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肺癌のCT検診はどのような集団に行なうべきなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
肺がんのCT検診の対象者.jpg
今月のNew England Journal of Medicine誌に掲載された、
CTを使用した肺癌検診の対象者について、
検討した文献です。

肺癌の癌検診をどうするべきかについては、
色々な意見があります。

胸のレントゲン検査と痰の検査とを組み合わせた検診が、
診療所のある渋谷区では行なわれていますが、
こうした検診の意義は、
世界的には必ずしも評価されていません。

いや、
端的に言えば、
あまり意味がない、
という評価が一般的です。

肺癌の精密検査と言えば、
肺のCT検査がもう1つの選択肢になります。

CTを肺癌検診として活用する、
という考え方は、
実は日本から始まったのですが、
その時点では海外では、
そうした検診の意義はあまり評価されていませんでした。

それは1つには、
当時のCT検査の放射線の被爆量が、
かなり大きなものだった、
という点もありました。

それが最近の進歩により、
低線量のCT検査の導入で、
CT検査の被爆量は、
格段に低下しました。

ただ、そうは言っても、
通常のレントゲン撮影と比べれば、
遥かに被爆量の多い検査であることは、
間違いがありません。

そこで、
肺癌検診にCT検査を導入するためには、
その検診により、
確実に肺癌の死亡が減少した、
という臨床試験結果が必要です。

アメリカで、
1日20本のタバコを30年以上に相当する、
ヘビースモーカーを対象として、
低線量CTを用いた、
肺癌検診の効果を検証した、
NLSTと呼ばれる大規模な臨床試験が行なわれ、
その結果が2010年に報道され、
2011年にNew England…誌で論文化されました。

これによると、
5万人を超える対象者の、
5年間の解析の結果として、
肺癌の死亡率が20%、
肺癌を含めた総死亡が、
7%低下した、
という結果でした。
これは勿論相対リスクの低下です。

つまり、
大規模な臨床試験としては初めて、
低線量CTを用いた肺癌検診が、
有効なものとして確認されたのです。

ヨーロッパでも同様の研究が進行していますが、
まだトータルな結果は出ていないようです。

今回の論文は、
その画期的な結果を示した、
アメリカのNLSTのデータを利用して、
実際に検診を施行する場合、
どのような対象者に行なうのが、
最も有益であるかを検討したものです。

もともとNLSTという試験自体、
対象者にはかなりの絞り込みが行なわれています。

対象者はその生涯において、
1日20本のタバコを30年以上吸っていたことに相当する、
喫煙歴があり、
禁煙後の人では禁煙後15年以内に限り、
年齢は55歳から74歳までに絞っています。

しかし、
実際にはこの規定を設けたとしても、
受診者数は膨大なものになり、
コスト面から言って、
公的検診としての実施には、
かなりの困難が予想されます。

つまり、
もう一段の絞り込みが可能であれば、
より検診の意義は高まり、
コストパフォーマンスも高くなる、
という道理です。

本来はこうした検証が常に必要となるのですが、
皆さんご存じのように、
日本では「ともかく全員に洩れなく癌検診を!」
というような意見が強く、
こうしたデータを行政に活かす、
というような視点はあまりありません。

さて、
今回の検証においては、
肺癌による5年以内の死亡のリスクを階層化し、
その階層毎のCT検診の意義を検討しています。

階層化はその方の年齢、性別、人種、
体格、それまでに吸ったタバコの量、
禁煙後の年月、そして肺気腫の合併が、
死亡リスクに影響を与える因子として、
選択されています。

こうした要素を総合して、
5年間の肺癌による死亡リスクを、
0.15~0.55%の低リスク群から、
2.00%を越える高リスク群まで、
5つの群に分けて、
肺癌検診の効果を検証すると、
CT検診によって、
レントゲンのみの検診との比較で、
予防出来た肺癌による死亡数は、
年間10000人当たり、
最も低リスク群で0.2例、
最も高リスク群では12.0例となり、
リスクが高いほど、
検診の予防効果も高いことが明らかになりました。

低リスクの2群を除いた、
対象者の6割で、
実際に予防出来た肺癌死亡の88%が占められ、
実際には肺癌ではなかったのに、
肺癌と診断される比率は、
低リスク群でより高い傾向にありました。

つまり、
高リスクの対象者に限って、
CT検診を行なった方が、
検診の精度も上がり、
より効果的に肺癌の死亡を減らせる可能性が高い、
ということになります。

癌検診というものは、
闇雲に行なえばそれで良い、
というものではなく、
癌による死亡を、
検診を行なうことにより有意に減少させられるか、
と言う点が問題で、
それが一応確認された段階では、
今度はどのような対象者に、
検診を行なうのが、
最も社会的に有用性が高いか、
という検討がそれに続くのです。

振り返って日本の現状を見ると、
明確にそうした効果の確認された検診はほぼ皆無で、
検診者の絞り込みという観点も殆ど考慮されていません。
癌の予防ということを、
科学的に行なうのであれば、
もっとこうした検証こそが、
日本においても必要であるように、
思えてなりません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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