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急性虫垂炎の初期治療を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
急性虫垂炎の初期治療論文.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
急性虫垂炎の治療についての、
メタ解析の論文です。

急性虫垂炎、
所謂「盲腸」は、
非常にポピュラーな病気ですが、
初期臨床を行なう医療者としては、
頭を悩ませることの多い病態でもあります。

症状はお腹の痛みがあって、
下痢をして吐き気も伴い、
熱が出ます。
痛みはお腹の右下で、
歩くと響くような感じですが、
初期はお腹全体の痛みや、
胃の痛みのような訴えのことがあり、
判断に迷うことがあります。
特に小さなお子さんでは、
はっきりと痛みを訴えないことが多いので、
ただの風邪などと、
見誤ることがあります。

基本的には一般外科か消化器外科で、
担当する病気と思いますが、
初診は内科に掛かることも多く、
すぐに外科に紹介するべきかどうかで、
これも頭を悩ませます。

特に土曜日の夕方に患者さんが受診をされると、
救急対応の病院に紹介する以外にないのですが、
軽症では紹介し難いケースが多く、
正直一番困ります。

診断は概ね診察所見と、
血液の炎症反応や白血球の上昇の有無、
そしてCTや超音波検査の画像診断になります。

診療所では殆どの検査は、
外部の検査会社に出していますが、
炎症反応と白血球の数は、
その場で分かる機械を置いていて、
その主な目的は、
この虫垂炎の見落としを避けるためです。

診断の結果、
急性虫垂炎が確定した場合、
どのような治療が行なわれるべきでしょうか?

急性虫垂炎は細菌感染がきっかけとなることが多いので、
炎症を起こした虫垂を手術で切除するか、
細菌感染に効果のある、
抗生物質を使用して、
炎症を落ち着かせるか、
ということになります。

僕が大学で習った頃には、
原則は手術、
というのが一般的な考え方でした。

しかし、
最近ではその考え方は、
変わりつつあるようです。

急性虫垂炎の治療として、
抗生物質より手術が優先されるのは、
抗生物質で一旦炎症が治まっても、
またすぐ再燃して症状を出すのではないか、
という危惧があることと、
虫垂の周囲に膿瘍を形成したり、
腸が穿孔したりというような、
重症の合併症を、
起こす危険性が高まるのでは、
という心配があるからです。

「盲腸ですね」
と言われたのに、
「まだ軽症の段階ですから、
手術はしないで抗生物質で様子を見ましょう」
というのは、
何となく不安に感じる方が多いのではないでしょうか?

「薬で散らす」
というような言い方をよくしますが、
これは抗生物質で一時的に炎症を抑えても、
完全に治るという訳ではない、
ということを、
暗に示しているような気がします。

実際診療所を受診された方の中でも、
外科で様子を見るように言われたことに対して、
「どうしてすぐに手術をしてくれないのだろう」
というような不満を言われる方が、
結構いらっしゃいます。

しかし、実際のところはどうなのでしょうか?

上記の文献には、
最初から手術をしないと再発や重症化が多い、
という意見は、
ある種の印象や経験則に過ぎないもので、
その根拠は乏しい、
というニュアンスの記載があります。

そこで論文の著者らは、
これまでに行なわれた、
幾つかの大規模な臨床試験の結果を、
まとめて解析して、
まだ穿孔を起こしたりなどしていない、
初期段階の急性虫垂炎において、
抗生物質の使用と、
手術療法との間に、
その後の経過において、
どのような違いがあったのかを、
検証しています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

トータル900名の患者さんを解析したところ、
1年間の観察で、
抗生物質を使用した患者さんの6割以上が、
症状の改善を持続しており、
穿孔などの合併症のリスクは、
手術より抗生物質の治療の方が、
相対リスクで3割以上低い、
という結果でした。

勿論この中には再発したり、
抗生物質の治療に反応せずに、
結果として手術の必要となった患者さんもいるのですが、
初回の治療の選択としては、
抗生物質の治療の方が、
その予後の面でも、
手術より優れている、
という結論になったのです。

つまり、
適切な診断の元に、
合併症のない初期の急性虫垂炎が見付かった場合、
まずは抗生物質の治療で様子を見るのが、
より適切な判断だ、
ということになります。

しかし、
ここで注意をするべきは、
この研究における、
抗生物質の使用量です。

1つの研究では、
クラバモックスという抗生物質
(アモキシシリンとクラブラン酸の合剤です)が、
1日3グラムから4グラム使用されています。
使用期間は18日間で、
その間に悪化傾向があれば、
手術が行なわれます。

しかし、
日本においては、
この薬剤は原則1日1グラムしか使用出来ません。

別の研究では、
セフォタキシム(商品名クラフォランなど)
という抗生物質を1日2グラム注射で使用し、
その後シプロフロキサシンが1日1000mgで10日間継続され、
メトロニダゾールの1日1200mgがそれに併用されます。

しかし、
これもセフォタキシムの用量は、
海外と同じに使用可能ですが、
シプロフロキサシンは、
特殊な用途以外は、
1日600mgに制限され、
メトロニダゾールの虫垂炎への適応はありません。

このように、
保険診療がこうした場合には壁になり、
日本においては、
抗生物質の種類によって、
欧米と同様の用量が認められているものから、
数分の一の用量しか、
使用出来ないものまで、
科学的とは到底言えない不均衡があり、
それが大きな問題になっていると思います。

従って、
この結果をそのまま日本の治療に適応する、
という訳にはいかないのです。

今日は急性虫垂炎の初期治療を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

midori

面白ーい。

私も、盲腸ってのは痛くなったら「切るもの」と思っていて、
「薬で散らしましょう」ってのは、
とりあえず今は切らないけどね今は、
というニュアンスにしかすぎない、
単なる執行猶予的なものかと思っていました。
へー、感染による炎症が主原因だったんだ。
それなら意味がわかります。

・・・東洋の魔女を思い出しました。。。
by midori (2012-04-10 09:58) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
結局日本の場合は、
抗生物質の使用が、
中途半端に行なわれることが多く、
それが完治に至らないことの多い、
理由のように思います。
by fujiki (2012-04-11 08:09) 

小林びんせい

先生 はじめまして
ナチュロパスNDの小林と申します。
いつもすばらしい経験と研究を披露していただきありがとうございます。
丁度虫垂炎のことを調べていたので参考にさせていただきました。
今後ともよろしくおねがいします。
by 小林びんせい (2012-12-29 09:58) 

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こんにちは。今薬で散らしている者です。最初の5日間の薬で治らず6日目に再発したので、今アベロックスという薬を2日目飲みました。白血球9000CRP9なので切れとは言われませんが、まだ痛みが残っています。あと3日間の薬で治るのか不安です。
by お名前(必須) (2015-11-07 10:51) 

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