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三上延「ビブリア古書堂の事件手帖」 [ミステリー]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
ビブリア古書堂の事件手帖.jpg
漫画化やドラマ化もされた、
三上延作の人気シリーズで、
現在までに4作品が刊行されています。

お読みになった方も多いかと思いますので、
僕がわざわざ言うようなこともないのですが、
構成が非常に巧みで、
特にこの第一作は読み応えがあります。

内容は一種の安楽椅子探偵ものです。

安楽椅子探偵というのは、
探偵は一切自分では活動せず、
刑事や頭の廻らないワトソン役などの話だけを聞いて、
それだけを手掛かりに事件を解決する、
という趣向の、
ミステリーの一形式です。

ミステリー、特に謎解きが主体の本格ミステリーの読者は、
謎解きに参加したい、
という意識を持って作品を読むことが多いので、
この安楽椅子探偵ものは、
探偵と読者が同じ立場に立つ、
と言う意味で、
ミステリーの純粋な形式の1つ、
と考えることが出来るのです。

語り手は五浦大輔というフリーターの青年で、
彼がひょんなことから、
北鎌倉にあるビブリア古書堂という古書店に、
アルバイトとして雇われ、
その店の若い店主である、
篠川栞子という女性が探偵役で、
大輔が持ち込んだ、
古書にまつわる謎を、
栞子が解く、
という構成になっています。

この第一作では、
何故か彼女は病院に入院していて、
そこに大輔が訪ねて行く、
という始まりになっています。

病院のベッドから離れずに謎を解くので、
安楽椅子探偵、という訳なのです。

クレヴァーなのはその構成で、
本にまつわるミステリーということで、
連作短編の形式になっているのですが、
まず大輔自身のプライヴェートな謎が解かれ、
それから、
大して価値のない本が、
何故盗まれたのか、
というホワイダニエットの小ネタが続き、
3番目は今度は古書店への謎の来訪者から、
意外に奥行きのある結末が導かれ、
最後は栞子さんが、
何故入院することになったのか、
という原因が明らかになって、
それまでの挿話が1つに結び付いて結末に至ります。

何だこの程度ね、
と思って読んでいると、
意外に深い世界に導かれ、
後半は本当にワクワクします。

取り上げられる古書も、
漱石全集から入って、
小山清の「落穂拾ひ」に、
クジミンの「論理学入門」が意表を突き、
ミステリーファンにはお馴染みの絶版本、
ディキンスンの「生ける屍」が出て来るとニヤリとしますし、
最後に太宰の「晩年」のサイン入り初版、
というビブリアミステリらしい大物が、
控えているのもふるっています。

これは本当に良く出来ているので、
続編が書かれたのは必然だと思いますが、
2作目以降は安楽椅子探偵という、
趣向自体が崩れてしまい、
その代わりに栞子さんの、
「謎の母親」との対決、
というちょっと恥ずかしくなるような趣向が、
作品のメインテーマになるので、
勿論詰まらなくはありませんが、
個人的にはこうした方向には、
進んで欲しくはなかったな、
と思います。

特に最新作の四作目は、
連作短編という形式自体が崩れてしまって、
全編が江戸川乱歩の謎解きになるのですが、
母親との暗号解読対決という、
お尻がムズムズするような内容になっていて、
ハリーポッター的な世界が展開されるので、
僕とは無関係な遠い世界に行かれてしまったな、
と思いました。

ドラマ版は、
原作の4作品をバラバラにして、
再構成したような趣向になっています。
栞子さん役のタレントさんは、
原作のイメージとは全く違うので、
原作の好きな方が、
憤りを感じる気持ちは分かります。
しかし、
全くの別物として見れば、
それなりに工夫がされていると思います。

ただ、
第一作は素晴らしいので、
原作を先に読まずにドラマをご覧になった方は、
本当に勿体ないことをしたな、
とは思います。

僕は書物という形式が大好きですが、
もう早晩失われる文化だと思います。

書物に対する愛情を描いた作品が、
この作品や有川浩さんの「図書館戦争」のように、
ライトノベルのジャンルから出て来るのは、
何となく不思議な感じがしますが、
書物が失われる時代に、
僕達が何を感じるべきなのかは、
もう少し深く考える必要があるようにも思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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