では安全であったのに、
人間では予期せぬ副作用、というようなこともあります。
人体実験のそしりを受けるかも知れませんが、
これはもう、実際にリスクをおかして処方された事例を、
集積して検討するしかないのです。
妊娠初期の吐き気や嘔吐というのは、
妊娠された女性の半数以上は経験する、
極めて一般的な症状です。
勿論薬を使わずに対応可能であれば良いのですが、
上記文献の記載にある海外データでは、
実際には10から15%の方は吐き気止めなどの使用が、
行なわれることになるようです。
第一選択は抗ヒスタミン剤とビタミンB6製剤ですが、
それが無効の場合には、
しばしばメトクロプラミド(商品名プリンペランなど)が使用されます。
メトクロプラミドは、
中枢性にドーパミンを抑制する作用を持つ吐き気止めですが、
高齢者における継続的使用で、
パーキンソン様症状が出現したり、
褐色細胞腫というホルモン性の高血圧があると、
血圧の上昇する発作が誘発される、
などの注意点はありますが、
概ね健康成人で一時的な吐き気止めとして使用するには、
その有効性が確立している薬です。
使用経験も多いので、
妊娠中にもしばしば使用され、
その安全性を示唆する疫学データも複数存在しています。
しかし、
その中身を検討してみると、
胎児死亡についてのデータは乏しく、
奇形の発症のリスクについても、
個別の疾患毎には検討されていない、
などの不充分な点がありました。
そこで今回の文献においては、
国民総背番号制を取るデンマークにおいて、
妊娠中のメトクロプラミドの使用と、
妊娠の転帰やお子さんの奇形などの異常との関連性を、
28000人余の処方された妊婦と、
その4倍でマッチングされた処方されていない妊婦とを比較して、
この薬剤の妊娠中の安全性を検証しています。
その結果、
代表的な先天異常の疾患の発症についても、
自然流産などの妊娠中のトラブルについても、
メトクロプラミドの使用との関連性は認められませんでした。
従って、
妊娠中に吐き気止めの使用が必要な場合には、
同種の薬剤との比較において、
まずはメトクロプラミドを検討するのが、
適切であると考えられます。
こうした1つ1つのデータの蓄積により、
より安全にご妊娠が継続されるように、
今後の研究を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
妊娠中の吐き気止めの安全性についての論文です。
こうした研究は、
地味ですが臨床には非常に役立つものなのです。
妊娠中に使用する薬の安全性というのは、
臨床医であれば産婦人科でなくても、
誰もが経験し、かつ頭を悩ませる問題です。
薬の安全性は製薬会社が一番情報を持っている筈ですが、
殆どの薬の資料には、
「妊娠中の安全性は確立されていない」のような、
決まった冷たい文面が書かれているだけで、
実際の医療者の判断に役立つような情報は、
まず間違いなく書かれていません。
動物実験のデータなどは添付されていますが、
妊娠中に安全に使用されている薬でも、
動物実験ではしばしば胎児への毒性を、
示唆するようなデータがありますから、
必ずしも動物実験のデータが、
そのまま人間に直結するものではありません。
逆に動物では安全であったのに、
人間では予期せぬ副作用、というようなこともあります。
人体実験のそしりを受けるかも知れませんが、
これはもう、実際にリスクをおかして処方された事例を、
集積して検討するしかないのです。
妊娠初期の吐き気や嘔吐というのは、
妊娠された女性の半数以上は経験する、
極めて一般的な症状です。
勿論薬を使わずに対応可能であれば良いのですが、
上記文献の記載にある海外データでは、
実際には10から15%の方は吐き気止めなどの使用が、
行なわれることになるようです。
第一選択は抗ヒスタミン剤とビタミンB6製剤ですが、
それが無効の場合には、
しばしばメトクロプラミド(商品名プリンペランなど)が使用されます。
メトクロプラミドは、
中枢性にドーパミンを抑制する作用を持つ吐き気止めですが、
高齢者における継続的使用で、
パーキンソン様症状が出現したり、
褐色細胞腫というホルモン性の高血圧があると、
血圧の上昇する発作が誘発される、
などの注意点はありますが、
概ね健康成人で一時的な吐き気止めとして使用するには、
その有効性が確立している薬です。
使用経験も多いので、
妊娠中にもしばしば使用され、
その安全性を示唆する疫学データも複数存在しています。
しかし、
その中身を検討してみると、
胎児死亡についてのデータは乏しく、
奇形の発症のリスクについても、
個別の疾患毎には検討されていない、
などの不充分な点がありました。
そこで今回の文献においては、
国民総背番号制を取るデンマークにおいて、
妊娠中のメトクロプラミドの使用と、
妊娠の転帰やお子さんの奇形などの異常との関連性を、
28000人余の処方された妊婦と、
その4倍でマッチングされた処方されていない妊婦とを比較して、
この薬剤の妊娠中の安全性を検証しています。
その結果、
代表的な先天異常の疾患の発症についても、
自然流産などの妊娠中のトラブルについても、
メトクロプラミドの使用との関連性は認められませんでした。
従って、
妊娠中に吐き気止めの使用が必要な場合には、
同種の薬剤との比較において、
まずはメトクロプラミドを検討するのが、
適切であると考えられます。
こうした1つ1つのデータの蓄積により、
より安全にご妊娠が継続されるように、
今後の研究を期待したいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-10-25 08:07
nice!(39)
コメント(10)
トラックバック(0)
漢方利用の中年男です。よろしくお願いいたします。
一部の漢方は吐き気、胃部不快感に即効的に効く感じがしますが、漢方の場合はどうなんでしょう。
おそらく、先生によっては妊婦さんに処方されているかと思います。
漢方の不思議なところは口の中に入れて白湯で混ぜ混ぜしている時点で効いてくる時もあります。精神的な部分も有るかもしれませんが、なんか不思議です。証が合わないと効かないというのもある感じはします。
by かぴばら (2013-11-06 06:43)
かびばらさんへ
コメントありがとうございます。
漢方が間違いなく妊娠中も安全、
とは言い切れないのですが、
使用はされていると思いますし、
証の合う薬を選択して使用すれば、
大きな問題は生じないように思います。
by fujiki (2013-11-11 08:42)
現在妊娠活動中の30代女性です。現在夫が精神的な病を
患っており、精神安定剤を服用しています。
精神安定剤を服用中に性交渉から妊娠に至った場合、胎児へ
の影響(死産、早産、障害を持ってしまう)はありますか?
可能性が否定できないのであれば、子作りを先延ばしにしな
ければいけないとも考えています。よろしくお願いします。
by あつこ (2013-11-28 17:22)
あつこさんへ
男性の抗精神薬の服用に関しては、
お子さんには影響しないと考えて頂いて良いと思います。
ただ、ご妊娠が成立し難くなる可能性はあります。
by fujiki (2013-11-30 08:35)
先生ありがとうございます。妊娠が成立しにくくなるというのは
どういうことなのですか。精子の運動率や質が下がるのでしょうか。
by あつこ (2013-11-30 17:00)
あつこさんへ
薬剤で精子数が減少することはあるようです。
by fujiki (2013-12-02 08:01)
はじめまして、記事読ませていただきました。現在妊娠7週で、つわりがつらく、メトクロプラミドを処方していただいたのですが、薬局に在庫がなく、同じ成分のプリンペランをもらってきたのですが、こちらも奇形の可能性などは、メトクロプラミドと一緒になりますか?
by えり (2014-04-18 17:17)
えりさんへ
これは同じ成分ですので、
基本的には安全性も同じ、
とお考え頂いて良いと思います。
添加物なども考えれば上記の文献の物とは、
完璧に同じとは言えませんが、
そこまで気にされる必要はないと思います。
by fujiki (2014-04-19 08:36)
お伺いします。妊娠中の頭部MRI検査は胎児にとってどのような影響があるかという報告が全くなくいいとも悪いとも言えないという記事をインターネット見ましたが、先生はどう思われていますか?
by リプトン (2014-09-04 16:46)
リプトンさんへ
基本的には問題が指摘されたことはないと思いますが、
電磁波の検査ではありますから、
必要最小限度で行なうと、
考えて頂くのが良いと思います。
リスクがないとは言えません。
これは一般の方には理解され難い部分ですが、
必要性の高い検査であれば、
多少のリスクはあっても行なうというのが、
多くの医療者の判断であるように思います。
従って、明確でないリスクをあれこれと考えるよりは、
検査の必要性がどのくらいあるかを、
考えて頂いた方が良いと思います。
by fujiki (2014-09-04 19:21)