西加奈子集成(その1) [小説]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから訪問診療に行って、
戻ってから今PCに向かっています。
昨日ブログを読んで、
奈良から来たという方が診療所に見えたのですが、
僕は昼の往診に出ていて、
そのままお帰りになったと聞きました。
お逢いしたかったのですが、
タイミングが悪くてすいませんでした。
休みの日は趣味の話題です。
ファンの方には今更ですが、
西加奈子さんの小説を時系列で読んでいて、
最近では最も感銘を受けました。
全てがオリジナルという感じではないのですが、
陳腐なストーリーを、
魔法のように清新な印象に変える、
勢いのある文体とディテールが巧みで、
必ず後半に盛り上がる構成力も抜群です。
①「あおい」
西加奈子さんの処女作の中編で、
そこに短編の「サムのこと」と「空心町深夜2時」が、
一緒になっています。
最初に出版された初期作品集です。
「あおい」は非常に清新な作品で、
持ち込みでもこれは絶対本になるよなあ、
という感じです。
27歳のスナック勤めの女性の自堕落な日常が、
何処に話が転がって行くのか、
判然としない感じで描かれるのですが、
実は古典的なプロットが隠れていて、
ラストのハッピーエンドでは、
素朴でほんわかとした感動が、
読者の心に残ります。
題名の「あおい」は主人公の名前と思いきや、
主人公はさっちゃんなので、
全然違います。
じゃ、あおいとは何、と思うとそれがラストに繋がる辺り、
凡手ではありませんし、
意味不明のオープニングが、
ラストの1行でくるりと反転する辺りも、
さすがだと思います。
ラストの掌編の「空心町深夜2時」も、
最初はとても読もうという気がおきないのですが、
男と女のやるせない別れの一瞬を切り取って、
読んでみると嫉妬を感じるくらいに巧みに磨かれています。
②「さくら」
西加奈子さんの最初の長編で、
ベストセラーになって彼女の人気を決定付けました。
1組の家族の年代記で、
その幸福な時代から、
つるべうちのような悲劇の到来と、
家族の再生とを、
新人作家とは思えない緻密なタッチで描きます。
アーヴィングの「ガープの世界」に似た話で、
ちょっと似過ぎている気もするのですが、
家族は勿論のこと、
周辺のキャラまで立ちまくっているので、
一旦その世界に惹き込まれれば、
最後まで読む手を止めることは困難です。
多くの方が言われるように、
修飾句が独特で巧みです。
一例を…
お母さんの意思は出来たての氷のように固かった。
さりげないけど上手いでしょ。
固いのだけれど、氷だからすぐに溶けてしまうのです。
つまり、お母さんはそのうち考えを変えてしまうことを、
修飾句だけで暗示して、
その後の悲劇まで、
何となく感じさせるのです。
題名の「さくら」がまた犬の名前で、
別にそれほど犬が活躍するという訳ではないので、
おや、と思うのですが、
それも最後にはきちんと帳尻が合うように出来ています。
「ガープの世界」と比較すると、
主人公の家族が暮らす世界に、
社会性や時代性のようなものが皆無なので、
勿論それでも悪くはなのですが、
ちょっと物足りない感じはあります。
ただ、読んでいる間はそんな不満は全く感じませんし、
家族のお兄さんの切なさや、
狂暴な妹が赤いランドセルの中身を見せる瞬間のショック、
家族が1つになる瞬間の感動は、
得難い読書体験を与えてくれます。
お薦めです。
③「きいろいゾウ」
西加奈子さんの第2長編で、
今年映画化もされました。
これまでの作品とはまた傾向の違う長編で、
ファンタジーと現実とがリンクして、
1人の男と1人の女とが、
出逢い愛し、共に生きて行くことの、
奇跡を綴ります。
北野武の映画、特に「Hanabi」にちょっと似ていて、
後半はそんな感じになるのかしら、
と思って読んでいると、
意外に中段からは村上春樹タッチになり、
これもなかなか感動的なフィナーレを迎えます。
後半はもう少し別の話の方が良かったな、
とは個人的には思いますが、
主人公の危うい感性で受け止められた、
原色の世界は、
本当に魅力的で、
色彩が活字から、
溢れ出て来るような思いがします。
秘められた謎が、
「さくら」と比べるとちょっと変則な感じなので、
それが読後感を複雑なものにするのですが、
「きいろいゾウ」という埋め込まれた童話自体も、
感動的な出来栄えです。
これもお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
朝からいつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから訪問診療に行って、
戻ってから今PCに向かっています。
昨日ブログを読んで、
奈良から来たという方が診療所に見えたのですが、
僕は昼の往診に出ていて、
そのままお帰りになったと聞きました。
お逢いしたかったのですが、
タイミングが悪くてすいませんでした。
休みの日は趣味の話題です。
ファンの方には今更ですが、
西加奈子さんの小説を時系列で読んでいて、
最近では最も感銘を受けました。
全てがオリジナルという感じではないのですが、
陳腐なストーリーを、
魔法のように清新な印象に変える、
勢いのある文体とディテールが巧みで、
必ず後半に盛り上がる構成力も抜群です。
①「あおい」
西加奈子さんの処女作の中編で、
そこに短編の「サムのこと」と「空心町深夜2時」が、
一緒になっています。
最初に出版された初期作品集です。
「あおい」は非常に清新な作品で、
持ち込みでもこれは絶対本になるよなあ、
という感じです。
27歳のスナック勤めの女性の自堕落な日常が、
何処に話が転がって行くのか、
判然としない感じで描かれるのですが、
実は古典的なプロットが隠れていて、
ラストのハッピーエンドでは、
素朴でほんわかとした感動が、
読者の心に残ります。
題名の「あおい」は主人公の名前と思いきや、
主人公はさっちゃんなので、
全然違います。
じゃ、あおいとは何、と思うとそれがラストに繋がる辺り、
凡手ではありませんし、
意味不明のオープニングが、
ラストの1行でくるりと反転する辺りも、
さすがだと思います。
ラストの掌編の「空心町深夜2時」も、
最初はとても読もうという気がおきないのですが、
男と女のやるせない別れの一瞬を切り取って、
読んでみると嫉妬を感じるくらいに巧みに磨かれています。
②「さくら」
西加奈子さんの最初の長編で、
ベストセラーになって彼女の人気を決定付けました。
1組の家族の年代記で、
その幸福な時代から、
つるべうちのような悲劇の到来と、
家族の再生とを、
新人作家とは思えない緻密なタッチで描きます。
アーヴィングの「ガープの世界」に似た話で、
ちょっと似過ぎている気もするのですが、
家族は勿論のこと、
周辺のキャラまで立ちまくっているので、
一旦その世界に惹き込まれれば、
最後まで読む手を止めることは困難です。
多くの方が言われるように、
修飾句が独特で巧みです。
一例を…
お母さんの意思は出来たての氷のように固かった。
さりげないけど上手いでしょ。
固いのだけれど、氷だからすぐに溶けてしまうのです。
つまり、お母さんはそのうち考えを変えてしまうことを、
修飾句だけで暗示して、
その後の悲劇まで、
何となく感じさせるのです。
題名の「さくら」がまた犬の名前で、
別にそれほど犬が活躍するという訳ではないので、
おや、と思うのですが、
それも最後にはきちんと帳尻が合うように出来ています。
「ガープの世界」と比較すると、
主人公の家族が暮らす世界に、
社会性や時代性のようなものが皆無なので、
勿論それでも悪くはなのですが、
ちょっと物足りない感じはあります。
ただ、読んでいる間はそんな不満は全く感じませんし、
家族のお兄さんの切なさや、
狂暴な妹が赤いランドセルの中身を見せる瞬間のショック、
家族が1つになる瞬間の感動は、
得難い読書体験を与えてくれます。
お薦めです。
③「きいろいゾウ」
西加奈子さんの第2長編で、
今年映画化もされました。
これまでの作品とはまた傾向の違う長編で、
ファンタジーと現実とがリンクして、
1人の男と1人の女とが、
出逢い愛し、共に生きて行くことの、
奇跡を綴ります。
北野武の映画、特に「Hanabi」にちょっと似ていて、
後半はそんな感じになるのかしら、
と思って読んでいると、
意外に中段からは村上春樹タッチになり、
これもなかなか感動的なフィナーレを迎えます。
後半はもう少し別の話の方が良かったな、
とは個人的には思いますが、
主人公の危うい感性で受け止められた、
原色の世界は、
本当に魅力的で、
色彩が活字から、
溢れ出て来るような思いがします。
秘められた謎が、
「さくら」と比べるとちょっと変則な感じなので、
それが読後感を複雑なものにするのですが、
「きいろいゾウ」という埋め込まれた童話自体も、
感動的な出来栄えです。
これもお薦めです。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-08-18 12:14
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最近、ブログを読ませていただくようになりました。いつも感嘆しつつ、また、勉強させていただいております。一度直接お礼を言いたい気持ちになり、先日東京へ行ったときに勝手ながら立ち寄らせていただいきました。11:45 直前に受付して、最後の患者として短時間だけお会いできればご迷惑にもならないかと思ったのですが、迷ってしまい遅くなってしましました。こちらのかってな突然の訪問、失礼いたしました。スタッフの方の対応には感謝しております。
これからもブログ楽しみに読ませていただきます。
by 奈良のあきちゃん (2013-08-20 18:57)
奈良のあきちゃんさんへ
そうですか。
お逢いしたかったので、大変残念です。
今度もしお出でになる機会がありましたら、
先にメールでお知らせ頂ければ嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-08-21 08:25)