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脳梗塞における血管内治療の効果と安全性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
急性脳梗塞の血管内治療.jpg
今日も今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
脳梗塞の急性期の最新の治療法と、
その有効性の比較についての論文です。

雑誌の同じ号には、
他にもこのテーマについての、
2編の論文が掲載されています。

脳梗塞の急性期の治療として、
その発症から3~4.5時間以内というように、
多くの制限はありますが、
近年最も有効性の高い治療として、
行なわれているのは、
組織プラスミノーゲン活性化因子、
略してt-PA を静脈に注射する、
という方法です。

脳梗塞というのは、
脳を栄養する血管が、
何らかの原因で詰まり、
脳の神経細胞が死んでしまう病気です。

この病気の多くは、
最終的には血管に血の塊が詰まることによって起こります。

血の塊が詰まってから、
それほど時間が経たない状態で、
t-PAを使用すると、
血の塊が溶けて再び血流が再開します。
t-PAは血栓溶解剤なのです。

ただし…

この治療による治療後24時間以内の再開通率は、
上記の医学誌の解説では、
アメリカのデータとして、
内頸動脈では14%という低率で、
中大脳動脈でも55%に留まっています。

つまり、
こうした太い動脈が詰まることが、
最も深刻な影響を与えるにも関わらず、
そうした病変に対するt-PAの効果は、
それほど高いものではありません。

更には発症後3時間からせいぜい4.5時間、
というハードルはかなり高いもので、
急性脳梗塞を起こした患者さんのうち、
実際にt-PAの適応とされて使用されたのは、
そのうちの1割に満たなかった、
という海外統計もあります。

ここでt-PAと併用、
もしくはt-PAの適応ではない脳梗塞に対して、
別個の治療として期待されているのが、
「血管内治療」です。

これは、
専用の器具を用いて、
血管を詰まらせている血の塊を、
掻き出して血流を再び開通させる、
という直接的で物理的な方法です。

実用化されている方法には、
針金の付いたカテーテルを血栓に引っ掛けて、
それをカテーテルごと回収する、
Merci(メルシー)と呼ばれるシステムと、
ポンプ付きのカテーテルで、
血の塊を吸い込んで処理する、
Penumbra(ペナンブラ)と呼ばれるシステムが、
日本でも既に使用が開始されています。

それ以外に海外においては、
Solitaire(ソリテア)とTrevo(トレボ)と呼ばれるシステムが、
実用化されています。
この2つの方法はいずれも、
ステントと呼ばれる金属の網目の管を、
血栓で詰まっている部分に挿入し、
その網目に絡め捕るようにして、
血栓を回収する方法です。

これはステントが広がった段階で、
一定の血流が再度得られるようになるので、
それまでの方法より安全性と有効性が高いことが、
期待されています。

こうした物理的な器具を用いた方法は、
内頸動脈や中大脳動脈の、
太い部分に血の塊が詰まった場合には、
より確実な血流の再開が期待出来ます。

その治療直後の再開通率で言えば、
間違いなくt-PAの治療に勝ります。

ただ、
問題は患者さんのより長期の経過で、
それを確認するためには、
こうした器具を使用しないでt-PAのみを使用した場合と、
器具を使用した場合とで、
患者さんの予後にどのような差があったのかを、
直接比較するような臨床試験が必要です。

今回ご紹介する論文はその1つで、
急性心筋梗塞に罹患し、
その発症4.5時間以内に治療が可能であった、
18歳~80歳までの362名の患者さんを、
血管内治療とt-PAを併用する治療と、
t-PAのみの治療とにくじ引きで割り付け、
その後3カ月の経過を観察しています。

その結果…

後遺障害がなく3カ月後に生存していた患者さんの比率は、
t-PA単独治療群で34.8%で、
血管内治療併用群で30.4%と、
有意な差は認められませんでした。

出血などの合併症やそれによる死亡等に関しても、
トータルには明確な差が付いてはいません。

要するに血管内治療を行なっても、
行なわないでt-PAの治療のみを行なっても、
患者さんの数か月程度後の状態には、
明確な差は付かない、
という結果です。

この論文においては、
血管内治療にどのような器具が使用され、
血流の再開通がどの程度あったのかの詳細は、
明らかにされていません。

同じ雑誌に掲載されたもう1つの論文では、
656例の患者さんを、
矢張り血管内治療の併用群とt-PA治療の単独群に割り付けています。

アメリカ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパと、
患者さんも広い範囲で選ばれていて、
メルシー、ペナンブラ、ソリテア、
いずれの器具も使用がされています。

治療後24時間時点での血流の再開通率は、
内頚動脈でも81%で、
t-PA単独の35%と比較すると格段に良いのですが、
実際の患者さんの予後については、
90日後の時点で矢張り明確な差がなく、
試験は早期に中止されています。

更にもう1つ別の論文においては、
CT検査もしくはMRI検査で、
血管内治療の成功の可能性を判断した上で、
より効果の期待出来る患者さんに限って、
血管内治療を併用していますが、
それでも矢張り患者さんの予後には差が付いていません。

つまり、
現状ではt-PAの適応のある急性脳梗塞の患者さんに対して、
血管内治療を一緒に行なっても、
単独の場合に比較して、
患者さんの予後を改善する、
というデータはありません。

より悪いとは言えませんが、
良いという根拠もないのです。

ただ、血管内治療の器具は日々進歩しており、
ステント型の器具はそうでないものより、
成功率も長期予後も良い、
というデータもありますから、
そうした最新の器具のみを用いた試験を行なえば、
また別箇の結果が出る可能性もあります。

こうしたカテーテル治療の進歩は目覚ましいものですが、
治療した時点で血流が改善する、
ということと、
実際にその患者さんが障害なく回復する、
ということとは同じではなく、
急性脳梗塞の血管内治療に関しては、
まだ患者さんの予後に対する改善効果は、
t-PAによる治療を単独で行なう場合と比較して、
明確に良いとは言えない点には、
注意が必要なように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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