抗けいれん剤のダイエット効果について

こんにちは。

六号通り診療所の石原です。

入院して手術をして、
ボンヤリと寝て、
ミステリーを4冊読んだら、
少し気分が違います。

気分の変わるのは良いことなのですが、
左手のギブスで仕事は、
憂鬱になりますね。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
何もなければ午後はゆっくりするつもりです。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。

Arch Intern Med誌に今月オンライン掲載された、
ゾニサミドという抗けいれん剤の、
体重減少効果についての文献です。

ダイエットには様々な方法があり、
医療では決め手のないこともあって、
怪しげなものも含めて、
一大ビジネスになっているのは、
皆さんもご存じの通りです。

欧米においては、
日本以上に肥満の問題は大きく、
様々な対策が取られると共に、
有効性のある薬剤の開発も進められています。

しかし、
現状安全性と効果の両面において、
満足のゆく治療薬のないのが実際で、
そのために多くの医療外ビジネスが、
成立しているのです。

その中で、
2003年にこのような論文が出ています。

ゾニサミド（商品名エクセグラン）という抗けいれん剤があります。
この薬はナトリウムチャネルとカルシウムチャネルをブロックすることにより、
神経細胞の過剰な興奮を抑え、
けいれん発作に有効性を示します。

その一方で、
この薬はドーパミンやセロトニンという、
神経伝達物質の作用を増強することが確認されていて、
そのためにパーキンソン病の治療補助剤として、
トレリーフという別の商品名で、
高額な薬価の薬品にもなっています。

この薬の臨床試験において、
体重減少が有害事象として報告されています。

この点に着目した上記文献の著者らは、
この薬剤を、
肥満症の治療薬として使用することを考え、
低カロリーのダイエットに加えて、
偽薬の使用とゾニサミドを、
患者さんにも主治医にも分からないような形で使用し、
その効果を4カ月に渡り検証しています。
例数は各群30例ずつと少なく、
ゾニサミドは1日100mgから開始し、
無効であれば段階的に1日600mgまで増量されます。

その結果、
偽薬が平均で0.9キログラムの減少に留まったのに対して、
ゾニサミド群では5.9キログラムの減少を認めました。

これが2003年のデータです。

最初にご紹介した今年の文献は、
同じ著者らによるもので、
同様の目的の臨床試験ですが、
例数はトータルで225名と多く、
ゾニサミドは1日200mgと400mgという2つの用量に、
最初から設定され、
使用期間も1年間という、
ダイエットの試験としては長期間に設定されています。

その結果…

今回は偽薬での体重減少の平均は4.0キログラムで、
ゾニサミド200mgでは4.4キログラム、
400mgでは7.3キログラムの減少になり、
400mgの使用でのみ、
有意な体重減少効果を示していました。

ただし、
400mgの使用においては、
吐き気や頭痛、
注意力低下などの副作用が、
偽薬より有意に多く認められました。

細かい経過を見ると、
開始後4カ月くらいでは、
200mgの低用量でも、
偽薬より勝る効果が得られているのですが、
1年後にはその差はなくなっています。

つまり、
こうした試験は最低でも半年以上の観察期間はないと、
あまり意味のないものになる、
という言い方が出来そうです。

上記の2つの論文から、
ゾニサミドに一定の体重減少効果のあることは、
間違いのないことのように思えます。

ただ、意地悪く考えると、
有害事象の吐き気などのために、
食欲が低下したことが、
主な要因のようにも思えます。

問題なのは、
この薬をてんかんやパーキンソン病の患者さん以外に、
使用した場合の比較的長期間の安全性で、
安易な使用は慎むべきだと思います。

一方で大多数の脳に作用する薬剤が、
体重を増加させる中で、
ゾニサミドだけが明確な体重減少作用を持つことは、
非常に興味深く、
そのメカニズムの解明により、
安全で確実性のある肥満症治療薬の開発と、
抗精神病薬などによる体重増加の有害事象のコントロールに、
結び付くような知見の得られることを、
期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

コメント 1

石原先生、こんにちは。
ギプスの御不自由、お察しいたします…。

薬に頼って安定した日常を暮らす患者にとって
体重増加は加齢と共に足腰が弱ることへの
不安材料の一つですから本当にその日が早く来る事、
期待するし、願います。
by さくら (2012-10-24 11:57)