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化血研のインフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの発症について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

昨年からインフルエンザワクチンの、
小児用量が変更になりました。
日本のこれまでの小児用量は、
効力の強かった全粒子型と呼ばれるワクチンの時代に、
決められたもので、
それが安全性は高く効果は落ちる、
スプリットタイプのワクチンに変更された後も、
その効果のしっかりとした比較や検証のないまま、
そのまま使用されていた、
という経緯があります。

それを、
昨年から遅ればせながら、
海外用量と同一のものに改めたのです。

その結果として、
たとえば3歳から5歳までの年齢層では、
これまでの倍以上の用量が接種される、
という形になりました。

急に接種用量が倍以上になって、
それで何か問題は生じないのでしょうか?

ワクチンの副反応が、
増えるようなことはないのでしょうか?

その危惧は多くの親御さんが、
お持ちになったのではないかと思います。

それに対して、
大多数の専門家の方のご意見は、
問題はない、というものでした。

実際にはどうだったのでしょうか?

概ね現時点までの昨シーズンの解析では、
それまでと明確な変化は見られていません。

ただ、一点のみ問題になった事項があります。

それが、化血研のワクチンによる、
アナフィラキシーという重症のアレルギー反応の増加です。

日本のインフルエンザワクチンは、
輸入ワクチンも使用自体は可能ですが、
実際にはほぼ100%、
国産の4社のメーカーのワクチンが使用されています。

そのうちの1社が化血研です。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザのアナフィラキシーの図.jpg
これは厚生労働省の当該問題についての、
報告書の資料から取ったものです。
2,007年から昨年までの、
それぞれのシーズンのアナフィラキシーの報告数が、
一覧表になっています。

ご覧頂くとお分かりになるように、
昨年から急激に増加しています。

季節性ワクチンの時代には、
毎年せいぜい数例であったものが、
昨年はそれまでの4倍以上の42例が報告されています。

特に12歳以下の小児の報告数は、
前年の9倍近く増加しています。

接種量が倍以上になった3~5歳の年齢層では、
それまで殆ど報告がなかったにも関わらず、
10例の報告があり、
その多くが重症の事例です。

これはとても偶然とは思われません。

この結果は昨年の12月には公表され、
それを元にしてアナフィラキシーの原因についての、
詳細な検証が行われました。

しかし、
皆さんはこの事実をご存じだったでしょうか?

報道もされたとは思いますが、
かなり控え目なものだったと思います。

この結果は化血研のワクチンに限ったものです。

その事実を重要視する立場に立てば、
一旦化血研のワクチンを回収しても、
良かった筈です。

しかし、
そうした方針は示されませんでした。

色々な立場はあるでしょうが、
この判断は僕は正直疑問に思います。

アナフィラキシーの原因の検証結果は、
どのようなものだったのでしょうか?

上の表をもう一度ご覧下さい。

明確に接種用量の増加した年齢層で、
発症が増えていることが分かります。

つまり、この現象はワクチンの量と関連があります。

更にそれほど著明とまでは言えませんが、
2007年と2008年以降とを比較すると、
そこから発症が増えている傾向があります。

2008年以降から、
変わったものとは何でしょうか?

インフルエンザワクチンには、
一部のシリンジタイプのもの以外には、
全て防腐剤が入っています。
インフルエンザワクチンは、
何回かに分けて使用することがあるので、
その間の雑菌の侵入などを防ぐ目的です。

この防腐剤には、
国内でも国外でも、
もっぱらチメロサールという成分が使用されています。

ただ、このチメロサールには水銀化合物が微量ながら含まれていて、
それがお子さんの神経の発達などに、
影響を与えるのではないか、
という意見があり、
一時非常に問題になりました。

そのために、
チメロサールを使用しないワクチンを製造しよう、
という動きがあり、
その1つの試みとして、
フェノキシエタノールという防腐剤を使用したのが、
化血研のインフルエンザワクチンです。

化血研のワクチンが、
全てフェノキシエタノールに切り替わったのが、
2008年のことです。

そして、
現在国産4社のうち、
フェノキシエタノールを使用しているのは、
化血研のみなのです。

このことから、
フェノキシエタノールが、
アナフィラキシーの原因となっているのではないか、
という推測が生じます。

研究班ではアナフィラキシーを来した方の背景を、
詳細に検証し、
特定の素因とは無関係の可能性が高いことや、
特定のロットや他に接種したワクチンとの関連もないことを、
確認しています。

すると、
矢張り共通して含まれている、
フェノキシエタノールが怪しい、
ということになります。

アナフィラキシーを起こした患者さんには、
その血液中にインフルエンザの抗原に対する、
特異的IgE抗体が検出されています。

IgE抗体は1型アレルギーに関わりがあり、
これはワクチンの成分がアナフィラキシーを起こしたことを、
立証するものです。

こうした反応は大なり小なり、
ワクチンを接種した多くの人に、
出現する現象です。

しかし、
大多数の方はアナフィラキシーにはなりません。

つまり、
何らかのアレルギー反応を増強する因子が、
ワクチンの成分の中にある筈です。

ここで研究班では、
好塩基球活性化試験、という手法を用い、
アレルギー反応の増強の有無を検証しています。

好塩基球の活性化の程度は、
アレルギー反応の増強を、
ある程度定量的に検証出来る指標なのです。

その結果…

インフルエンザの抗原に対して、
IgE抗体が検出された患者さんの血液に、
フェノキシエタノールを反応させると、
好塩基球の活性化が刺激される、
という結果が得られました。

もう1つ興味深い結果として、
フェノキシエタノールを含むワクチン製剤では、
時間経過と共に、
インフルエンザの抗原の粒子の大きさが、
増加する傾向が認められました。

これはフェノキシエタノールと抗原とが、
何らかの相互反応をすることにより、
免疫刺激が増強する可能性を示唆しています。

そして、
チメロサールをフェノキシエタノールの代わりに使用しても、
好塩基球の活性化は、認められませんでした。

こうした結果を受けて、
今年からの化血研のインフルエンザワクチンは、
防腐剤としてフェノキシエタノールの使用を中止し、
チメロサールを復活させる方針となったのです。

この検証結果のみで、
必ずしもフェノキシエタノールが黒とは言えませんが、
かなりの灰色であることは確かで、
接種者の安全を優先する立場から、
そうした決定が行われたのです。

これは極めて迅速な決定であったと思います。

今回の検証は非常に迅速かつ精緻なもので、
その点は素直に素晴らしいと思います。
ただ、その間の情報管理の在り方には、
疑問も覚えます。
もう少し別の対応の仕方も、
あったのではないか、
と思えるからです。

今回の結果から思うことは、
1つにはワクチンも生ものであって、
時間と共に変化があり得るので
(上記のデータは開封して常温時のものですが)、
極力早期に使用するのが望ましいのではないか、
ということです。

もう1つは今回のような詳細な検証が、
ワクチン以外の全ての薬剤についても、
迅速に行われるようになれば、
薬の副作用は著明に減少し、
薬害に苦しむような方も、
間違いなく少なくなるのではないか、
ということです。

薬の安全性を保つとはそういうことです。

たとえば、
ジェネリック薬品では、
先発品とは添加物が異なる場合があり、
それにより副作用が増える可能性も、
決して否定は出来ないのです。

限られた財源の中でも、
安全性を重視するような立場が、
もっと医療にはあるべきではないでしょうか?

今日は化血研のインフルエンザワクチンによる、
アナフィラキシーの増加とその原因についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
最初の記事には余計な入れ事が多かったので、
削除してポイントのみを整理することにしました。
(2012年6月18日午後2時修正)
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