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バセドウ病に伴う胸腺腫大の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
胸腺の腫大とバセドウ病.jpg
今年のInternational Archives of Medicine誌に掲載された、
バセドウ病における胸腺腫のケースレポートです。

これはある方から、
ご質問のあった内容への、
僕なりのお答えです。

バセドウ病は甲状腺機能亢進症を来たす、
代表的な病気で、
TSH受容体抗体という自己抗体が、
TSH(甲状腺刺激ホルモン)の代わりに、
甲状腺を刺激してしまうため、
コントロールがないままに、
甲状腺ホルモンが作られ続け、
機能亢進症になってしまう病態です。

一方で胸腺というのは、
リンパ球を産生する腺組織で、
細胞性免疫の司令塔のような場所です。
胸の真ん中で心臓より前に、
心臓に張り付くようにして存在しています。
概ね思春期くらいまでにその役割を終え、
その後は脂肪に置き換わって萎縮します。

成人になっても胸腺が、
しこりのように大きくなるのが、
胸腺腫で、
それは実際にしこりである場合もあり、
また単に何らかの原因で、
胸腺が刺激され、
一時的に大きくなっていることもあります。

胸腺の腫大とバセドウ病とが、
しばしば合併していることは、
以前から報告があります。

胸腺腫を伴う自己免疫疾患としては、
重症筋無力症が有名ですが、
この病気とバセドウ病が合併することも知られています。
ただ、今お話しているのは、
重症筋無力症はないバセドウ病の場合です。

ある報告では、
バセドウ病の3割には、
胸腺の過形成が、
合併していると書かれています。

ただ、
通常バセドウ病の患者さんで、
何の疑いもなく胸のCTを撮るようなことは、
あまりありませんから、
正確な統計は取りようがなく、
この数値はあまり信用し過ぎない方が、
いいかも知れません。

バセドウ病における胸腺の過形成は、
通常は小さなものなので、
胸のレントゲン写真ではしこりとしては検出されず、
胸のCTを撮らないと診断は出来ないからです。

このバセドウ病に伴う胸腺の腫大は、
バセドウ病の治療により、
改善することが多いとされています。

原因は明確ではありませんが、
バセドウ病で機能亢進状態にある患者さんの血液から、
抽出された免疫グロブリンにより、
培養した胸腺の細胞が増殖した、
という報告などがあり、
おそらくバセドウ病の活動期の免疫異常が、
胸腺の刺激をしたことによると、
考えられていますが、
そのシグナリングの詳細は、
まだ明らかではないようです。

上記の症例報告では、
46歳のバセドウ病の患者さんで、
3センチを超える胸腺腫が、
胸のCTで確認され、
抗甲状腺剤でバセドウ病の治療を行ない、
甲状腺機能が正常化してから、
3ヶ月後に胸腺腫は消失しています。

概ねこのような経過を辿るのです。

問題は胸腺腫の方が先に見付かって、
バセドウ病の診断がされないと、
胸腺腫が切除されてしまう、
というような事態が有り得ることです。

これは病院名は伏せますが、
2008年に日本の大学病院で報告があります。
(勿論それ以外にも複数の事例があります)

その報告は、
53歳の男性で、
動悸が主訴で救急外来を受診した際、
胸のCTを撮って胸腺腫が見付かり、
手術が施行されましたが、
手術後に高熱や心房細動など、
甲状腺クリーゼを疑わせる症状が出現し、
慌てて甲状腺機能を測定して、
バセドウ病が発覚した、
という経過になっています。

胸腺腫はバセドウ病の治療で縮んだ可能性が高く、
無用の手術が行なわれたばかりか、
手術のストレスで甲状腺機能を悪化させ、
クリーゼ寸前の事態になって、
これも本来必要のない負担が、
患者さんに掛かってしまったのです。

上記のケースレポートのまとめはこうです。

「バセドウ病の患者さんでCT上胸腺腫が見付かったら、
それが不整な内部所見でなく、
周囲への浸潤、石灰化、隔壁の存在、嚢胞などの、
悪性を示唆する所見がなければ、
甲状腺機能亢進症の治療を優先して、
経過観察を行なうのが適切である。
甲状腺機能が正常になって数ヶ月が経過しても、
縮小傾向がなければ、
その場合は生検や手術を検討するべきである。」

個人的なまとめはこうです。

「CTで胸腺腫が見付かったら、
重症筋無力症のチェックと共に、
必ず甲状腺機能のチェックを行なうべきである」

上記の日本の患者さんのような事例が、
今後絶対にあってはならないと思います。

今日はバセドウ病と胸腺腫との関連についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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今野祥山

9日のブログを読ませてもらい、リスクとデーターについては患者の立場として何時も不満に思っていることが有ります。
例えば血圧を例にとって言いますと確か以前は150以下なら正常だったのがいつの間にか130以下でないと正常ではないとなりました。
その為に国民の1/3が病人扱いで、必ず降圧剤を飲まされます。
しかも一生のみ続ける必要が有るのです。製薬会社や病院には美味しい話なのです。
血圧は年齢によってある程度上がってくるのは加齢現象の一つで病気ではないと考えていますし、体が要求しているのを無理に下げるリスクは無いのかとも思います。
生まれつき高い人もいれば低い人も居て個体の特質とも思っています。
年齢別に仕分けするべきデーターを若者も老人も同じ基準値で線引きすれば幾らでも病人を作り出すことになります。
一度主治医や親しい医師にこの問題を問いかけてみたことがありました。答えは今はカルテに数字が書き込まれているため医師会の指針が出ている限り、薬の投与を勧めなければならず、それを怠って別の死因であっても訴訟を起こされたら大変な事になるとの事でした。
飲む飲まないは自分で決めるようにとの事でした。かえって悩みが増えるだけでした。
かかりつけの医師なら長年のデーターも手元にあるのだし、患者の生活慣習も加味して適切な処置を出来ないものかと思っています。
適正値のマジックは他にも沢山有ります。医師も患者ももっと勉強すべき時が来ていると思います。
by 今野祥山 (2012-06-11 16:29) 

fujiki

今野祥山さんへ
貴重なご意見ありがとうございました。
ガイドラインには勿論それなりの意味合いがありますが、
必ずしもそれが順守されている、
という訳ではなく、
複雑な上に曖昧な部分を多く残しているのが、
実状のようにも思います。
by fujiki (2012-06-12 08:18) 

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