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お子さんの肺炎の指標としての呼吸数の意義について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
呼吸数と気道感染論文.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
簡単な診察所見によって、
お子さんの肺炎の危険性を見分ける、
指標の有用性についての論文です。

特に1歳未満の小さなお子さんの肺炎というのは、
重症化し易く、
一般の臨床においても、
その適切な早期診断が、
必要不可欠になる病気の1つです。

これが大人でしたら、
肺炎を疑った段階で、
すぐに胸のレントゲンと血液の検査をして、
それで診断は付きますが、
それが困難であるのが、
検査のリスクが大人より高く、
可能な検査の範囲も限られている、
小さなお子さんの難しさです。

もっとも、
大人でもこれが施設に入所された、
寝たきりのお年寄りや、
認知症の進行した方であれば、
また別の理由で、
診断も検査も困難になります。

検査を行なわず、
診察の所見のみから、
肺炎のリスクが高いかどうかを、
正確に見分けることの出来る指標があれば、
これほど心強いことはありません。

僕のような一般診療の医療機関においては、
高次の医療機関にご紹介する患者さんを、
どのように見分けるかが、
一番のポイントになり、
そのためには、
簡便でお子さんにも負担が掛からない方法が、
より望ましいと思われるのです。

こうした診察所見の指標の中で、
有用性が高いとされているのが、
1分間の呼吸数で、
その判断をする、
という方法です。

呼吸の数というのは、
小さなお子さんでは多く、
大人になると少なくなります。
しかし、これが細菌感染で発熱を伴うような状態になると、
普段より格段に呼吸数は増加します。

従って、
ある年齢毎の基準値よりも、
呼吸数が一定レベルを超えて多い状態であると、
肺炎のような感染症の可能性が、
高くなると考えられるのです。

これまでに使用されている指標に、
APLS値というものがあり、
これは1歳未満では1分間に40を超える場合、
1歳から2歳未満では35を超える場合、
2歳から5歳未満では30を超え、
5歳以上16歳未満では25回を超える場合に、
肺炎を含む下気道感染症の可能性が高い、
という判断になっています。

しかし、
この基準は発熱の程度による、
呼吸数の上昇という因子を無視しているので、
発熱のみによる上昇であるのか、
感染症による上昇であるのかが、
分離されていない、
という欠点があり、
そのために診断を誤るケースが多い、
という指摘がありました。

そこで今回の研究では、
イギリスとオランダの病院の小児科の臨床データを元に、
年齢と発熱のレベル毎に、
階層化した呼吸数を統計的に割り出して、
下気道感染症を鑑別する、
新たな指標を創設し、
それを元にして、
実際に肺炎などの患者さんを予測することが出来るかどうかを、
前向き観察研究として検討しています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
呼吸数と気道感染のリスクの図.jpg
1555名のお子さんのデータを元に、
呼吸数を階層化した表がこちらになります。
たとえば、
1歳未満で38代の発熱のある場合、
そうしたお子さんの97%は、
1分間の呼吸数が72以下になります。

ここで72を超える呼吸数が観察されれば、
そのお子さんは肺炎などの細菌感染症に、
罹患している可能性が高いと判断するのです。
元の基準ではこの数値は40ですから、
かなり高く設定されたことが分かります。

それでは、
実際にこの指標を、
臨床の診断に応用した結果はどうだったのでしょうか?

新しい基準の特異度は94%になりました。
すなわち、
この基準で陰性の場合に、
そのお子さんの94%は、
肺炎などの下気道感染症ではありませんでした。
一方で元の基準を採用した場合の特異度は53%ですから、
かなり有用性が増していることが分かります。

やや馴染みの薄い指標ですが、
下気道感染症のないお子さんの、3.66倍は、
病気のあるお子さんは陽性率が高くなります。

こういう廻りくどい指標を用いるのは、
感度、すなわち、
この基準を超えた場合に下気道感染症である確率は、
21%と低いものになるからです。

つまり、陰性であれば、
肺炎などの可能性は極めて低くなりますが、
呼吸数の上昇する原因はそればかりではないので、
的中率はあまり高いものにはならないのです。

このデータは海外のものなので、
そのまま日本の臨床に応用することは慎重であるべきですが、
1つの指標としての意義は大きく、
一般臨床の武器になり得るものだと思います。

いつも思うことですが、
こうした本当の意味で、
一般の臨床に役立つ研究を、
あまり日本の臨床研究者はやりません。

喜んでやるのは、
新しい検査法を試してみたり、
新しい薬を試してみたりする研究です。
何か新しいことをやっている、
と言う感じが有って派手に見えますし、
やることはシンプルで頭はあまり使わず、
スポンサーも付き易いからです。

しかし、こうした一見他愛がなく、
詰らないように見える研究こそ、
真の意味で患者さんのためにすぐになることなので、
他人の文句ばかり言わず、
僕自身もそうした目で、
例数は少なくとも、
臨床データをまとめる努力は、
したいと思います。

今日はお子さんの呼吸数と、
細菌感染症との関連性についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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