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有川浩集成(その1) [小説]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

8月15日まで診療所は夏季の休診中です。
今日はこれからまた奈良に行きます。
また骨折しないように気を付けます。
そんな訳で、明日は更新もお休みをさせて頂きます。

休みの日は趣味の話題です。

有川浩さんの著作をまとめ読みしたので、
何回かに分けてご紹介したいと思います。

人気作家ですから、
勿論僕などが改めてご紹介することもないのですが、
道楽の1つと思って頂ければと思います。

最初にトータルな感想を言いますと、
初期の「空の中」は力作で小説の楽しさを堪能させ、
「図書館戦争」シリーズには、
ある種の開き直りの魅力があります。
同時期の「レインツリーの国」と「阪急電車」は、
彼女の文学性の高さを感じさせる、
珠玉の工芸品のような作品で、
個人的にはその方向へ進むことを期待したのですが、
企画が先行する連絡短編という形式のものが乱発され、
その出来には首を傾げるようなものもあります。
その中では「フリーター、家を買う。」と、
「三匹のおっさん」は、
現代社会の構造そのものに切り込んだ力作ですが、
特に「フリーター、家を買う。」は、
抜群の発想が連絡短編の形式に、
縛られているような感があります。
最近の「空飛ぶ広報室」になると、
キャラが出来てそれでお終い、と言う感じなので、
ドラマの原作、と言う括りから、。
抜けたところのないのが残念に思います。
勿論売れっ子の宿命なのだと思いますが、
かつてのような、
磨き上げた工芸品のような恋愛小説や、
堂々たるロマネスク的な長編を、
期待しているファンも多いのではないでしょうか?

今日は処女作からの初期3部作編です。

まず、こちらから。
①塩の街
塩の街.jpg
2004年に電撃小説大賞受賞作となった、
有川浩のデビュー作です。

突如飛来した塩の隕石によって、
人間が次々と塩の柱になってしまい、
ほぼ人間が滅んでしまった近未来が舞台のSFで、
自衛隊の猛者の働きで世界は救われます。

まだ習作と言う感じです。
設定もヴォネガットの「猫のゆりかご」や、
バラードの「結晶世界」のようで、
ソドムとゴモラが元ですが、
咀嚼不足ですし、
世界が急に救われてしまうのも安易で唐突です。

ただ、キャラの魅力はありますし、
オープニングにいきなり泣かせがあるのも、
将来性を感じさせます。

スピンオフ的な短編が幾つかあり、
文庫版には一緒に収められています。

②空の中
空の中.jpg
2004年11月に発売された第2作で、
これは異生物とのファーストコンタクトを扱った、
堂々たる大作です。

こういうものは昔のSFにはよくあったので、
それほどの目新しさは感じないのですが、
あくまで正攻法である種の純粋さを保ちながら、
ともかく最後まで押し切るパワーが魅力です。

前作と比べると、
集合意識の生物が強制的に分離され、
人間に操作されて互いに争う、
という設定自体も巧みに出来ていて、
悪役の少女などのキャラ設定も巧みです。

結構お薦めで、
若書きの作家に特有の、
濃厚な小説世界に浸ることが出来ます。

③海の底
海の底.jpg
初期3部作の悼尾を飾る作品は、
今度はザリガニが巨大化したような怪物と、
自衛隊が戦うという、
怪獣映画の世界です。

これまでの作品以上に、
自衛隊の活動がより力点を置いて描かれていて、
硬軟2人組の自衛官は、
そのまま次作の「図書館戦争」シリーズに繋がります。

これを評価される方もいるので、
純粋たる好みの問題ですが、
僕はあまり乗れませんでした。

巨大ザリガニが、
あくまでただの「都合の良い敵役」としてしか描かれていないので、
要するに自衛隊の戦う相手が欲しかっただけなのか、
というような安易さを感じるからです。

悪党の子供が出て来ますが、
これも前作の少女に比べると、
悪への徹底ぶりが弱く、
安易に和解してしまうので、
これもちょっと釈然としません。

それでは今日はここまでです。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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