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「利権」を考える [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。

いつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

今日は雑談です。

「利権」という言葉がありますね。

原発利権とかワクチン利権とかと言われると、
なるほどな、
と思いますが、
電波利権とか北朝鮮利権とか埋め立て利権とか、
どのような組み合わせでも成立しますし、
利権集団とか利権構造とか、
自由自在に使われているので、
こんな言葉が一体いつからあって、
どのように使われていたのだろう、
とちょっと不思議に思いました。

「権利」という言葉は、
確か法律か何かの用語のために、
明治の頃にでっち上げた言葉だった筈です。

それならそれを逆にした「利権」というのも、
その頃に作られたものなのでしょうか?

取り敢えず、家にある「広辞苑」を引いてみます。

利権とは、
利益を専有する権利、
と書かれています。

日本の辞書というのは、
その言葉の成り立ちなど、
まるで書いてはいないので、
正直読んでもまるで参考にはならずに、
苛々します。

ただ、この記載を読む限り、
必ずしも利権という言葉は、
悪い意味で使われるものではないことが分かります。

たとえば、
「この農場の利権をもらいたい」
というような会話が、
本来は普通に成立するような気がします。

しかし、
今そんな言い方をすれば、
「お前は何を言っているんだ!」
と袋叩きに遭う羽目に成りかねません。

利権という言葉は現在では、
ほぼ100%悪い意味で使われているからです。

別のもっとくだけた辞書には、
「利益を独占して思うままにすること」
と書かれています。

なるほど。
同じことを言ってはいるのですが、
この表現だと如何にも、悪党の言い分、
という感じになります。

つまり、
ここまでで何となく分かることは、
利権という言葉は、
元々は善悪のない透明なニュアンスのものだったけれど、
ある時からそれが誰かに汚されて、
悪のレッテルを貼られる言葉になった、
という一連の流れがあるのだろう、
ということです。

明治時代の辞書の「言海」には、
利権という言葉は載っていません。
つまり、当時あったにしても、
それほどポピュラーな言葉では、
なかったことが分かります。

漢和辞典には、
もう少し詳しいことが、
書いてあるのではないか、
と思うとこれがガッカリで、
矢張り広辞苑と同じことしか書かれてはいません。

世の中には語源辞典というものがあるので、
ああこれは素晴らしいと思って見てみましたが、
どの辞書も「幕間」とか「メリヤス」とか、
そうした言葉の語源が載っていても、
「利権」という言葉の語源は載っていません。

これもまたガッカリです。

ネットで「利権 意味」などで検索しても、
まるで情報がありません。

ちぇ、全然役に立たないじゃん、
とこれもまたガッカリです。

それで、どのくらい昔から利権という言葉が、
使われていたのかを追跡する意味で、
amazon の本のタイトルで検索してみました。

すると一番古いのが、
1920年代から1930年代の本で、
「満蒙の鉄道利権」とか、
「露領極東の鉱業利権」というのがあります。

これはその名の通り、
満州での鉄道を占有する権利や、
鉱石の発掘を占有する権利を、
指しているものと思われます。

勿論悪い意味ではなく、
むしろ「大陸でドシドシ利権を獲得するぞ」、
というような意味合いであったのだと思います。

それが、
明らかに悪い意味で現われるのが、
1970年で、
「利権の海」という、
東京湾の埋め立てを巡る裏の事情を扱った本や、
「くたばれ自民党ーこの利権集団を裸にする」
というような、
下品なタイトルに行き当たります。

おそらく、この時代に、
メディアで利権という言葉に、
「汚い色」が付けられたのだと推測されます。

誰が最初にこうした「汚し」を行なったのかは、
今のところ特定が出来ません。

立花隆の「田中角栄研究」は、
1974年ですから後のことですし、
松本清張さんは、
如何にもそうした言葉を使っている印象がありますが、
手元にある小説や評論、エッセイをめくっても、
「利権」という言葉には行き当たりません。
「現代官僚論」という官僚の利権を扱った本がありますが、
そこには「利権」という言葉はなく、
主に「官僚の特権」と書かれています。
さすが清張さん、
下品な言葉は使っていなかったのね、
と嬉しくなります。
その一方、立花隆の文章は、
出自不明の汚い言葉のオンパレードです。

「利権」という言葉の「汚し」に関しては、
新聞が最初かな、
というのが現時点での推論です。

高島俊男さんの書かれたものを読むと、
汚職という言葉は、
戦前の「涜職(とくしょく)」という言葉を、
メディアが下品に改変して作られた造語のようですが、
今では平然と辞書にも載っています。

従って、
この「利権」も、
元々ある利益の占有という意味合いの言葉を、
仰々しく悪に汚したもののように、
推測されます。

おそらく最初は、
「利権を貪る」
のような表現が取られたのではないでしょうか?

これは「利権」自体は悪いニュアンスはないのですが、
印象として言葉に悪い色が付くのです。
そのうちに、
「利権」という言葉自体が、
悪い印象に染められて行きます。

そう考えると、
「利権」という言葉が、
何か可哀想に思えます。

メディアというのは、
人間を苛めたりさらし者にしたりするだけではなく、
言葉にも辱めを受けさせるのです。

なので僕は、
テレビなどで何か得意げに、
利権、利権と、
喚くような人が、
あまり好きではありません。

その人の顔は大抵、
非常に下品に歪んでいますし、
何より汚い言葉の奴隷にように見えるからです。

高島さんの文章を読んでから、
「汚職」という言葉も、
嫌いになって最近は使わないようにしています。

「あなたは涜職の罪を犯しましたね」
と言った方が余程格調が高く、
何より下品ではありません。

昔の言葉に、
新しい意味が付加されたり、
新しい言葉が作られることは、
言葉も生き物である以上、
当然のことで、
そうした新陳代謝がなければ、
言葉も命を絶たれてしまいます。

しかし、
メディアの作る言葉は、
概ね他人を非難したり穢したり、
悪い意味を付加することが殆どで、
かつては良い意味に使われた言葉も、
悪い意味に変換してしまいます。

これでは、
言葉の支配する世の中が、
良くならないのが当然ではないでしょうか?

せっかく言葉を作るなら、
もっと美しく、
他人を褒めたり尊重したりする、
宝石のような言葉をこそ、
メディアもジャーナリストも、
考案するべきではないかと僕は思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

(付記)
引用したお名前に誤りがありましたので、
ご指摘を受け訂正しました。
(2012年6月11日午前8時修正)
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永遠の通りすがり

おはようございます。

毎日を無為に過ごしている私は、昨今の風当たりの強い報道と「社会的義務」「社会的責任」という言葉に毎日、押し潰されそうです。
報道がひどい、と言っているのではなく、納税者の皆さんの怒りも尤もだなあと。

先生のblogの内容と全くは関係ないのないコメントですみません。
by 永遠の通りすがり (2012-06-10 10:31) 

今野祥山

たまたまいま自分が直面している体調不良の事でリサーチしていてこちらのブログに辿り着き感動の余りコメントを入れさせてもらいました。
お近くなら直ぐにでも主治医になってもらいたいぐらいですが京都と東京ではちょっと無理のようです。
たかがブログと言え、長期間に渡り医師として思いを発信し続ける事は簡単なことでは有りません。
昨今いい加減な医師が多い中、医師としての仕事に誇りを持ち、忙しい時間の中、並みの人間には簡単に出来ない事です。
職業柄制約の多い中、出来るだけ理解しやすいように内容に工夫をされている姿には感動します。
私自身仏像彫刻という仕事を通して四苦八苦の現在の苦界に悩み苦しむ方達を日々見てきました。
医師から見放され仏の世界に救いを求めざるを得ない方達の如何に多いことかを知っています。
勿論医学に限界がある事は仕方が有りませんが最後は人間としてどのように寄り添うのかではないかと考えています。
どうかこれからも無味乾燥したウェブ社会に暖かい血の通った内容を楽しみにしております。
by 今野祥山 (2012-06-10 10:37) 

chima

面白かったです
今日は宝石のような言葉について考えて過ごそうと思います
by chima (2012-06-10 10:41) 

今野祥山

カテゴリを見させてもらっていたら仏像の鑑賞に興味が有る方なのだと判り嬉しくなりました。
勝手に貴ブログを私のブログにリンクさせてもらいました。
もし京都にこられることが有りましたらぜひ大原野の総持寺(花の寺)の如意輪観音様にお会いしてください。
私が仏像彫刻家への道を歩む事になった素晴らしい仏様です。
まるで生きているようなお姿で語りかけてくれます。
by 今野祥山 (2012-06-10 11:16) 

みと

いつも興味深く拝読しております。
ところで、文中の高橋俊男さんとあるのは、高島俊男さんのお間違いではないでしょうか。
私の勘違いでしたら申し訳ありません。

これからも音楽や演劇のお話、今日のような"言葉"のお話、そしてもちろん医療のお話など楽しみにしています。
by みと (2012-06-11 02:03) 

fujiki

永遠のとおりすがりさんへ
それは気にされない方が良いと思います。
ちょっとコメントでは書けませんが、
問題になっているのは、
そうしたこととは全く別の次元の問題だと思います。
勿論理解なく声高に言われる方も多いのですが、
それは無視するのが一番です。
by fujiki (2012-06-11 08:52) 

fujiki

今野祥山さんへ
過分なお言葉ありがとうございます。
励みになります。
総持寺にはまだ伺ったことがありません。
これからの楽しみが増えました。
祥山さんの御作も、
是非拝見したく思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-06-11 08:56) 

fujiki

chima さんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-06-11 08:56) 

永遠の通りすがり

本質的な問題が何であるか、という深い話ではなく、世間からは受給者であるだけで、それが不正であっても適性であっても関係なく「怠けるな」「税金で生活しやがって」と一律に批判を受けてしまいます。
今は少し下火になりましが、連日あのような報道がされると特に。
息をしているだけでも申し訳ないので、それでは今より更に居なくなる努力を積極的にしましょうという、どうしようもない状態です。

今回は久し振りのコメントしましたが、こんな事を書いて本当にすみません。
by 永遠の通りすがり (2012-06-11 09:40) 

九子

>せっかく言葉を作るなら、
もっと美しく、
他人を褒めたり尊重したりする、
宝石のような言葉をこそ、
メディアもジャーナリストも、
考案するべきではないかと僕は思います。

大賛成です。( ^-^)

by 九子 (2012-06-30 22:27) 

fujiki

九子さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
語源の辞書の良いものがあるといいのですが…
by fujiki (2012-07-02 08:24) 

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