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前糖尿病状態における治療の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
前糖尿病状態における治療.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
前糖尿病状態における、
血糖正常化への介入の、
患者さんの予後に対する効果についての文献です。

前糖尿病状態というのは、
以前にも何度か記事で取り上げたことがあります。

糖尿病は身体がブドウ糖を、
上手く利用出来なくなった状態のことですが、
その診断は通常は血液の血糖値により行われます。

血圧など他の指標の場合もそうですが、
これは人間が恣意的に決めたものですから、
何処からを病気として、
薬を使うなどの治療の対象になるものかは、
明確に1本の線が、
何処かで引ける、というものではなく、
一定のグレイゾーンがあり、
またその数値も変更されることがあります。

そして、
糖尿病の場合、
正常の血糖と明確な糖尿病との間に、
境界型糖尿病と言ったり、
前糖尿病状態と言ったりする、
一種のグレーゾーンが存在します。

血圧の場合もそうですが、
グレイゾーンにおける医療の介入の考え方、
というのは常に問題となる事項です。

糖尿病の場合、
前糖尿病状態にある人では、
そうでない人の数倍は将来的に糖尿病になる可能性が高く、
一部の糖尿病に特有の血管の異常に関しては、
前糖尿病の状態から既に進行している、
という知見もあります。

そのために、
前糖尿病状態から治療を開始した方が、
よりその方の予後を改善するのではないか、
という考え方があり、
日本のメタボの検診後の保健指導というのも、
そうした考え方が基礎にあります。

ただ、
そのために保健指導をしたり、
生活習慣の変更を促すことまでは良いのですが、
血糖を低下させるような薬を使用するということになると、
それが本当に将来的にその方のメリットになるかどうかは、
まだ異論のあるところです。

薬というのは身体にとって異物ですから、
当然一定の有害事象が存在します。
しかし、その一方でその効果は、
生活指導よりは確実です。

従って、
薬物治療がその患者さんにとって、
真に有益なものであるかどうかは、
その効果と弊害とのバランスを、
慎重に吟味した上で決定するべき事項なのです。

今回の論文は、
DPPと名付けられた糖尿病の予防に関しての、
大規模な臨床試験のデータと、
その後の経過観察の結果を元にして、
一旦血糖値を正常化することが、
前糖尿病状態の方にとって、
どのような意味を持つかを検証したものです。

まあ、一種のサブ解析で、
この論文のみのために、
データが収集された訳ではありません。

3800人余の前糖尿病状態の患者さんを、
ほぼ1000人ずつの4つの群に振り分けます。

生活習慣の改善を指導する群と、
メトホルミン(商品名メトグルコなど)を使用する群、
そして偽薬を使用する群と、
トログリタゾンという薬を使用する群です。
ただ、このトログリタゾンは、
有害事象の問題があり、
試験は中止されています。

平均の治療期間は3.2年です。
その後、今度は未治療での観察期間に入ります。
それが平均5.7年間です。

その結果…

一旦血糖値が正常化した患者さんでは、
そうではない患者さんに比べて、
その後に糖尿病に移行するリスクが、
56%低下していました。

この研究においては、
治療期間の終了時に、
前糖尿病状態が持続していた患者さんのうち、
その後6年で4割以上の患者さんが糖尿病に移行しています。
それが2割未満に抑えられているのです。

そして、
メトホルミンの使用でも生活改善でも、
場合によっては偽薬でも、
血糖値の改善さえあれば、
ほぼ同じように糖尿病への移行は抑制されています。

つまり、
治療法には関わらず、
ともかく一旦血糖値を、
限りなく正常に近付ける期間を、
数年間設けることで、
その後は治療が行われなくても、
糖尿病への移行は阻止されるのです。

今回の結果をどのように考えるべきでしょうか?

糖尿病への進展を阻止する上で、
早めの血糖正常化への介入は、
それが短期間であっても、
その患者さんの経過に良い影響を与える可能性があります。

まずは保健指導のような介入が優先されるでしょうが、
それで困難な場合には、
薬剤の使用も1つの選択肢です。

ただ、今回のデータは数年間の、
糖尿病への進展に限った検討であり、
合併症の発症や生命予後への影響については、
まだ未知数の部分を残しています。

更にはこれは欧米のデータで、
肥満の高度な患者さんが多く、
メトホルミンの使用の適否を含めて、
この結果が直接日本人でも当て嵌まるかどうかは、
何とも言えません。

ただ、多くの前糖尿病状態の患者さんにとっては、
意義のある情報であることは確かで、
こうしたデータも念頭に置きながら、
末端の医療者として、
患者さんの今後の健康維持のために、
日々努力は続けたいと思います。

今日は前糖尿病状態における、
治療についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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