SSブログ

カルシウム拮抗薬の使用による逆流性食道炎の悪化について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルシウム拮抗薬と胃腸障害.jpg
2012年のJournal of Clinical Pharmacy and Therapeuticsという雑誌に掲載された、
長崎大学の研究者らによる、
高血圧の薬と胃腸障害との関連性についての文献です。

正直そう大した内容ではないのですが、
降圧剤のあまり知られていない副作用について、
整理をしておきたいという思いから取り上げます。

先日この件についてご質問を受けたのですが、
以前経験した事例があり、
まずその事例についてご説明します。

患者さんは70代の女性で、
コレステロールが高く、
スタチンというコレステロール降下剤を使用していました。

特の胸焼けや胃もたれなどの症状はありません。
胃カメラは2年に一度くらいのペースで行なっていましたが、
年齢相応の慢性萎縮性胃炎の変化はあるものの、
特にそれ以外の所見はありませんでした。

経過の中で血圧が上昇し、
そのためアムロジピン(商品名ノルバスク、アムロジンなど)
という降圧剤を、処方に追加しました。

アムロジピンを飲むようになってから数ヶ月して、
患者さんは胃もたれや胸焼け、
咽喉の不快感などを頻繁に訴えるようになりました。

それで胃カメラの検査をしましたが、
あまり目立った変化はありません。
ただ、やや胃の粘膜のびらん性の変化があり、
また、軽い食道炎を認めました。

H2ブロッカーというタイプの胃薬を使用して、
様子を見ましたが、
あまり患者さんの症状は治まりません。

患者さんの意見としては、
高血圧の薬を飲むようになってから、
胃の不快感などの症状が出て来たので、
薬の副作用ではないか、という見解でした。

確かに薬の添付文書には、
「胃膀満感」のような文言は書かれています。
しかし、これは多くの薬に必ず書かれていることですし、
薬の臨床試験をすれば、
ある程度の比率で、
そうした症状を訴える方がいることは、
当然想定されるので、
その全てが薬の服用そのものと関連性があるとは、
断定は出来ません。

アムロジピンはカルシウム拮抗薬という種別の降圧剤です。

おそらく日本で最も広く使用されている降圧剤です。

それで、カルシウム拮抗薬と胃腸障害について、
関連する文献を検索すると、
それほど多くはないのですが、
特に1980年代に、
当時良く使用されていたニフェジピン(商品名アダラートなど)と、
胃腸障害との関連性を指摘する文献が、
複数出ていることが分かりました。

ニフェジピンの使用後に、
特に高齢者において、
元々存在した胃もたれや胃痛などの消化器症状が、
急性増悪に近い形で悪化する事例が少なからずあり、
動物実験やニフェジピンの注射の前後で検査を行なった結果によると、
カルシウム拮抗薬の使用により、
食道の下部の平滑筋の緊張が抑制され、
胃の入り口の締りが緩むことによって、
胃酸の食道への逆流が、
起こり易くなり、
かつ食道が酸に晒される時間が、
より長くなる、と言う結果が示されています。

そのため、患者さんの意を汲んで、
カルシウム拮抗薬を、
段階的にACE阻害剤という降圧剤に変更したところ、
変更後1カ月ほどで、
症状は改善し、
胃薬も不要になりました。

ただ、その後に行なった胃カメラ検査においては、
明確な所見の変化は認められませんでした。

これは勿論1例のみの結果ですから、
そこからあまり一般的な結論を出すことは控えたいと思います。

ツィッターなどでは、
「開業医などの馬鹿は、
数例の結果でそれが事実のように蘊蓄を垂れる低能揃いだ」
というような貴重なご意見を、
非常に下品な言葉遣いで、
呟かれる方がいらっしゃるので、
そうした大先生にお叱りを受けないように、
慎重な表現を心掛けたいと思うのですが、
それほど多数例の検証ではありませんが、
こうした事例自体は複数存在していることは確かです。

ただ、アムロジピンでの検討は、
そう多くは存在していません。

今回ご紹介する文献は、
長崎大学の研究者によるもので、
調剤薬局のデータを活用して、
カルシウム拮抗薬の使用と、
その後の胃薬の処方の変化との関連性を検証しています。

なかなかユニークな視点ですが、
例数はカルシウム拮抗薬群が260例で、
未使用群が155例とそう多くはありません。
ただ、使用されているカルシウム拮抗薬は、
その6割以上がアムロジピンで、
アムロジピン主体の治療の影響を見た、
と言う意味では貴重です。

結果として観察中に胃薬の量が増えたり、
より効果の強い胃薬に変更されたりした事例は、
カルシウム拮抗薬群260例中53例であったのに対して、
未使用群では155例中13例に留まり、
カルシウム拮抗薬の使用による、
胃腸病変の悪化のリスクは、
未使用の2.22倍に増加する、
というデータになっています。

これは単純に処方の内容の変化のみを見たものなので、
実際の事例の詳細は分かりません。
処方が変化したからと言って、
その全てが病状の悪化と判断するのは難しいと思います。

従って、この問題はまだまだ未解決で、
カルシウム拮抗薬と胃酸の逆流との関連性も、
まだ推測に過ぎないものです。

ただ、カルシウム拮抗薬の使用後に、
明確に胃腸症状が出現して、
それが持続した場合には、
薬剤による有害事象の可能性を考え、
薬剤の変更が可能であれば試みるべきだと思いますし、
特に使用前に逆流性食道炎などをお持ちの患者さんでは、
カルシウム拮抗薬の使用には、
より慎重な態度で臨むべきではないかと、
個人的には考えつつ診療に当たっています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(45)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 45

コメント 6

今野祥山

何時もお世話になっています。
先生の仰っている事は私自身経験が有ります。
67年間胃の調子だけは全くトラブルがなかったのにカルシウム拮抗薬を飲みだしてから数回強烈な胃酸の逆流を経験しました。
今は以前先生に紹介してもらったイルベタンに切り替えてからオルメテックによる下痢症状も治まり血圧も130台で落ち着いております。
薬の副作用は人それぞれにより大きく異なるという事を実感しています。
多くの種類の薬の中からその患者に一番合う薬を一緒になって探してもらえる医師が皆が望んでいるのですが、現実はそうでは有りません。

by 今野祥山 (2013-09-09 13:14) 

AF冠者

AFでカルシュウム拮抗薬コニール4㎎/日の処方を受けておりますが、朝の覚醒時に上腹部の熱感と胸苦・灼熱感をおぼえます。先生はBERDかも知れない、と言われますが、そのような感触(以前、逆流性食道炎を罹患)ではありません。βー遮断薬に変えてもらうのがベストでしょうか。
by AF冠者 (2013-09-09 13:40) 

fujiki

今野祥山さんへ
コメントありがとうございます。
なかなか難しいのですが、
患者さんの体質に合った薬剤の選択を、
心掛けたいとは思っています。
by fujiki (2013-09-10 08:15) 

fujiki

AF冠者さんへ
βブロッカーは、
患者さんの状態によっては、
心機能を落とすこともあり、
AFにはレイトコントロールにも役立つので、
諸刃の刃の面があるように思います。
主治医の先生とよくご相談の上、
慎重に変更を検討して頂くのが良いように思います。
by fujiki (2013-09-10 08:17) 

れす。

いつもブログを拝見しております

食道アカラシアにCCBが適応外で処方されます
それで効果があるということは、LES圧を下げる作用がCCBには
あると考えてもいいのではないかと思います

CCBの種類によっても作用は異なると思いますが、
GERDのリスクはあるのかもしれません

しかしJCS2009ではCCBはfirst lineであり、
VSAPにも欠かせない薬剤であることも確かです

あちらを立てればこちらが立たず
薬は難しいと感じました
by れす。 (2013-09-12 23:47) 

fujiki

れすさんへ
コメントありがとうございます。
実際には急激に胃腸症状の悪化する方は、
極少数なので、
そうした方で処方の変更が速やかに行われれば、
それで問題はないように個人的には思います。
少数の症状の出る方は、
経験的にはかなり強い変化を訴えることが多いので、
必ずしもLES圧の低下のみで、
説明が付くようにも思えません。
何らか別箇のメカニズムが、
存在するのではないか、
というようにも思えます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-09-13 08:27) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0