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IgA腎症に対する扁桃腺摘出とステロイドパルス併用療法 [殆ど日本だけの治療]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
扁摘パルスのメタアナリシス.jpg
2011年のNephrol Dial Transplantという雑誌に掲載された、
IgA腎症という病気に対する、
扁桃腺の摘出手術とステロイドの治療を、
併用する治療の効果についての、
これまでの報告をまとめた、
メタ解析の論文です。

シリーズと言う訳でもないですが、
「殆ど日本だけの治療」というカテゴリーの、
第1回目の記事です。

日本の医療では、
目を吊り上げて、
「グローバルスタンダードな治療を!」
とか、
「しっかりしたエビデンスのない治療はゴミだ!」
と絶叫調の発言をする先生がいる一方で、
世界中で殆ど日本でのみ評価され、
海外でのエビデンスなど皆無に等しい治療が、
偉い先生のそれなりのお墨付きの元に、
行なわれている、
という特殊性があります。

そうした治療が実は沢山あり、
それが結構メディアでは、
「画期的な治療」として宣伝されています。

場合によっては同じ先生が、
ある分野においては、
「こんな治療はRCTの成績がないのでまともには評価出来ない」
と言う同じ口で、
別の分野の治療については、
「あれは効きますよ」
と自分がやっている、
という理由や、
お友達の先生がしている、
というだけの理由で、
日本でのみ行なわれていて、
RCTの成績など皆無なのに、
結構評価してしまう、
というようなことがあります。

これこそ二枚舌の最たるものだと、
僕などは思いますが、
専門家と非専門家を問わず、
多くの皆さんは、
寛容に受け入れているようです。

むしろ多くの方は、
「あのエビデンスに厳しい先生が認めておられるのだから、
よく分からないが素晴らしい治療に違いない」
と思うのです。

勿論効果があれば、
患者さんにとってはそれで問題はないのです。

個人的には精度の高いデータや、
介入試験のデータが存在しなくても、
海外では評価の対象にならなくても、
その治療により救われている患者さんがいるのであれば、
その治療には一定の意味があると思います。

医療はサイエンスであると共にアートでもあり、
カルチャーでもあるので、
アートやカルチャーとして、
認知される治療があっても良い、
と考えるからです。

ただ、
サイエンスとはそれは明確に分けられるべきで、
そうでなければそれは代替医療と、
同じ次元のものになります。

僕が二枚舌だと言うのは、
一方でサイエンスとしての治療以外を認めない、
と言い、多くの代替医療を攻撃しながら、
その一方で「殆ど日本だけの治療」を、
それだけはサイエンスとして評価する、
というあり方のことです。

サイエンスを標榜するのであれば、
それは矢張り「日本だけの治療」では、
いけないのではないでしょうか?

まあ、そんな感じのシリーズを、
不定期でお届けしたいと思います。

その第1回は、
IgA腎症に対する扁桃腺摘出とステロイドパルスとの併用療法です。

IgA腎症というのは、
免疫グロブリンの一種であるIgAが、
腎臓に多量に沈着することにより、
腎臓の機能が慢性的に障害される病気で、
慢性腎炎の半数を占める、
日本で最も多い腎臓の病気でもあります。

この病気の治療として、
国際的なガイドラインにおいて推奨されているのは、
ACE阻害剤もしくはARBと呼ばれる薬剤の使用です。
おしっこに排泄される蛋白質が1日1グラム未満では、
上の血圧が130mmHg未満を目標とし、
尿蛋白がそれより多い場合には、
125未満が目標とされます。

数か月の治療により、
尿蛋白の改善が見られない場合には、
ステロイド治療が検討されます。

ただ、そうした治療が奏功しないケースが、
実際には少なからず存在し、
別個の治療が検討されることになります。

その中で、
特に殆ど日本でのみその効果が認知され、
積極的に行なわれている治療法が、
扁桃腺の切除と、
それとステロイドのパルス療法を組み合わせた治療法です。

扁桃腺における慢性の炎症があると、
そこから分泌されたIgAが、
IgA腎症の原因の1つとなるという考え方があります。

そのため、
その元を断つという目的のために、
扁桃腺の摘出を行なうのです。

慢性の扁桃腺炎を繰り返しているような方であれば、
扁桃腺の切除は合理的な治療ですが、
この治療の特殊性は、
必ずしもそうした症状が臨床的には存在しなくても、
扁桃腺の切除を行なう、
というところにあります。

この治療の効果は、
文献によっては9割を越える、
というビックリするようなものになっています。

しかし、
今月のthe New England Journal of Medicine誌の総説では、
この治療は国際的なガイドラインでは推奨されておらず、
その理由は専ら日本のみで行なわれていて、
RCTなどの精度の高い臨床試験のデータが、
存在していないためだ、
とはっきり書かれています。

上記の文献はその分野におけるこれまでの臨床試験のデータを、
まとめて解析したものですが、
対象となっている論文は7編のみで、
そのうちの6編は日本のもので、
残りの1編は中国のデータです。
その中に精度の高い介入試験のデータは、
1つもありません。

厚労省の研究班による介入研究が、
現時点で進行中とのことですが、
2011年の中間報告の結果では、
ステロイド治療と比較して、
それに扁桃腺の摘出を併用した治療の効果は、
有意な差が認められていません。

この試験の最終結果がどうなっているのかは、
把握していませんが、
少なくともPubMedなどで検索しても、
現時点でその結果は発表されていませんし、
それ以外の最近のこの分野での報告も、
相変わらず日本人による症例報告のようなものしかありません。

この治療を推奨される先生の意見では、
この治療はまだ1日の蛋白尿が1グラム未満のような、
初期の段階で行なうのが望ましく、
そうすれば完治する可能性が高い、
とされています。

しかし、
蛋白尿が1グラム未満であれば、
IgA腎症の予後自体が良好で、
自然に寛解するケースもあり、
少なくとも国際的なガイドライン上は、
ACE阻害剤等で血圧の管理をしつつ、
経過を見ても問題のないレベルです。

その時期に、
扁桃腺を摘出してステロイドを使用するような、
身体に負担の掛かる治療をして、
それが本当に良いことなのか、
という点については、
良いことなのかも知れませんが、
その「科学的な根拠」には乏しい、
ということもまた事実です。

こうした「殆ど日本だけの治療」を受ける場合には、
その世界的な位置付けについても、
患者さんにしっかり説明される必要があると思いますし、
それが本当に優れた治療であるならば、
それを国際的に認知される治療にすることも、
研究者や治療者の責務だと思いますし、
そのための研究体制については、
より整備がされるべきではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

テツ

おはようございます。

文章と関係はないかもしれませんが、先日、大腸カメラを受けた際に、オピスタンとドルミカムを投与する方法に変わっていました。
ドルミカムで眠たくなるのが嫌な僕は、オピスタンだけで検査を受けたのですが、検査時の痛みははっきりありました。おまけに、薬がなかなかきれず、2時間も病院で休んでいました。どうせ痛いならオピスタンなしのほうが検査後フラフラにならないから良かったです。
主治医が言うには、「今はどこでも麻酔をして大腸カメラをするのが一般的だ」って言ってましたが、現実は本当にそうなのでしょうか?
by テツ (2013-06-25 09:13) 

fujiki

テツさんへ
麻酔をしないで行なう医療機関もあります。
近隣の総合病院もその方式ですが、
今度は結構辛いことが多いので、
それほど評判が良い、
ということはないようです。
薬の合う合わないや、薬のリスクもありますから、
どちらが良いとは一概に言い切れません。
次は鎮静剤なしでの検査を、
ご希望されても良いように思います。
by fujiki (2013-06-26 08:42) 

テツ

お返事ありがとうございました。
今度は、麻酔なしで主治医にお願いしてみます。
by テツ (2013-06-27 08:00) 

やまんば@糖尿病

扁桃腺の炎症が腎臓に悪さをしているという例は多いようです。しかし炎症がないのに扁桃腺の摘出をするというのはいき過ぎかもしれません。
by やまんば@糖尿病 (2015-03-25 11:35) 

fujiki

やまんば@糖尿病さんへ
コメントありがとうございます。
扁桃摘出の適応については、
色々と議論があり、
決着が付いていないように思います。
by fujiki (2015-03-26 08:03) 

R.R

IgA腎症は、日本で多いそうですが、これは日本のオーラルケア後進国性と相関及び因果関係があるように思います。

虫歯や歯周病等の口腔疾病が放置されたり、オーラルケアが未熟なため、そこから起因して、腎臓病になるのだそうです。

実際、自分も虫歯治療を行ったところ、大幅に症状が改善しました。
by R.R (2015-04-24 21:43) 

fujiki

R.Rさんへ
コメントありがとうございます。
確かにそうかも知れませんね。

by fujiki (2015-04-25 06:08) 

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