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深部静脈血栓症の除外診断について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
D-ダイマーのカットオフ値.jpg
British Medical Journal誌の今月号に掲載された、
深部静脈血栓症の除外診断のために用いる、
D-ダイマーという名称の血液検査の、
基準値についての文献です。

深部静脈血栓症というのは、
主に骨盤や足の静脈に血栓が出来、
それが血行不良を起こしたり、
炎症を起こしたりすると共に、
他の場所に飛んで、
そこに塞栓症を起こす、
という病態のことです。

最も深刻なものは、
肺の動脈に血栓が詰まる、
肺血栓塞栓症で、
大きな血栓が詰まれば、
命に関わるような事態となります。

深部静脈血栓症には、
幾つかの臨床的な診断基準がありますが、
簡単な検査で早期に診断することは、
難しい病気であることも知られています。

息苦しさや脈拍の上昇などの所見と共に、
血液検査で重要視されているのが、
D-ダイマーという検査です。

D-ダイマーは血栓の分解産物の1つです。
人間の身体は血栓が出来ると、
それを溶かす線溶というメカニズムが作動するので、
血栓は部分的に溶解し、
それが血液中に検出されるようになります。

従って、
血液検査でD-ダイマーが検出されなければ、
身体に血栓はなさそうだ、
ということになりますし、
仮に一定レベルを超える検出があれば、
深部静脈血栓症などの、
血栓症の可能性がありそうだ、
ということになるのです。

全身に血栓が出来る病態の代表が、
DIC(播種性血管内凝固症候群)と呼ばれるもので、
この場合D-ダイマーは著明に上昇します。

ただ、
深部静脈血栓症の場合には、
全身に血栓の出来るような病態とは違うので、
その上昇の程度は軽度です。

そこで問題は、
数値がどのレベル以下であれば、
深部静脈血栓症を否定して良いのか、
という基準値の設定になります。

深部静脈血栓症や肺塞栓症の診断に用いる場合、
D-ダイマーがこれこれの数字を超えているから、
肺塞栓症が確実です、
というような言い方は出来ません。

この数値は身体の何処かで血栓が溶解していれば、
それだけで上昇するので、
それが肺塞栓症であるとは言えないからです。

ただし、
この数値が明確に基準値を下回っていれば、
深部静脈血栓症の可能性は、
かなりの蓋然性を持って、
否定出来るのです。

従って、
どの数値を下回れば正常と見做せるか、
と言う点が最大の問題になります。

現在診療所で採用している検査法では、
その正常値は1.0μg/ml 未満となっています。

ただ、
深部静脈血栓症の否定のためには、
概ね0.5を基準とすることが、
日本のガイドラインでも推奨されています。

そして、
欧米においても、
その基準値は0.5μg/ml未満とするのが、
一般的な考え方です。

厳密に言うと、
この検査には測定法が複数あり、
その世界的な標準化は行なわれていないので、
海外での数値と日本のものとを、
単純に比較することには問題があるのですが、
それが今は触れないことにします。

ただ、
ご高齢の方では、
明確な異常がなくても、
D-ダイマーの数値がやや高めになることが、
知られています。

これは年齢による血管の動脈硬化の進行に伴い、
一定レベルの血栓傾向が、
生理的に生じることと、
高齢者の代謝が低下していることなどが、
その要因と考えられます。

従って、
年齢に関わらずに基準値を設定すると、
適切な除外診断に使用出来ず、
疑いの事例を増やして、
不要な検査が沢山行なわれる事態を招きかねません。

そのため、
年齢によりD-ダイマーの基準値を補正しよう、
という試みが、
幾つか提案されています。

そのうちの1つは、
50歳を超える年例では、
年齢に10を掛けた数値を、
基準値にしよう、
という考え方です。
これは単位がμg/L になっているので、
上の表記ではその1000分の1になります。

すなわち、
年齢が80歳だと、
基準値は0.8になる訳です。

もう1つの考え方は、
年齢が60歳以上の方では、
単純に0.75を基準値にしよう、
というものです。

今回の論文は、
過去の深部静脈血栓症の診断の的確さを検証した、
臨床研究のデータを活用して、
これまでの全て0.5を基準値とした方法と比較して、
新しい2つの年齢補正法の、
適切さを検証したものです。

結果としては、
2つの新たな指標とも、
同等の意義を持ち、
これまでの全ての年齢で0.5未満、
という基準値と比較して、
より除外診断としての精度を上げ、
無用な検査の減少に結び付く、
というものでした。

この結果が必ずしも、
そのまま日本の臨床に適応可能かどうかは、
現時点では何とも言えませんが、
ご高齢の方で、
D-ダイマーがやや高めの数値を取ることは、
診療所の検査でも経験のあることで、
今後はこのデータも踏まえて、
患者さんの診療に当たりたいと思います。

今日はD-ダイマーの基準値についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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