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心血管リスクと体重のパラドックス [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
体重と降圧剤併用の効果.jpg
昨年12月にLancet誌に掲載された、
心筋梗塞や脳卒中のリスクが、
体重によってどう変化するのかを、
ACCOMPLISH試験という、
大規模な臨床試験のデータを元にして、
解析したものです。

ざっと目は通していたのですが、
何だサブ解析か、
という感じであまり重要視していませんでした。
それが、
先日あるMRの方から説明を受け、
なるほどと思ったので、
今日ご紹介したいと思います。

肥満が内臓脂肪の蓄積によって、
動脈硬化を進行させ、
脳卒中や心筋梗塞のリスクになることは、
皆さんもよくご存知の事実です。

これはつまり、
肥満の方は動脈硬化の病気になり易い、
ということを示しています。

ところが、
臨床試験の結果などを解析すると、
心筋梗塞などを起こした患者さんにおいては、
肥満の人の方がそうでない人より、
その再発のリスクは低くなる、
という不思議な結果が報告されます。

高血圧においても、
同じようなことが言えます。

肥満の方は高血圧になり易い、
というデータがある一方で、
高血圧の患者さんを調査してみると、
肥満の患者さんの方が、
そうでない患者さんより、
矢張り心筋梗塞や脳卒中のリスクは低いのです。

この一見矛盾する現象を、
どう考えれば良いのでしょうか?

上記の文献の著者らは、
それは治療による差ではないかと考えました。

肥満によるリスクの調査、
というような場合には、
高血圧の治療をしているような患者さんは、
外されていることが多いのですが、
高血圧と診断されている患者さんの、
その後のリスクという場合には、
殆どの患者さんは薬による治療を受けている方です。

つまり、
肥満の患者さんの方が、
その後の心筋梗塞などのリスクが低い、
というデータは、
実は体重を考慮しないで行なわれている、
高血圧に対する治療が、
肥満のない患者さんに悪影響を与えているか、
それとも、
肥満の患者さんにより良い効果を与えているのかの、
どちらかの可能性が考えられる、
ということになるのです。

この仮説を検証するために、
ACCOMPLISH試験という、
高血圧に対しての治療についての大規模臨床試験のデータを、
体格別に再解析し、
体格と治療法の差による、
その心筋梗塞や脳卒中の予防効果の差を、
検討しています。

ACCOMPLISH試験というのは、
ベナゼプリルというACE阻害剤というタイプの降圧剤を、
基本の治療薬として、
それにアムロジピンというカルシウム拮抗薬というタイプの薬か、
ハイドロクロロサイアザイドという利尿剤を、
そこに併用する2種類の治療法を、
比較検討した試験で、
その結果はアムロジピンの併用の方が、
心筋梗塞や脳卒中の発症リスクや死亡リスクを、
有意に低下させた、
というものでした。

このデータを体格の指標である、
BMI別に解析し直したところ、
アムロジピンの併用群では、
BMIが25未満、25~30未満、30以上で違いはなく、
いずれも良好なリスク低下を示しましたが、
利尿剤の併用群では、
BMI30以上の肥満群では同等の効果がある一方で、
30未満では予防効果はより低いものになりました。

つまり、
単純化して言えば、
利尿剤を併用した治療は、
合併症の予防効果に関しては、
BMI30以上の肥満でしか効果がない、
ということになります。

これが仮に事実として、
どのようなメカニズムが考えられるでしょうか?

肥満者では水分と塩分との蓄積がより大きく、
その意味で利尿剤の使用は理に適っているのですが、
たとえば痩せている患者さんでは、
むしろ脱水傾向になっているので、
利尿剤の使用が血管を詰まり易くして、
心筋梗塞や脳卒中のリスクを高めたのではないか、
とも考えられます。

ただ、
こうしたことがBMI30以上という、
日本人の感覚からすると、
「高度の肥満」においてのみ、
認められるというのは、
何かしっくり来ないものがありますし、
日本人にこうしたデータをそのまま適応するのは、
適切ではないように思います。

いずれにしても、
体格を含めた患者さんの個々の状態により、
血圧の薬の選択も、
本来は変えるのが適切なことは間違いがなく、
こうしたデータも参考にしながら、
日々の診療に当たりたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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