有川浩集成(その3) [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
これから長野に法事で出掛け、
戻ってから在宅診療に廻る予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日は有川浩さんの作品の感想の続きです。
今日はこちらから。
⑨「植物図鑑」
長編の恋愛小説ですが、
元が携帯小説なので、
どちらかと言うと、
いつもの連作短編の形式に近い作品です。
孤独なキャリアウーマンが、
謎の若い男と同棲生活を始めるのですが、
男性は雑草などの植物に対して、
びっくりするような知識があり、
一緒に摘んで来た野草から、
美味しい料理を作ります。
それで題名が「植物図鑑」です。
内容が斬新で意表を突いています。
空から落ちて来たかのような、
正体不明の謎の男性や女性と、
一緒に暮らす、というような話は、
山のようにありますが、
謎の男性が家事を率先してこなし、
仕事をしている女性の帰りを待ち、
色々な野草を摘んで来て、
そこから料理を作る、という発想と、
ただそれだけの繰り返しで、
長編を持たせてしまう、
という力技が魅力です。
ある意味単調な繰り返しなのですが、
それが決して退屈ではなく、
じんわりと胸が熱くなるような思いが、
読み進むにつれて高まって来るのです。
非常に面白い作品です。
ただ、不満はラストで、
謎の男の正体が明らかになるのですが、
それが脱力するような正体で、
正直かなりガッカリしました。
こんな正体なら、
謎のままの方がどんなに良かったかと、
それだけは残念でなりません。
⑩「フリーター、家を買う。」
日経ネットにウェブ連載され、
テレビドラマ化もされた、
有川さんのこれまでのキャリアの中でも代表作の1つです。
ドラマ版は登場人物が皆悩みを抱えて屈折した、
かなりドロドロした話になっていましたが、
原作は主人公のお母さんの病気は同じですが、
それ以外はシンプルな筋立てで、
仕事というものの何たるかを理解しないで、
簡単に仕事を辞めてフリーターになった主人公が、
色々な経験を経て成長し、
再就職を果たすと共に、
不仲だった父親とも和解します。
これもまとまった長編というよりは、
ほぼ独立したエピソードが繋がって行く、
連作短編の形式です。
非常に古典的な教養小説の形式ですが、
履歴書の書き方のコツや面接での答え方、
会社の選び方など、
就職活動におけるノウハウを記した、
情報小説の側面もあります。
これは発想の勝利ですよね。
就職情報小説というのはちょっと類例があまりない、
と思いますし、
題名がまた冴えています。
フリーターが家を買う、
えっ、どうして?というように思いますよね。
この題名だけで、
ほぼ売れる本になることは、
確定しているようにすら思えます。
内容もなかなかで、
特に主人公と父親との交流は、
ほのぼのとして上手く描けています。
ただ、もう少し小説としての深みがあっても、
良いようには思います。
つまり、やや内容より企画が先行している感があるのです。
これは有川さんのこの時期以降の作品に、
ほぼ共通する傾向だと思います。
こんな面白い世界を紹介してみました、
というところで作品が終わってしまい、
その先があまりないのです。
登場キャラも自衛隊物の短編集の辺りで、
大体出尽くしたような感があり、
同じ大根役者が何度も登場するようで、
正直新鮮味に欠ける部分があります。
⑪「シアター!」
赤字で潰れそうな小劇場を、
その主催者の兄のサラリーマンが、
抜群の経営手腕で立て直す、
という話です。
小劇場の人間模様を描いたような作品は幾つかありますが、
個人的にはあまり成功したと思える作品は、
なかったように思います。
学生劇団で芝居をしていたので、
普通の方よりは演劇の世界のことは、
詳しいつもりですが、
演劇というのは絶対にフィクションより現実の方が面白いですし、
演劇の魅力は、
矢張り実際に舞台に立ってみないと分かりません。
「紅テント青春録」や「寺山修司と生きて」は、
僕の愛読書ですが、
目茶苦茶面白くて、
とても小説家が頭の中でこねくり回した、
架空の劇団の話が、
それに勝るとは思えないのです。
勿論、有川さんの発想は矢張り冴えていて、
お金に斟酌しないで赤字続きの劇団を、
経営的に再建しようとする、という、
ちょっとそれまでない発想で、
この劇団物に新鮮な息吹を注入しています。
ただ、正直それだけの話ではなあ、
と言う感じで僕は乗れませんでした。
劇団員のキャラが、
あまり立っているようには思えず、
殆ど同じ人間書き割りのようにしか思えませんし、
物凄くお行儀の良い劇団の話で、
勿論そういう劇団もあるのだとは思いますが、
それで全ての小劇場がこのようなところだと、
有川さんが何となく誤解しているような気がするので、
それは違うよな、
というように思うのです。
これは続編も出来、
キャラメルボックスとの共作のようなところまで、
その後に話が進みます。
なるほどキャラメルボックスね、
という感じで、
彼らはこの作品に出て来るような劇団の、
ある意味代表格ですから、
なるべくしてなったな、というようにも思いますが、
個人的には有川さんには、
もっと幅の広い、
悪場所としての小劇場の世界も、
是非理解して頂きたいな、
というようにも思うのです。
これは珍しく連作短編の形式ではない長編ですが、
正直盛り上がりには欠け、
個人的には最後まで読むのに苦労しました。
違うよ、有川さん、
小劇場演劇はね、
もっと道徳や人間性や常識とは、
かけ離れたところにあって、
だからこそ魅力的で、
皆それだからこそ人生を踏み誤るんだよ。
それでは今日はこのくらいで。
そろそろ法事に出掛けます。
皆さんは良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
これから長野に法事で出掛け、
戻ってから在宅診療に廻る予定です。
休みの日は趣味の話題です。
今日は有川浩さんの作品の感想の続きです。
今日はこちらから。
⑨「植物図鑑」
長編の恋愛小説ですが、
元が携帯小説なので、
どちらかと言うと、
いつもの連作短編の形式に近い作品です。
孤独なキャリアウーマンが、
謎の若い男と同棲生活を始めるのですが、
男性は雑草などの植物に対して、
びっくりするような知識があり、
一緒に摘んで来た野草から、
美味しい料理を作ります。
それで題名が「植物図鑑」です。
内容が斬新で意表を突いています。
空から落ちて来たかのような、
正体不明の謎の男性や女性と、
一緒に暮らす、というような話は、
山のようにありますが、
謎の男性が家事を率先してこなし、
仕事をしている女性の帰りを待ち、
色々な野草を摘んで来て、
そこから料理を作る、という発想と、
ただそれだけの繰り返しで、
長編を持たせてしまう、
という力技が魅力です。
ある意味単調な繰り返しなのですが、
それが決して退屈ではなく、
じんわりと胸が熱くなるような思いが、
読み進むにつれて高まって来るのです。
非常に面白い作品です。
ただ、不満はラストで、
謎の男の正体が明らかになるのですが、
それが脱力するような正体で、
正直かなりガッカリしました。
こんな正体なら、
謎のままの方がどんなに良かったかと、
それだけは残念でなりません。
⑩「フリーター、家を買う。」
日経ネットにウェブ連載され、
テレビドラマ化もされた、
有川さんのこれまでのキャリアの中でも代表作の1つです。
ドラマ版は登場人物が皆悩みを抱えて屈折した、
かなりドロドロした話になっていましたが、
原作は主人公のお母さんの病気は同じですが、
それ以外はシンプルな筋立てで、
仕事というものの何たるかを理解しないで、
簡単に仕事を辞めてフリーターになった主人公が、
色々な経験を経て成長し、
再就職を果たすと共に、
不仲だった父親とも和解します。
これもまとまった長編というよりは、
ほぼ独立したエピソードが繋がって行く、
連作短編の形式です。
非常に古典的な教養小説の形式ですが、
履歴書の書き方のコツや面接での答え方、
会社の選び方など、
就職活動におけるノウハウを記した、
情報小説の側面もあります。
これは発想の勝利ですよね。
就職情報小説というのはちょっと類例があまりない、
と思いますし、
題名がまた冴えています。
フリーターが家を買う、
えっ、どうして?というように思いますよね。
この題名だけで、
ほぼ売れる本になることは、
確定しているようにすら思えます。
内容もなかなかで、
特に主人公と父親との交流は、
ほのぼのとして上手く描けています。
ただ、もう少し小説としての深みがあっても、
良いようには思います。
つまり、やや内容より企画が先行している感があるのです。
これは有川さんのこの時期以降の作品に、
ほぼ共通する傾向だと思います。
こんな面白い世界を紹介してみました、
というところで作品が終わってしまい、
その先があまりないのです。
登場キャラも自衛隊物の短編集の辺りで、
大体出尽くしたような感があり、
同じ大根役者が何度も登場するようで、
正直新鮮味に欠ける部分があります。
⑪「シアター!」
赤字で潰れそうな小劇場を、
その主催者の兄のサラリーマンが、
抜群の経営手腕で立て直す、
という話です。
小劇場の人間模様を描いたような作品は幾つかありますが、
個人的にはあまり成功したと思える作品は、
なかったように思います。
学生劇団で芝居をしていたので、
普通の方よりは演劇の世界のことは、
詳しいつもりですが、
演劇というのは絶対にフィクションより現実の方が面白いですし、
演劇の魅力は、
矢張り実際に舞台に立ってみないと分かりません。
「紅テント青春録」や「寺山修司と生きて」は、
僕の愛読書ですが、
目茶苦茶面白くて、
とても小説家が頭の中でこねくり回した、
架空の劇団の話が、
それに勝るとは思えないのです。
勿論、有川さんの発想は矢張り冴えていて、
お金に斟酌しないで赤字続きの劇団を、
経営的に再建しようとする、という、
ちょっとそれまでない発想で、
この劇団物に新鮮な息吹を注入しています。
ただ、正直それだけの話ではなあ、
と言う感じで僕は乗れませんでした。
劇団員のキャラが、
あまり立っているようには思えず、
殆ど同じ人間書き割りのようにしか思えませんし、
物凄くお行儀の良い劇団の話で、
勿論そういう劇団もあるのだとは思いますが、
それで全ての小劇場がこのようなところだと、
有川さんが何となく誤解しているような気がするので、
それは違うよな、
というように思うのです。
これは続編も出来、
キャラメルボックスとの共作のようなところまで、
その後に話が進みます。
なるほどキャラメルボックスね、
という感じで、
彼らはこの作品に出て来るような劇団の、
ある意味代表格ですから、
なるべくしてなったな、というようにも思いますが、
個人的には有川さんには、
もっと幅の広い、
悪場所としての小劇場の世界も、
是非理解して頂きたいな、
というようにも思うのです。
これは珍しく連作短編の形式ではない長編ですが、
正直盛り上がりには欠け、
個人的には最後まで読むのに苦労しました。
違うよ、有川さん、
小劇場演劇はね、
もっと道徳や人間性や常識とは、
かけ離れたところにあって、
だからこそ魅力的で、
皆それだからこそ人生を踏み誤るんだよ。
それでは今日はこのくらいで。
そろそろ法事に出掛けます。
皆さんは良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-08-25 05:25
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