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唐ゼミ「夜叉綺想」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
夜叉奇想.jpg
唐先生が1974年に状況劇場で初演し、
その後おそらく一回も再演はされたことのない作品を、
唐先生の作品を専ら上演している唐ゼミが、
今浅草にテントを張って上演中です。

「夜叉綺想」は僕にとっては思い出深い作品です。

大学時代に学生劇団で芝居をしていた時、
上演作品の候補として、
一時上演の機会を窺っていたので、
単行本で何度も何度も、
舞台をイメージしながら戯曲を読んでいました。

前作の「唐版・風の又三郎」は名作の誉れが高く、
そのまま上演すると4時間近く掛かるという、
途方もない長さながら、
勿論唐先生以外の演出によるものですが、
結構上演がされていますが、
この「夜叉綺想」はほぼ上演機会は皆無なので、
謎めいていますし、
戯曲を読むと、
特に前半部分が長大な長台詞から始まり、
謎めいて暗い雰囲気の、
心象風景のような場面が連続するので、
一体どのようにして、
こんな場面が実現したのだろう、
と羨望に近いような思いがしたのです。

特に最初の長台詞と、
その後の雨の男と野口との掛け合いの場面は、
大学時代の下宿で、
何度も何度も声に出して台詞を読んでいたことを、
今でも懐かしく思い出します。

唐ゼミは、
唐先生の横浜国立大学時代のゼミが母体で、
唐先生の旧作の上演を続けています。

基本的に原作の台詞を、
そのまま忠実に舞台化していて、
演出もそう奇を衒わずに、
原作の上演当時のイメージを大切にしているので、
ややノスタルジーに傾斜した感じと、
素人劇団めいた感じはするのですが、
原作の戯曲の本質的な部分を、
しっかりと感じることが出来ます。

以下ネタばれを含む感想です。

今回の作品は、
状況劇場の最も脂の乗り切った時代の作品でありながら、
かなり地味で暗いムードを湛えていて、
特に1幕は場所も明確には特定されず、
闇の中をひたすらに彷徨うようなイメージがあります。

明らかにそれまでの作品とは、
別の方向性を探る試みだったと思うのですが、
2幕になると魔大研究室のパーティーという、
1つの場所で、
めまぐるしく主客が入れ替わりながら、
対立の構図が描かれる、
といういつものパターンになり、
3幕では急に神話の世界が出て来たり、
UFOが出て来たりして、
良く言えば先の見えないスケールの大きな世界、
悪く言えば支離滅裂な世界が展開し、
あまり抒情的とは言えない幕切れを迎えます。

作品の骨格としては、
一種の復讐譚で、
ヒロインの牛乃京子は、
自分の兄のゴーシュが、
魔大医学部のスーパードクター野口医師により、
ロボトミー手術を受けたことを恨み、
野口医師の一家に復讐の機会を狙っています。

まず野口医師の弟を、
罠に嵌めようとするのですが、
その弟に恋をしてしまうので、
復讐は破綻を迎えてしまうのです。

極めて古典的な筋立てなのですが、
野口医師やその係累の人々を、
一種の怪物として描いているので、
2幕になって怪物が暴走を始めると、
物語の骨格はぼやけて、
復讐する者とされる者との哀しい恋の行方は、
何処かに行ってしまったような感じになります。

唐ゼミによる作劇は、
基本的に作品の台詞をそのまま活かしていて、
好感が持てます。

特に感心したのは、
オープニングに舞台に張られた鉄の鎖が、
ジャリジャリと音を立てて姿を消し、
舞台が始まるという趣向と、
ラストに現れる巨大な牛のオブジェの処理です。
それから、
冒頭に雨の男達がゾロゾロ出て来るところや、
1幕のラストでいきなりヒロインが踊るところなどは、
そうだよね、これでなくちゃね、
と膝を打つような思いがします。
おそらくは初演通りの劇中歌も、
ノスタルジックでグッと来ます。

ただ、舞台は基本的に3幕とも外観は変化しないのですが、
これは如何にもまずくて、
特に2幕の研究室は、
矢張りそれらしい手術台などはないと、
雰囲気が高まりません。
また「雨の男」の出演シーンでは、
絶対に舞台に部分的にせよ雨が降るべきですが、
それがないのも残念でした。

唐先生は水が大好きですが、
唐ゼミ演出の中野さんは、
あまり水が好きではないようで、
いつもその点は不満が残ります。

役者さんはヒロインの椎野さんが、
今回は今一つ華がなくて、
冴えた感じがしなかったのと、
今回抜擢された相手役の熊野さんは、
悪くないムードを持っているのですが、
主役が張れるキャラではなく、
2人の掛け合いの場面が、
どんどん演技が小さくなるので、
ハラハラしながらの観劇になりました。

唐先生の演出では、
こうしたやや地味な場面でも、
音効を多用して、
ある種強引にメリハリを作るのですが、
今回の中野さんの演出では、
音効は控え目にしているので、
余程役者が大きな芝居を心掛けないと、
2人が向かい合って、
ボソボソしゃべるだけのような、
退屈な場面になってしまいます。

初演では怪優大久保鷹が演じた、
野口医師は、
若手の2枚目風の役者さんが演じていて、
勿論こうした演技でも演じられる役ではあるのですが、
割られた頭から機械がはみ出し、
人造人間キカイダーのテーマに乗って、
長台詞をしゃべるような役を、
まっとうにサラリと演じられると、
観ているこちらの方が、
何か恥ずかしい感じになります。
雨の男や紳士役の役者さんは、
それなりに面白いので、
余計に野口医師が浮いてしまっています。

また、2幕のめまぐるしい展開の処理は、
もう一工夫あるべきだったように思いますし、
血みどろの場面が、
淡白に流れたのも残念でした。
「誰かを刺そうとして間違えて別の誰かが刺される」
というようなパートが幾つもあるのですが、
非常に段取りめいていて、
その上下手糞なので、
「死の匂い」が全くしません。
これではいけません。

総じて力の籠った誠実な上演で、
長く僕のイメージの中だけにあった「夜叉綺想」が、
実体化したものを見ることが出来たのは幸せでしたが、
出来としては唐ゼミの公演の、
水準を下回るものだったように思います。

色々と事情はあるのでしょうが、
根津さんの役を熊野さんが演じることと、
大久保鷹さんや麿さんの役を西村さんが演じることは、
避けるのが適切ではないかと思いますし、
演出の中野さんが、
私服で舞台に上がり、
役者紹介をするのは、
いつも思いますが、
あまり良くないのではないでしょうか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 5

月子

風の又三郎・・・懐かしいです。大久保 鷹、根津 甚八などの名前も。今回の作品は観ていません。
お仕事がお忙しそうなのに、いろいろお芝居にも足を運ばれていてスゴイなと思います。
ただ、ここで知った時には大抵足を運べない日程なのが残念です。
観劇後の劇評なので仕方ありませんが。
また楽しみにしています。
by 月子 (2013-07-20 09:57) 

なな

ははじめて。パキシルのことを調べていくうちにこちらにたどり着きました。軽い育児ノイローゼからバキシルを処方され、10年服用しておりました。長期服用により、思考力がまとまらない感じになるのを機に、思いきって独断でやめ、1年になります。やめた当初は、頭痛、冷や汗、耳鳴りなど、ひどく辛い状態でしたが、漢方薬などでごまかしごまかし今日に至ります。徐々に頻度も少なくなってきているものの、いまだに無気力、無感動なつらい状態は続いています。

このまま時が過ぎるのを待つか、またパキシルを飲んできちんと治療した方がいいのか、悩んでおります。はじめてのコメントにこのような質問することは、失礼と感じながらも、自分ではどうしようもなく、もし、アドバイスいただけたら、、とコメントさせていただきました。

by なな (2013-07-20 12:36) 

なな

補足です。パキシルを服用していた頃の服用量は、一日40ミリでした。
by なな (2013-07-20 12:45) 

fujiki

月子さんへ
コメントありがとうございます。
最盛期の状況劇場をご覧になっているのは、
本当に羨ましいです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-07-22 08:20) 

fujiki

ななさんへ
コメントありがとうございます。
メールの方にご返信しますね。
by fujiki (2013-07-22 08:24) 

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