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薬が身体に合う、ということ [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は漢方薬についての雑談です。

漢方薬については、
色々な考え方があります。

個人的には12年ほど前に、
鍼灸の講習を受け、
その時に証の捉え方や脈診、腹診などについて、
比較的系統的な知識を身に付けました。

その後何度かツムラなどの講習会にも出席し、
それから一時期台灣出身の鍼灸師の方に、
診療所で鍼灸治療をしてもらっていたので、
その時にも意見交換をしつつ知識を深めました。

漢方薬に効果があるか、
という点で言えば、
それは間違いなく効果はあります。

ただ、その効果というのは、
「身体に合っている」という性質のものなので、
西洋医学的な治療効果というものとは、
その視点が少し違うものとして、
僕は理解しています。

その時の身体の状態に合った漢方薬をお飲みになると、
「何となく調子が良い」という実感が、
身体の奥からじんわりと現れます。

漢方薬が効く時というのは、
概ねそのようなもので、
その感覚は早ければ内服後すぐに現れ、
遅くとも数日飲むと感じることが出来ます。

漢方薬にも、
急性期の処方と慢性期の処方とがありますから、
その効果の出方には差があります。
慢性期の処方であれば、
その本来の効果は、
じわじわと出て来る性質のものもあるのですが、
それでも仮に2週間飲み続けて、
何らピンと来るものがなければ、
その漢方薬は効いてはいないのです。

西洋医学畑の医者で、
漢方をお好きで処方をされる方は、
必ずこうした「良く効いた」漢方の事例を経験しています。

めまいと口の渇きと言えば、
馬鹿の1つ覚えのように処方している、
17番の五苓散が、
ある人に処方したところ、
劇的な効果を示して、
それまでの身体のだるさもお腹の不調も、
頭の中のモヤモヤも、
たちどころに…というのは大袈裟ですが、
徐々にしかし確実に良い方向に向かうことが、
明瞭に患者さんの声や態度で確認されるのです。

通常僕のような内科の医者は、
患者さんの症状を無理なく取る、
というような治療をあまりしていません。

糖尿病も高血圧も、
どちらかと言えば、
少し数値が高いくらいの方が体調が良いのです。
薬を飲んでも、
体調には何ら変化がないか、
むしろ悪く感じることもあります。
それを、血液検査や血圧測定をすることにより、
数値によって良い状態であることを、
患者さんに確認してもらうことになる訳です。

患者さんに良くなっていることを、
実感して頂けないことほど、
臨床医として悲しいことはありません。

そんな中で、
たった1種類の漢方薬が、
患者さんの身体の状態に、
自覚的に明確な効果を現わすのを実際に経験すると、
正直漢方の虜になります。

そして、
患者さんがあまり望まれてもいないのに、
やたらと漢方ばかり、
押し付けるように処方する医者になるのです。

しかし、
本当にその方の身体に合った漢方を選択し処方することは、
それほど簡単なことではありません。

ご存じの方が多いと思いますが、
漢方の処方の基礎には、
「証」というものがあって、
その患者さんに東洋医学的な診察を行ない問診をして、
その患者さんの身体の状態を示す「証」を把握し、
それに合った漢方を選択するのです。

ただ、
素人に毛が生えた程度の医者が診れば、
外ればかりでも当然ですが、
大々的に漢方外来を謳っている大学病院でも、
そこから流れて来た患者さんのお話を聞く限り、
百発百中というにはほど遠く、
まあ半分程度当たれば名人級ではないか、
という程度が実際のように思います。

名人から習いたての医療者の処方を含めて、
「まあ、先生が『効いたでしょ』と言うから、
何となく悪くて同意したけど、
本当はあまり変わりはないんだよね。
でも多分漢方なんてそんなもんでしょ」
というようなことが、
実際には多いからです。

でも、
本当は漢方は「そんなもの」ではないのです。

漢方の効果を科学的に解明するために、
名人が「証」を選択した患者さんを2つに分け、
一方には名人が選択した漢方薬の現物を飲んでもらい、
もう一方には全然別個の処方を飲んでもらって、
その効果の差を検証するような試験を、
行なえば良いのではないか、
というような意見を開陳されている方がいます。

しかし、
それは僕には無理筋のように思います。

多数の患者さんを対象にして、
そうした試験をすれば、
当然両方の群に明確な差は付かないと思います。

名人であっても的中率は大したことはなく、
明確な効果を示した少数の患者さんを、
そこから拾い出すことは困難なように思えるからです。

その人のその時の身体の状態に合った漢方薬とというものは、
ツムラなどのエキス剤にはなくても、
間違いなく存在し、
それを飲むことにより、
患者さんの身体の状態が、
自覚的にも他覚的にもより良いものになる、
という現象のあることは事実です。

僕自身そうした経験を一度ならずしていますし、
漢方を好んで処方される医者は、
間違いなくそうした経験をしています。

そうした経験をした医者は、
間違っても漢方に効果がない、
というようなことは言いませんが、
そうした経験のない方は、
逆に漢方の効果を信じません。

漢方薬が西洋医学の体系と、
少なからず乖離している部分があるのは、
主にそうした点にあるように思います。

個人的にはそれで良いように思いますし、
症例報告はドシドシ出すべきですが、
偽薬と対照するような、
大規模な臨床試験のようなものは、
こうした治療の効果の実証には、
あまり役に立たないように思いますし、
またそれで良いのではないかと思います。

そうした意味では、
漢方薬も間違いなく代替医療の1つなのです。

あなたに合った漢方薬を見付けることは、
確実にあなたを高める行為です。
それは間違いなくあなたにとって意義のあることであり、
何度も失敗を繰り返さなければならないことも、
稀ではありませんが、
それでもその苦労に見合うものであり、
僕自身も未熟ではありますが、
そうした漢方探索のお手伝いが、
少しでも出来れば良いと思いながら、
日々の診療に当たっているのです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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てつ

僕は漢方を信じています。
葛根湯・桂枝湯・麦門冬湯・小清竜湯・ケイシカシャクヤクトウ・ダイサイコトウを服用したことがあります。
若いころ、ダイサイコトウのみで脂肪肝が治りましたし、葛根湯では胃にくることがあるので、桂枝湯を飲みますが、よく効きます。
以上に上げた漢方は僕の体質に合うのか非常によく効きます。
しかし、精神科の主治医は漢方を信じてないので処方してくれません・・・。

安中散と桂枝湯・ケイシカシャクヤクトウは同時服用してもいいのでしょうか?
もしよろしければご教示ください。
お願いいたします。
by てつ (2013-05-25 09:47) 

今野祥山

血圧の薬を2種類飲んで血圧自体は130台に落ち着いていますが肝心の腎機能低下の状態は改善していないことが判りました。
減塩も6ヶ月以上続けましたがクレアチニン値は下がってくれません。
腎臓仙と言う漢方の存在を知りましたが一度担当医に漢方を試してみたいとお願いしてみるつもりです。
by 今野祥山 (2013-05-25 22:05) 

レイコ

代替医療というのは評価が難しいですね
by レイコ (2013-05-26 11:17) 

fujiki

テツさんへ
いずれもそれほど目的の変わらない処方ですから、
単独で使用することをお勧めします。
最もお身体に合った薬を、
継続するようにするのが良いのではないでしょうか。
by fujiki (2013-05-27 08:19) 

fujiki

今野祥山さんへ
腎機能がお悪い時には、
漢方薬の使用は注意が必要だと思います。
悪化する可能性もあり、
その予測は難しいので、
お使いになる場合は、
慎重に行なう必要があると思います。
by fujiki (2013-05-27 08:26) 

fujiki

レイコさんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-05-27 08:29) 

テツ

お忙しい中、お返事いただきましてありがとうございました。
by テツ (2013-05-27 11:54) 

akemi

お疲れのところもうしわけありません。

神経症,不眠症で抑肝散を3包処方されています。(安定剤・睡眠導入剤も服用しています)。
最近少しずつ眠れるようになったのですが昨日より,足のだるさ,軽いむくみ,まぶたが重い症状があります。抑肝散の副作用かなと思うのですが,こんな後から(飲み始めて2ヶ月ほど)出ることもありますか? 飲む量を減らせばいいのかやめるべきかアドバイスをいただきたくコメントしました。
調剤薬局に相談したら「何ともいえない。受診してください」とのことでした。主治医は漢方には詳しくないようですし,予約も来週なのでそれまでどうしようと困っています。(外来は月・火のみ)
by akemi (2013-05-29 18:14) 

fujiki

akemi さんへ
基本的には相性の良い薬であれば、
使用後2ヶ月で、
そうした副作用が生じる可能性は、
低いと思います。
どちらかと言えば、
別個の原因を疑います。
主治医の先生にお願いして、
おしっこと血液の検査は、
念のためしておいた方が良いように思います。
肝機能障害などの可能性も否定は出来ません。
ただ、
お薬として心当たりが漢方以外ないのであれば、
一旦止めて様子を見ても、
悪くないと思います。
この場合は、
減量ではなく、
スッパリと止めて様子を見て、
良いと思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2013-05-29 22:21) 

akemi

早速のお返事ありがとうございます。
昨夜よりスッパリと止めました。抑肝散。
諸検査は主治医にお願いしてみます。
by akemi (2013-05-30 17:49) 

akemi

こんにちは。お忙しいところ失礼します。
前々回書き込んだあと,太股の筋肉痛も出てきて
思い切って抑肝散を止めたのです。
4日ほどで筋肉痛はほとんど無くなりました。
むくみはまだ少々あります。
本日,診察日でいきさつと諸検査をお願いしました。
が,「検査結果をみても,僕は判断できない。内科を受診して」
と,断られました。(県立病院です)
びっくりしました。ネット情報ではありますがカリウム濃度がわかれば・・・と考えていたので。
抑肝散をやめたから因果関係が判断できないのでしょうか?
肝機能障害などは専門外だからなのでしょうか?

さまざまな症状は緩和されつつありますが
やはり,内科を受診した方がよいと思われますか?


by akemi (2013-06-03 15:19) 

fujiki

akemi さんへ
大きな病院では、
どうしても診療は専門の範囲のみ、
ということになるようです。
体調が改善されていれば、
そのままでご様子を見て頂いても、
良いのではないかと思いますが、
ご心配でしたら、
内科で検査をして頂いても、
悪くはないように思います。
by fujiki (2013-06-03 22:06) 

akemi

お返事ありがとうございました。
足のだるさ。むくみ。手の指の違和感は
まだあります。副作用,長く続くのかしら。

様子を見て,仕事の休みの土曜日に
近所の内科を受診します。

抑肝散の副作用・・・
ベンゾ系の薬を止めるのが先だと
考えていたので,残念です。
by akemi (2013-06-04 21:14) 

akemi

たびたびすみません。
事情をお話しし
内科で尿・血液検査をしてきました。
「異常はありません」との結果でした。
が,帰宅してじっくり見ると
生化学の最下段に
「乳び- 溶血- 黄疸1」???
それだけは基準値の記載はありません。
どう捉えたらいいですか?
尿ビリルビン- AST,ALT r-GTPなどは基準値内です。
T-Bil D-Bilは検査項目に入っていませんでした。
信頼している先生のご意見をいただきたく。
by akemi (2013-06-08 15:31) 

fujiki

akemi さんへ
血液が採取後に少し壊れたので、
そうした記載があるのだと思います。
よくあることですので心配はありません。
乳びは血液の脂質が多いと出易い所見ですが、
実際の数値に問題がなければ、
これも心配は要らないと思います。
by fujiki (2013-06-10 08:35) 

akemi

日々お忙しいのに研鑽を続けていらっしゃる先生。
ご回答,ありがとうございました。ほっとしました。
AST,ALT r-GTPの数値が2月のドック時より上昇していることに
帰宅後気づき,ん~と思っているところでした。ドックの結果表を持参して相談すれば良かったと。後の祭りですが。
by akemi (2013-06-10 18:22) 

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