唐組・第52回公演「糸女郎」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝から駒沢公園まで走りに行って、
これから在宅診療に出掛けます。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐組の第52回公演、
「糸女郎」の初日に足を運びました。
唐先生が頭部外傷で唐組の舞台から姿を消して以降、
3回目の本公演になります。
当然、過去作品の再演が続くのですが、
「虹屋敷」、「鉛の兵隊」と、
久保井研さんのチョイスでしょうか、
記憶の中に埋もれた戯曲を、
より精緻に復活させていて、
その選択眼には感心させられます。
今回は2002年に初演された「糸女郎」の再演です。
この作品は唐組の歴史の中では、
過渡期の感じがあって、
翌年の2003年の「泥人魚」が世評が高く、
それに埋もれたような印象もあり、
正直初演は観ているものの、
野麦峠の女工達が、
戸板を背負って口から糸を吐く場面は、
「あ、これジャガーの眼じゃん」と思って、
覚えているのですが、
それ以外は今回観るまで殆ど忘れていました。
ただ、改めてより精緻に再現された、
今回の再演の舞台を観てみると、
印象は地味ですがなかなかの力作で、
9割の役者さんの熱演もあって、
面白く観ることが出来ました。
諏訪マタニティークリニックで、
家族による代理出産が行なわれていることが問題になったのを、
下敷きにしていて、
クリニックがある岡谷が、
昔製紙工場で栄えたことの連想から、
女工哀史の女工達が、
自分自身が繭になって糸を紡ぎ、
その工場が洪水で流されたのを弁償するために、
落ち度のあった女工が、
今度は繭ではなく、
自分の子宮を売り物にして、
糸を紡ぐという話です。
例によってかなり強引な飛躍ですが、
自分の身体を商売の道具にして来た、
多くの女達の思いが、
時代を越えて1本の糸で結ばれます。
2幕で「ああ、野麦峠」の合唱と共に、
時代が明治に逆行する辺りは、
1970年代の作品ほど、
直接的でダイナミックではないのですが、
それでもワクワクする衝撃性と躍動感とがあります。
初演で稲荷卓央さんが演じた青年を、
今回は唐先生の息子の大鶴佐助君が演じ、
初演で唐先生が演じた役柄を稲荷さんが代わりに演じます。
この作品においての唐先生の役柄は、
1幕の終わりで仰々しく登場して、
舞台をかき回す、という感じではなく、
オープニングから登場して、
主人公達をサポートする役柄なので、
稲荷さんが演じても違和感はありません。
正直これまでの2作品の再演で、
久保井さんが唐先生の役を演じたのは、
ちょっと苦しい感じがありましたから、
今回のチョイスは的確だった思います。
久保井さんは初演の鳥山さんの役に代わったのですが、
これも違和感はありませんでした。
ただ、確か初演の唐先生は、
テントの横を開けて、
外から自転車での登場だったと記憶していますが、
今回の稲荷さんはそうした趣向はなく、
そのまま舞台に登場します。
大鶴佐助君は、
勿論まだまだの感じですが、
目の底にある狂気のようなものと、
変な裏声で臆面もなくしゃべったり、
そうかと思うと暴力的にふるまったりと、
随所に常人ならざる感じはあって、
唐先生のDNAを矢張り感じさせます。
あまり勝手な推測は良くないのですが、
キャストは二転三転があったのではないか、
と個人的には思います。
唐突にお母さんを探す少年が2幕で登場するので、
初演を観ていないお客さんは、
不思議に思ったのではないかと思いますが、
これは初演では三田佳子さんの息子さんが、
色々あって謹慎中に唐組の座員になり、
その時の役柄なのです。
登場しないお母さんを探している、
というのが、
ちょっと際どい当て書きなのです。
さて、今回最後のカーテンコールで、
久保井さんが「そして最後に、作演出唐十郎!」と叫ぶと、
それまで客席の後ろで、
車イスに乗って舞台を注視していた唐先生が、
久保井さんに導かれて舞台に上がり、
言葉は発しませんでしたが、
客席を見据えて、あの不敵な笑顔を見せました。
その前に「よくやった」とばかりに息子さんと握手を交わしたのも、
親バカ(決して悪い意味ではありません)極まれり、
と言う感じで微笑ましかったのですが、
その目の輝きと不敵な笑みの立ち姿は、
まさにアングラの巨人の風格で、
本当に感動的で胸が熱くなりました。
先代猿之助の復活の際にも感じましたが、
矢張り人間というのは肉体ではなく、
そこに宿る「思い」のようなもので、
先代猿之助の立ち姿が、
歌舞伎の魂そのものであったのと同様、
唐先生が舞台に上った瞬間、
そして観客に顔を見せた瞬間の「形」こそ、
先生が歩んで来たテント芝居というものの全てが、
そこに凝結しているように思えたのです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝から駒沢公園まで走りに行って、
これから在宅診療に出掛けます。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
唐組の第52回公演、
「糸女郎」の初日に足を運びました。
唐先生が頭部外傷で唐組の舞台から姿を消して以降、
3回目の本公演になります。
当然、過去作品の再演が続くのですが、
「虹屋敷」、「鉛の兵隊」と、
久保井研さんのチョイスでしょうか、
記憶の中に埋もれた戯曲を、
より精緻に復活させていて、
その選択眼には感心させられます。
今回は2002年に初演された「糸女郎」の再演です。
この作品は唐組の歴史の中では、
過渡期の感じがあって、
翌年の2003年の「泥人魚」が世評が高く、
それに埋もれたような印象もあり、
正直初演は観ているものの、
野麦峠の女工達が、
戸板を背負って口から糸を吐く場面は、
「あ、これジャガーの眼じゃん」と思って、
覚えているのですが、
それ以外は今回観るまで殆ど忘れていました。
ただ、改めてより精緻に再現された、
今回の再演の舞台を観てみると、
印象は地味ですがなかなかの力作で、
9割の役者さんの熱演もあって、
面白く観ることが出来ました。
諏訪マタニティークリニックで、
家族による代理出産が行なわれていることが問題になったのを、
下敷きにしていて、
クリニックがある岡谷が、
昔製紙工場で栄えたことの連想から、
女工哀史の女工達が、
自分自身が繭になって糸を紡ぎ、
その工場が洪水で流されたのを弁償するために、
落ち度のあった女工が、
今度は繭ではなく、
自分の子宮を売り物にして、
糸を紡ぐという話です。
例によってかなり強引な飛躍ですが、
自分の身体を商売の道具にして来た、
多くの女達の思いが、
時代を越えて1本の糸で結ばれます。
2幕で「ああ、野麦峠」の合唱と共に、
時代が明治に逆行する辺りは、
1970年代の作品ほど、
直接的でダイナミックではないのですが、
それでもワクワクする衝撃性と躍動感とがあります。
初演で稲荷卓央さんが演じた青年を、
今回は唐先生の息子の大鶴佐助君が演じ、
初演で唐先生が演じた役柄を稲荷さんが代わりに演じます。
この作品においての唐先生の役柄は、
1幕の終わりで仰々しく登場して、
舞台をかき回す、という感じではなく、
オープニングから登場して、
主人公達をサポートする役柄なので、
稲荷さんが演じても違和感はありません。
正直これまでの2作品の再演で、
久保井さんが唐先生の役を演じたのは、
ちょっと苦しい感じがありましたから、
今回のチョイスは的確だった思います。
久保井さんは初演の鳥山さんの役に代わったのですが、
これも違和感はありませんでした。
ただ、確か初演の唐先生は、
テントの横を開けて、
外から自転車での登場だったと記憶していますが、
今回の稲荷さんはそうした趣向はなく、
そのまま舞台に登場します。
大鶴佐助君は、
勿論まだまだの感じですが、
目の底にある狂気のようなものと、
変な裏声で臆面もなくしゃべったり、
そうかと思うと暴力的にふるまったりと、
随所に常人ならざる感じはあって、
唐先生のDNAを矢張り感じさせます。
あまり勝手な推測は良くないのですが、
キャストは二転三転があったのではないか、
と個人的には思います。
唐突にお母さんを探す少年が2幕で登場するので、
初演を観ていないお客さんは、
不思議に思ったのではないかと思いますが、
これは初演では三田佳子さんの息子さんが、
色々あって謹慎中に唐組の座員になり、
その時の役柄なのです。
登場しないお母さんを探している、
というのが、
ちょっと際どい当て書きなのです。
さて、今回最後のカーテンコールで、
久保井さんが「そして最後に、作演出唐十郎!」と叫ぶと、
それまで客席の後ろで、
車イスに乗って舞台を注視していた唐先生が、
久保井さんに導かれて舞台に上がり、
言葉は発しませんでしたが、
客席を見据えて、あの不敵な笑顔を見せました。
その前に「よくやった」とばかりに息子さんと握手を交わしたのも、
親バカ(決して悪い意味ではありません)極まれり、
と言う感じで微笑ましかったのですが、
その目の輝きと不敵な笑みの立ち姿は、
まさにアングラの巨人の風格で、
本当に感動的で胸が熱くなりました。
先代猿之助の復活の際にも感じましたが、
矢張り人間というのは肉体ではなく、
そこに宿る「思い」のようなもので、
先代猿之助の立ち姿が、
歌舞伎の魂そのものであったのと同様、
唐先生が舞台に上った瞬間、
そして観客に顔を見せた瞬間の「形」こそ、
先生が歩んで来たテント芝居というものの全てが、
そこに凝結しているように思えたのです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-10-06 08:46
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