ミラノ・スカラ座2013年日本公演「ファルスタッフ」 [オペラ]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのまとめをして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアのオペラの名門歌劇場、
ミラノ・スカラ座の来日公演が、
今東京で開催されています。
オープニングのヴェルディ「ファルスタッフ」の舞台に、
足を運びました。
ヴェルディの「ファルスタッフ」は、
この大オペラ作者の最後の作品で、
同じく晩年の「オテロ」と2作品を併せて考えれば、
ヴェルディの総決算と言って過言ではありません。
ただ、「オテロ」が比較的聴き易い作品であるのに対して、
「ファルスタッフ」は結構敷居の高いオペラです。
憎めない悪党貴族のファルスタッフの、
女を口説きたいというだけの、
ほのぼのとした悪巧みと、
その上を行く女達のバイタリティが、
ぶつかり合うだけの、
それほどの起伏のない筋立てで、
ドラマチックではありませんし、
歌い上げるようなアリアもありません。
日常会話がそのまま歌になるような、
アンサンブルの妙味だけで成立しているような作品で、
モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」に近いような味わいです。
従って、
これは仰々しく脂ぎったオペラを期待して聴けば、
ガッカリするだけですし、
歌手陣とオケとの高度なバランスが達成されなければ、
単調で退屈なだけで終わってしまいます。
僕がこの作品を生で聴いたのは、
2004年の新国立劇場のプロダクションですが、
これはもう退屈の極みで、
苦痛以外の何物でもありませんでした。
次に2006年のフィレンツェ歌劇場の来日公演があり、
これはキャストも揃っていましたし、
メータの指揮は繊細さに欠けましたが、
部屋がそのまま森に変化するような、
大掛かりなセットも魅力でした。
タイトルロールはライモンディで、
アリーチェ役は今回と同じフリットリです。
(いずれもダブルキャスト)
そして今回の上演は、
間違いなくこれまで聴いた2回の舞台より優れたものでしたし、
極上のアンサンブルで、
久しぶりにオペラの醍醐味を感じるものになりました。
まず、タイトルロールを演じた、マエストリが、
ファルスタッフそのもののような、
見事なビジュアルと見事な歌唱で、
最高の演技と歌唱を見せ聴かせましたし、
要となる女性2人を、
フリットリとバルチェローナというスター2人が、
これも充実した演技と歌唱で支えました。
かなり恰幅の良くなったバルチェローナですが、
キャンセルなどもあって、
本当に久しぶりの日本でのオペラの舞台になりましたし、
一方のフリットリは、
フィレツェ以来日本で2度目のアリーチェ役ですが、
程良く力の抜けた、
本当に心が浮き立つような素敵な舞台姿と声で、
僕は日本での彼女の舞台は、
全て聴いていると思いますが、
今回が一番美しくチャーミングに見えましたし、
そのお手本のような歌唱と美声もさすがでした。
フリットリは12月のトリノ王立歌劇場のトスカは降板しましたが、
大上段に降りかぶったようなプリマドンナよりも、
今回のようなアンサンブル主体の役柄が、
本領のように思います。
芝居と歌に寄り添うような音楽を、
変幻自在かつ流麗に紡ぐ、
ハーディング指揮によるオーケストラもさすがの音色です。
今回のキャストを更に活かしたのが演出と衣装です。
演出のロベルト・カーセンは、
カナダ出身の売れっ子演出家で、
お金を掛けない、やや貧相なセットを、
センスで見せ切るような、
日本の小劇場的演出が特徴です。
なので、ツボに嵌るとハッとするような見事な舞台になるのですが、
失敗するとただ貧相なだけの作品に終わります。
今回は抜群の成功例で、
例によってあまりお金の掛かっていない、
シンプルな舞台なのですが、
最初から最後まで、
華やかな祝祭的な雰囲気に溢れ、
後半の森の場面を、
背後のホリゾントの星空で表現し、
そこから台車に乗せられて、
妖精が現れ歌う場面は、
オペラではあまり類のない審美的な場面でうっとりしますし、
そこからラストのフーガでは、
着飾ったパーティーに雰囲気が一変するのも、
非常に気が利いています。
川に落ちたファルスタッフが、
馬小屋で本物の白馬相手に、
恨み事を歌にする場面も、
カーセンの奇想が成功していますし、
レストランでの9重唱もシンメトリックなバランスが、
音楽と見事に一致しています。
衣装がまた上手く出来ていて、
個々の歌手にピタリと合っています。
フリットリのアリーチェがこれまでで一番魅力的であったのも、
彼女の魅力を最善に惹き立てる美しい衣装が、
その大きなサポートになっていたと思います。
矢張り良いオペラには、
何物にも代え難い魅力のあることは確かで、
かなり幸福な気分で、
劇場を後にしました。
前回のスカラ座の来日は、
かなり惨憺たる出来でガッカリしましたが、
ムーティーが去って後の混乱も落ち着いたからなのか、
今回はオケの音も安定感があって、
イタリアの名門の名に恥じない舞台であったことには、
ホッとする思いがしたのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝からレセプトのまとめをして、
それから今PCに向かっています。
今日は土曜日なので趣味の話題です。
今日はこちら。
イタリアのオペラの名門歌劇場、
ミラノ・スカラ座の来日公演が、
今東京で開催されています。
オープニングのヴェルディ「ファルスタッフ」の舞台に、
足を運びました。
ヴェルディの「ファルスタッフ」は、
この大オペラ作者の最後の作品で、
同じく晩年の「オテロ」と2作品を併せて考えれば、
ヴェルディの総決算と言って過言ではありません。
ただ、「オテロ」が比較的聴き易い作品であるのに対して、
「ファルスタッフ」は結構敷居の高いオペラです。
憎めない悪党貴族のファルスタッフの、
女を口説きたいというだけの、
ほのぼのとした悪巧みと、
その上を行く女達のバイタリティが、
ぶつかり合うだけの、
それほどの起伏のない筋立てで、
ドラマチックではありませんし、
歌い上げるようなアリアもありません。
日常会話がそのまま歌になるような、
アンサンブルの妙味だけで成立しているような作品で、
モーツァルトの「コジ・ファン・トゥッテ」に近いような味わいです。
従って、
これは仰々しく脂ぎったオペラを期待して聴けば、
ガッカリするだけですし、
歌手陣とオケとの高度なバランスが達成されなければ、
単調で退屈なだけで終わってしまいます。
僕がこの作品を生で聴いたのは、
2004年の新国立劇場のプロダクションですが、
これはもう退屈の極みで、
苦痛以外の何物でもありませんでした。
次に2006年のフィレンツェ歌劇場の来日公演があり、
これはキャストも揃っていましたし、
メータの指揮は繊細さに欠けましたが、
部屋がそのまま森に変化するような、
大掛かりなセットも魅力でした。
タイトルロールはライモンディで、
アリーチェ役は今回と同じフリットリです。
(いずれもダブルキャスト)
そして今回の上演は、
間違いなくこれまで聴いた2回の舞台より優れたものでしたし、
極上のアンサンブルで、
久しぶりにオペラの醍醐味を感じるものになりました。
まず、タイトルロールを演じた、マエストリが、
ファルスタッフそのもののような、
見事なビジュアルと見事な歌唱で、
最高の演技と歌唱を見せ聴かせましたし、
要となる女性2人を、
フリットリとバルチェローナというスター2人が、
これも充実した演技と歌唱で支えました。
かなり恰幅の良くなったバルチェローナですが、
キャンセルなどもあって、
本当に久しぶりの日本でのオペラの舞台になりましたし、
一方のフリットリは、
フィレツェ以来日本で2度目のアリーチェ役ですが、
程良く力の抜けた、
本当に心が浮き立つような素敵な舞台姿と声で、
僕は日本での彼女の舞台は、
全て聴いていると思いますが、
今回が一番美しくチャーミングに見えましたし、
そのお手本のような歌唱と美声もさすがでした。
フリットリは12月のトリノ王立歌劇場のトスカは降板しましたが、
大上段に降りかぶったようなプリマドンナよりも、
今回のようなアンサンブル主体の役柄が、
本領のように思います。
芝居と歌に寄り添うような音楽を、
変幻自在かつ流麗に紡ぐ、
ハーディング指揮によるオーケストラもさすがの音色です。
今回のキャストを更に活かしたのが演出と衣装です。
演出のロベルト・カーセンは、
カナダ出身の売れっ子演出家で、
お金を掛けない、やや貧相なセットを、
センスで見せ切るような、
日本の小劇場的演出が特徴です。
なので、ツボに嵌るとハッとするような見事な舞台になるのですが、
失敗するとただ貧相なだけの作品に終わります。
今回は抜群の成功例で、
例によってあまりお金の掛かっていない、
シンプルな舞台なのですが、
最初から最後まで、
華やかな祝祭的な雰囲気に溢れ、
後半の森の場面を、
背後のホリゾントの星空で表現し、
そこから台車に乗せられて、
妖精が現れ歌う場面は、
オペラではあまり類のない審美的な場面でうっとりしますし、
そこからラストのフーガでは、
着飾ったパーティーに雰囲気が一変するのも、
非常に気が利いています。
川に落ちたファルスタッフが、
馬小屋で本物の白馬相手に、
恨み事を歌にする場面も、
カーセンの奇想が成功していますし、
レストランでの9重唱もシンメトリックなバランスが、
音楽と見事に一致しています。
衣装がまた上手く出来ていて、
個々の歌手にピタリと合っています。
フリットリのアリーチェがこれまでで一番魅力的であったのも、
彼女の魅力を最善に惹き立てる美しい衣装が、
その大きなサポートになっていたと思います。
矢張り良いオペラには、
何物にも代え難い魅力のあることは確かで、
かなり幸福な気分で、
劇場を後にしました。
前回のスカラ座の来日は、
かなり惨憺たる出来でガッカリしましたが、
ムーティーが去って後の混乱も落ち着いたからなのか、
今回はオケの音も安定感があって、
イタリアの名門の名に恥じない舞台であったことには、
ホッとする思いがしたのです。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-09-07 08:36
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コメント(2)
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コメント失礼いたします。
ファルスタッフ、私も複数回(3回以上)鑑賞したなかで、一番良かったと感じました。
歌も演技もですが、演出、舞台、そして衣装も楽しめて、また、エンディングのハッピーな食卓シーン、気持ち良く見終えました。
オーケストラも、ハーディングの指揮で秀逸な音に聴こえました(最前列で指揮ぶりを見てるので贔屓目かもしれませんが)。
by ぴい (2013-09-16 00:06)
ぴいさんへ
コメントありがとうございます。
素晴らしかったですね。
今回のスカラ座はヒットだと思います。
by fujiki (2013-09-17 06:19)