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心筋梗塞における胃薬と抗血小板剤の併用の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
心筋梗塞後のPPIとH2の比較.jpg
今年のAmerican Journal of Gastroenterology誌に掲載された、
薬の副作用の消化管出血の予防のため、
使用される2種類の胃薬の効果を比較した論文です。

急性心筋梗塞の治療後には、
再度心臓の血管が詰まるのを防ぐ目的で、
抗血小板剤と呼ばれるタイプの、
「血をサラサラにする薬」を、
2種類以上併用して使用することが一般的です。

欧米において、
その組み合わせの代表は、
アスピリンとクロピドグレル(商品名プラビックス)の併用です。

この両者の併用の、
心筋梗塞の予後改善効果は確立したものですが、
出血の副作用のリスクが、
増加する点が1つの問題です。

アスピリンとクロピドグレルの併用の場合、
最も多い出血系の合併症は、
消化管出血とされています。
中でも多いのが、
胃潰瘍や十二指腸潰瘍、
胃のびらんからの出血です。

そこで、
胃酸を抑え潰瘍を治療する胃薬を、
抗血栓剤と併用することにより、
このような胃や十二指腸からの出血を、
予防出来るのではないか、
という発想が生まれ、
使用が試みられているのが、
H2ブロッカーと呼ばれる胃薬と、
プロトンポンプ阻害剤と呼ばれる胃薬です。

H2ブロッカーは、
商品名ではガスターやタガメット、プロテカジンなどがあり、
現在では薬局でも買うことが出来ます。

プロトンポンプ阻害剤は、
H2ブロッカーより強力な胃酸抑制効果を持つ薬で、
オメプラゾールやランソプラゾール、
エソメプラゾールなどがあります。

これまでの臨床試験の結果において、
プロトンポンプ阻害剤は、
アスピリンによる胃潰瘍の二次予防には効果が確認され、
H2ブロッカーも、
痛み止めによる潰瘍の予防効果があったとする、
研究結果が発表されています。

こうした結果を元に、
アメリカの循環器学会は、
2010年に2種類の抗血小板剤を併用する際には、
プロトンポンプ阻害剤の併用を推奨しています。

しかし、
こうした急性心筋梗塞後の併用治療において、
H2ブロッカーとプロトンポンプ阻害剤の効果を、
直接比較した信頼のおけるデータは、
あまり存在してはいませんでした。

そこで今回の論文では、
急性心筋梗塞や、
それに準じる病態で、
急性のカテーテルを行ない、
アスピリンとクロピドグレルを併用した患者さん311名を、
くじ引きで2つのグループに分け、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方ではH2ブロッカーである、
ファモチジン(商品名ガスター)40mgを、
もう一方ではプロトンポンプ阻害剤である、
エソメプラゾール(商品名ネキシウム)20mgを、
それぞれ使用して、
その経過を平均19週間程度観察しています。

その結果、
胃薬の予防の対象となる、
上部消化管出血の発症は、
一定の重症度以上のものに限ると、
ネキシウム群では163名中1例、
ガスター群では148名中9例発症し、
有意にネキシウムの方が、
予防効果が高い、
という結果になりました。

心筋梗塞の予後や再発は、
両群で差はありませんでした。

つまり、
心筋梗塞後で2種類の抗血小板剤を使用するような状況では、
プロトンポンプ阻害剤を使用するのが適切で、
H2ブロッカーでは充分でない可能性が高い、
という結果です。

クロピドグレルと、
オメプラゾールというプロトンポンプ阻害剤との併用は、
クロピドグレルの効果を減弱する可能性が指摘されていますが、
現状ネキシウムでは、
そうしたことを示唆するデータはないようです。

ただ、これはあくまで比較的短期間のデータで、
長期に及ぶプロトンポンプ阻害剤の使用は、
骨粗鬆症のリスクを増やしたり、
場合により発癌リスクとの関連も示唆されるなど、
解決すべき問題も多く残しており、
短期的にはその併用の効果は間違いのないものと思いますが、
長期の使用の安全性と効果については、
今後の検証が必要な事項だと思います。

今日は胃薬による、
抗血小板剤の副作用予防効果についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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 さすらいの、、、

循環器の医院でpaf のためワーフアリン2㎜を服薬していますが、胃部不快感があり胃腸科のクリニックでムコスタ100ミリとパリエット10を処方してくださいました。以前に循環器の先生がプロ阻害剤ではタケプロンより良いと書かれていましたので安心して服薬していましたが効果なく、むしろ悪く感じられましたので今はムコスタを半錠のみですごしています。paf と胃痛は関係ないと胃腸科ではいわれましたが、逆流性食道炎とは違う胃部熱感に悩まされています。後期高齢者特有のものなのでしょうか。今朝の記事で考えてしまいました。
by さすらいの、、、 (2012-08-29 08:40) 

闘病中おばさん

詳細かつ有益な情報を 誠にありがとうございました。
今年の8月 脳梗塞を患いました。
幸運にも後遺症がない 軽症でございましたが
しかし 血圧が不安定で
プラビックスとネキシウムを処方され飲んでいます。(このほかに リバロ、バルサルタンも飲んでいます)

WEB検索で 上記の薬の検索をしましたら このHPにたどり着きました。

最初は プラビックスとバイアスピリンを飲んでいましたが 内出血(青あざ)が出まして
バイアスピリンは 服用を中止となりました。

薬は 長期的に服用になるらしいので 不安があります。

大変 参考になり 思わず このHPの著者のかたにお礼を申し上げたくなりました。
ありがとうごじました。



闘病中のおばさん


by 闘病中おばさん (2016-12-05 22:05) 

fujiki

闘病中おばさんさんへ
コメントありがとうございます。
励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2016-12-06 07:29) 

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