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利尿剤の使用と乳癌の発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
スピロノラクトンと乳癌.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
スピロノラクトンという利尿剤と、
その使用による将来的な乳癌リスクについての論文です。

スピロノラクトン(商品名アルダクトンAなど)は、
アルドステロンという、
身体の水分と塩分とを、
保持する働きのあるホルモンの作用を、
妨害することにより、
おしっこの量を増やし、
血圧を低下させる作用の、
所謂利尿剤と言うタイプの薬です。

この薬は日本においても、
高血圧の治療や心不全の治療、
肝硬変に伴う腹水の治療などに、
広く使用されています。

スピロノラクトンは、
1960年以前からある古い薬で、
最初はもっぱら利尿剤として使用されていました。

それが心不全の治療に対して、
大きく注目されるきっかけになったのは、
10年余前の知見によるものです。

1999年に発表されたRALES 試験という大規模臨床試験があり、
これによると、重症の心不全の患者さんに、
従来の治療に加えてスピロノラクトンを上乗せすると、
しない場合に比べて、
心臓死を含む総死亡を、
約3割有意に減少させたのです。

何故アルドステロンの作用を抑えることが、
心臓死を減らすのか、というメカニズムについては、
完全に分かっている訳ではありません。

ただ、心不全の患者さんでは、
アルドステロンの受容体の数が増え、
その働きが異常に亢進した状態にあることは事実です。
動物実験のレベルでは、
この受容体の増加は、
心臓の繊維化を進め、
心臓の働きを弱めるとされています。

従って、アルドステロンの受容体を抑えることで、
そうした心臓の繊維化が抑えられ、
心臓の機能低下が進行しないために、
心臓死が減少したのではないか、
と推測されるのです。

ただ、このスピロノラクトンには問題があります。
この薬はアルドステロンの受容体ばかりではなく、
男性ホルモンや女性ホルモンの受容体にもくっつく作用があるので、
そうした内分泌や性腺の副作用が出易いのです。
その作用はスピロノラクトンそのものばかりでなく、
その代謝産物の一部にあると考えられています。

男性においては、
勃起不全や、
乳輪が女性のように大きく硬くなる、
所謂女性化乳房、
そして女性では月経痛などの原因となると共に、
危惧されるのが、
女性ホルモンに関連するタイプの癌である、
乳癌などの誘発作用です。

動物実験で発癌性があるのでは、
というデータがあり、
今回の文献を読むと、
そのためにイギリスでは、
1988年以降スピロノラクトンの高血圧への使用は、
認められていないのだそうです。

しかし、
人間において、
その発癌性を明確に証明したようなデータは、
実際には殆どありません。

そこで今回の研究では、
イギリスの医療データベースを活用し、
129万人余の55歳以上の女性を対象として、
心不全や高血圧に対するスピロノラクトンの処方と、
その後の乳癌の発症についての関連性を、
後ろ向きのコホート研究の形で検証しています。
患者さんは乳癌の既往はない方に限っています。

その結果、
スピロノラクトンの使用と乳癌の発症との間には、
何ら関連性は認められませんでした。

従って、
勿論不必要な投薬は厳に慎むべきですが、
スピロノラクトンの使用が有用と考えられる、
心不全や高血圧の患者さんでは、
乳癌のリスクの高い年齢であっても、
その使用を控える必要は、
必ずしもないと考えて良いようです。

今日は利尿剤と、
その乳癌発症リスクとの関連性についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ekoppi

私は、長い間アルダクトンを服用しているので
この記事を読んで安心しました。
いつも有意義な情報をありがとうございます。
by ekoppi (2012-07-21 19:48) 

fujiki

ekoppi さんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-07-23 09:00) 

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