SSブログ

若年性脳卒中の長期予後について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
若年性脳梗塞の予後.jpg
今月のJAMA誌に掲載された、
若年性脳卒中の、
発症後の20年における、
長期予後を検証した論文です。

脳卒中というのは、
脳梗塞と脳出血とを併せた用語です。
脳内出血は高血圧によって起こることが多く、
脳梗塞は身体に血栓という血の塊が出来易い体質や、
心臓の病気、
動脈硬化の進行などによって起こります。

このため、
脳卒中の多くは50歳以上で発症しますが、
中にはより若年での発症があり、
概ね18歳から50歳までの間に起こる脳卒中を、
若年性脳卒中と呼んでいます。
ただ、これは必ずしも国際的な定義のようなものではなく、
文献によっては45歳までになっていたり、
40歳までになっていることもあります。

若年性の脳卒中では、
動脈硬化の進行による原因は、
当然少ないので、
高齢者の脳卒中とは別個に考える必要があります。

これまでにも何度か取り上げましたが、
身体に血栓の出来易い体質や、
心臓の中に小さな穴が開いていたり、
血管に出来た傷が原因になったりと、
その起こり方にも、
高齢者とは違いがあるのです。

高齢者の脳卒中は特に発症後数年の間は、
再発が多く、
そのため再発予防の治療が、
必要となることがしばしばです。
当然その長期予後も、
脳卒中を起こしていない方とは違います。

ただ、
その予後のデータが、
原因の異なる若年性脳卒中の患者さんにおいても、
そのまま当て嵌まるとは限りません。

たとえば30代の方が、
脳梗塞の発作を起こし、
後遺症なく回復をしたとします。

その後のその方の人生において、
どのようなリスクがあり、
どのような点に注意をすれば、
そのリスクを最小に出来るのか、
というようなデータは、
非常に重要なものになりますが、
実際には若年性脳卒中自体の頻度が少ないので、
これまでに、
まとまった長期予後のデータは、
殆ど存在しませんでした。

今回の研究はオランダにおいて、
1980年から2010年に発症した、
発症当時18歳から50歳までの患者さん、
トータル959名のその後の経過を、
平均11.1年間観察したという、
これまでにない大規模な、
「若年性脳卒中の長期予後」の疫学研究です。

脳卒中発症後30日間は生存した患者さんの、
その後20年間の累積の死亡のリスクが、
主なターゲットになっています。

結果として、
観察の終了時には全体の2割に当たる、
192名の患者さんが亡くなられています。

患者さんの発症時の年齢を考えると、
これはかなりの高率であることが、
お分かり頂けるかと思います。

若年性脳卒中を、
一過性脳虚血発作
(一時的に症状が出現しますが、
血管の閉塞には至らずに回復したものです)
と脳の血管が詰まることによる所謂脳梗塞、
そして脳内出血に分けて検討すると、
一過性脳虚血発作の20年間の死亡リスクは、
同年齢のご病気のない方との比較において、
2.6倍に上昇する、
と計算されています。

同様にして脳梗塞の死亡リスクは3.9倍に、
脳内出血の死亡リスクも同じく3.9倍に上昇しています。

これを18歳から29歳で発作を起こした患者さんに、
限定して計算すると、
その後の20年間の累積の死亡リスクは、
ご病気のない方の15倍、
という高率になります。

この年齢の死亡率は元々低いので、
計算上はこうした高率になる訳です。

実際に亡くなられた患者さんの、
死亡原因を見てみると、
最も多いのが心疾患で全体の26.2%を占め、
次に多いのが悪性腫瘍で、
それに感染症と脳梗塞の再発が続いています。

つまり、
単純に脳卒中の再発が、
予後に影響をしているのではなく、
若年性に脳卒中を起こされた患者さんには、
心臓を含めた他の問題がある可能性が高く、
それがトータルに予後に影響をしていることが、
推察されます。

若年性の脳卒中は数的には少ない病気ですが、
後遺症なく回復をされても、
その後の人生において、
無視出来ない影響が残る可能性があります。

ただ、現状はその点について、
明確な管理指針が示されているとは言い難く、
特に原因不明の発作の場合には、
定期的な管理自体が、
長期的にはなされていないケースが大多数だと思います。

今後よりこうした研究は進められるべきだと思いますし、
何らかの治療的な介入や、
生活指導などを行なうことにより、
長期予後が改善されるかどうかの検証も、
必要なのではないかと思います。

今回の文献から、
そこまでの読み取りは困難ですが、
アルコールと喫煙とは、
リスクに影響している可能性が大きく、
若年性脳卒中に罹患された患者さんは、
禁煙と節酒は必須のように思います。

明日は若年性脳卒中の原因の1つとして注目されている、
卵円孔開存症の治療介入の効果について考えます。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(32)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 32

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0