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風疹ワクチン接種後の慢性関節炎について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
風疹ワクチンによる慢性関節炎.jpg
2005年のVaccine誌に掲載された、
ワクチン接種後の自己免疫疾患の発症についての、
総説的な文献です。

少し前にコメント欄でご質問を頂いたのですが、
安易にお答えはしたくなかったので、
下調べをしようと思い、
結局その時間が取れずに、
お答えが出来ないまま、
時間が経ってしまいました。

ご質問をされた方には、
大変申し訳がありませんでした。

遅ればせながら、
今回の記事をその回答とさせて頂きます。

コメントは風疹と麻疹の混合ワクチンの接種後に、
関節炎が起こり、
それが慢性の関節炎に移行した、
というケースのお話でした。

ワクチンの接種により、
慢性の関節炎が起こる、
というようなことが本当にあるのでしょうか?

風疹のワクチン接種後に、
関節炎が起こることは、
比較的頻度の高いこのワクチンの副反応として、
教科書的な書籍にも書かれています。

少し古い書籍ですが、
2000年の小児内科誌の「予防接種Q&A」には、
小さなお子さんでは風疹ワクチン(RA27/3株)の接種後に、
その0.5%で関節痛が認められ、
これが思春期以降の接種になると、
トータルな頻度で25%に関節痛が認められ、
10%には関節炎が認められた、
というアメリカの報告が載せられています。

これはかなりの頻度であることが、
お分かり頂けるかと思います。

ただし、
これは海外データで、
日本で使用している国産ワクチンとは、
使用されているウイルス株自体が異なります。

しかし、
国産ワクチンはその開発時においては、
高頻度に成人女性の関節炎を来し、
その後更に弱毒化を進めた、
という経緯があります。

これは勿論、こうした副反応にも配慮して、
より安全性の高いワクチンを開発した、
という意味ですが、
弱毒化してもそのワクチン株の、
本質的な性質が変化するとは考え難く、
低頻度ではあっても、
そのリスクは存在することを、
意味しているものとも考えられます。

2010年度の厚生労働省の、
ワクチン接種後健康状況調査のデータによると、
麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)の、
2歳未満の接種においては、
関節痛の頻度は0.1%で、
これが2期以降のより高い年齢での接種では、
0.6~0.9%に分布しています。

この頻度はお子さんでは、
アメリカのものとほぼ一致していますから、
これは明確なデータはないと思いますが、
思春期以降に接種した場合、
25%に関節痛が発症したとしても、
不自然なことではない、
という言い方は可能ではないかと思います。

この場合の関節痛は、
海外文献においては、
概ね接種後7日~21日の間に発症し、
数か月の経過で消退します。
勿論数日で治まるケースもありますし、
関節の脹れを伴う、関節炎の状態となると、
数か月続くこともある訳です。

そして、
その中で更に少数例では、
慢性の関節炎に移行するケースが存在します。

全文は読むことが出来なかったのですが、
2002年のClin.Exp.Rheumatolという雑誌に、
風疹ワクチンの接種後平均10~11日で、
慢性の関節炎を発症したケースを、
1年間経過観察した論文が掲載されていて、
その概要によると、
風疹ワクチンによる発症者の平均年齢は45歳で、
性差は3倍女性に多く、
破傷風の予防接種に伴う関節炎のリスクと比較すると、
32~53倍のリスク上昇があった、
と記載されています。
関節炎は少なくとも1年間は持続しています。

風疹ワクチン以外には、
B型肝炎ワクチンでも、
成人の接種で同様の関節炎の増加が、
報告されていますが、
こちらは破傷風ワクチンと比較して、
5.1~9.0倍のリスク上昇に留まっています。

つまり、
ワクチン接種後の慢性関節炎の発症は、
成人の風疹ワクチンの接種で圧倒的に多く、
しかも中年の女性で多い傾向にあります。

これはあくまで海外データで、
日本のワクチンにそのまま適応されるものではありませんが、
小児の関節痛自体の頻度は、
海外のワクチンと同等であることから、
国産ワクチンにおいても高い可能性は否定出来ません。

最初にご紹介した文献は、
これまでの報告をまとめたものですが、
そこにおいては、
風疹ワクチンの接種後に、
関節痛や一過性の関節炎の頻度は、
間違いなく増加するものの、
慢性関節炎については、
増加するという報告と、
明確な増加はない、
とする報告の両者があり、
まだ確定した事実ではない、
というニュアンスの記載になっています。

関節炎の原因は、
おそらくは体質的な因子と、
それがワクチンの免疫刺激により活性化されて生じる、
一種の自己免疫的な機序によるものと、
推測されていますが、
明確に分かっている訳ではありません。

それでは今日のまとめです。

B型肝炎ワクチンや風疹ワクチンの接種後、
概ね10日から20日くらいの間に出現する関節痛や関節炎は、
ワクチン接種による副反応の可能性があります。
その発症はお子さんでは非常に稀ですが、
思春期以降の女性で多い傾向があり、
稀に慢性の関節炎に移行することがあります。

日本でのその頻度は、
僕の調べた範囲では、
精度の高いデータは存在しないと思われますが、
今後日本においても、
より実証的な検討が必要だと思いますし、
特に35歳以上のご年齢の女性が、
風疹ワクチンを初回で接種する場合には、
そのリスクが通常よりかなり高い可能性がある、
という点に注意する必要がありますし、
医療者もそうしたことを充分説明した上で、
ワクチン接種を行なう必要があると考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 1

kamiko

はじめてコメントさせて頂きます。
MRワクチンによる関節痛について調べていたところ、以前「風疹ワクチン接種後の慢性関節炎について」書かれていた先生のブログを見つけて拝見させて頂きました。わたしは1月後半にMRワクチン接種して数日後から2カ月過ぎた現在まで関節の痛みが続いています。どこの病院でも検査結果に異常なく、MRワクチンにより関節痛が続くという事例は少ないのか分かりませんが、MRワクチンの副反応がここまで長く続くとは考えにくい、経験がないので分からないなどと言われまともに取り合って頂けません。痛みが自然に消えていくのか、それともブログの内容にあったように慢性化するのかとても不安な日々です。市販の鎮痛薬を飲みつつ経過を見るしかないのでしょうか?
by kamiko (2016-03-30 16:48) 

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