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プルトニウムの飛散状況をどう考えるか? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
プルトニウム飛散の論文.jpg
Nature誌関連のウェブ科学誌である、
Scientific Reportsの今月号に発表された、
福島原発事故後の、
プルトニウムの飛散状況についての、
放射線医学総合研究所の調査結果の報告です。

原発事故後にプルトニウムが放出されたかどうかについては、
事故後しばらくの間は、
「放出されることは有り得ない」
という意見の専門家の方や、
専門家ではないけれど、
同じくらいにエラそうで、
同じくらいに声の大きな、
同じ意見の方もいらっしゃいました。

しかし、
確か昨年の5月くらいでしたか、
原発敷地周囲で、
プルトニウム検出、のような報道があり、
それに対しては、
「プルトニウムは重いので、
仮に僅かな量の放出があったとしても、
原発敷地周辺程度の飛散に留まる」
という意見や、
「微量のプルトニウムは、
そもそも核実験後のフォールアウトで、
1960年代から日本の土壌でも検出されており、
今回の検出はその可能性も否定出来ない」
という専門家や専門家もどきのご発言がありました。

その後確か9月くらいに、
経済産業省がプルトニウムの飛散状況を発表し、
意外ににもかなり広範に、
微量の検出があったことが報告されました。
この時には、
「この程度の量のプルトニウムは、
核実験のフォールアウトより少なく、
仮に飛散したとしても、
全く問題にはならない」
というようなご発言があったと、
記憶しています。

プルトニウムは、
放出されたのでしょうか?
されなかったのでしょうか?

仮にされたとすれば、
その量はどのくらいで、
その拡散範囲は、
どの程度のものなのでしょうか?

それは核実験後のフォールアウトと比較して、
多かったのでしょうか?
それとも少なかったのでしょうか?

それとも、
一部の方が以前言われていたように、
検出されたプルトニウムは、
原発事故とは無関係で、
核実験後のフォールアウトによるものだったのでしょうか?

これらの疑問のほぼ事実と思える答えが、
全て上記の論文の中にあります。

それでは1つずつご説明したいと思います。

今回の論文においては、
福島県内の4か所で、
プルトニウムの測定を行なっています。
S1とされたのが葛尾村で、
S2とされたのが浪江町、
S3とされたのが飯館村、
S4がJ-ヴィレッジです。
それ以外に水戸、鎌ヶ谷、千葉でも、
同様の計測を行なっています。
計測の日時は主に昨年の5月です。

測定は地表の堆肥や枯葉からのサンプルと、
その下の土のサンプルが取られています。

核実験後のフォールアウトの以前の計測では、
プルトニウム239と240との合算が、
0.019~1.400mBq/gと測定されています。
それに対して、
J-Village の表面の土と、
浪江町と飯館村の堆肥や枯葉からは、
0.15~4.31mBq/g のプルトニウムが計測されています。
これはいずれも239と240との合算です。

つまり、福島第一原発の西北方向20~30キロの地点と、
南方20キロ強の地点から、
核実験のフォールアウトを数倍上回る、
プルトニウムが検出されているのです。

これがまず1つ目の事実です。

次にこの測定されたプルトニウムが、
本当に福島第一原発由来なのか、
それともそうでないのか、
という点に移ります。

今回の測定では、
プルトニウム239と240と共に、
プルトニウム241が計測されています。

これが重要なポイントです。

プルトニウム241の半減期は14.4年と、
プルトニウムの同位体の中では短く、
β崩壊をしてアメリシウム241に変換されます。
このアメリシウム241はα線源です。

仮に測定されたプルトニウムが全て、
過去の核実験由来のものであるなら、
プルトニウム241は大きく減少している筈です。
逆にフォールアウト後の数値と比較して、
プルトニウム241の比率が大きければ、
これはより降下してから短い時間のものだ、
すなわち原発由来の可能性が高くなります。

それではこちらをご覧下さい。
プルトニウムの性質の図.jpg
これは同位体の検出比率から、
その解析を試みたものです。

縦軸はプルトニウム241を239で割った数値で、
この数値が高くなるということは、
それだけ降下から時間が経過していない、
ということを概ね示しています。

一番下にある日本の1963年~1979年の計測値は、
いずれも殆どゼロに近い数値です。
しかし、S2の浪江町のデータは、
S3の飯館村と同じパターンを示し、
いずれも一番右上にプロットされた、
チェルノブイリの測定値と、
ほど同一の傾向を示しています。
それより少し低いのが、
J-ヴィレッジの数値です。
これは要するにこの地点の測定値は、
核実験後のフォールアウトの計測値の影響を、
ある程度受けていて、
原発事故後の飛散とフォールアウトとの、
合算になっている、
という可能性を示唆しています。

実際浪江町と飯館村では、
地表の堆肥や枯葉からは、
プルトニウムが検出され、
その下の土からは検出されていません。
これはつまり、
地層の表面のみに降下があることを示し、
その意味でも降下から月日が経っていないことを、
示唆しているのです。

つまり、このデータより、
少なくとも福島原発から西北に26キロの浪江町と、
32キロ西北の飯館村には、
今回の原発事故により飛散した、
プルトニウムが拡散して降下した、
という事実が確認されます。
しかし、距離的には25キロと近い位置にある、
S1とされた葛尾村では、
プルトニウムは検出されておらず、
ある限定した期間に、
風向きなどの影響を受けて、
プルトニウムが飛散した事実を裏打ちしています。

プルトニウムは原発事故由来であり、
原発から30キロ以上拡散し降下したのです。

これが第二の事実です。

それでは、
このプルトニウムの放出量は、
どの程度のもので、
その影響をどのように考えれば良いのでしょうか?

次をご覧下さい。
プルトニウム飛散量の表.jpg
これはチェルノブイリの原発事故と比較して、
推定されるプルトニウムの飛散量を表にしたものです。

トータルの放出量で見ると、
桁が4~5は違います。
つまりチェルノブイリの事故での放出量の、
概ね1万分の1程度の飛散に、
留まっている、ということが分かります。
(勿論全ての放出量が1万分の1ではありません。
セシウムの放出量は、
少なく見積もっても、
それより1~3桁は多い水準となります)
ただし、チェルノブイリの事故の場合、
この表にあるように、
炉内で生成されたプルトニウムの総量のうち、
3.5%が放出された、というのですから、
これはもう桁外れの事態だったのです。

つまり、
プルトニウムの飛散量は、
この文献を信じる限りにおいては、
チェルノブイリの事故よりは遥かに少なく、
しかし過去の核実験のフォールアウトよりは、
数倍は多い量である、
ということが分かります。

これが第三の事実です。

それではこのプルトニウムの拡散は、
微量なので心配する必要は全くないのかと言うと、
決してそうではない、
ということを示唆する事実が一方にあります。

こちらをご覧下さい。
アメリニウムへの変換の図.jpg
先程も触れましたように、
半減期の短いプルトニウム241は、
β崩壊してアメリシウム241となり、
このアメリシウムはα線を放出します。
アメリシウムの半減期は400年以上ですから、
容易には減衰しません。

計測上、
S2の浪江町においては、
プルトニウム239と240との合算で、
外部被爆と吸入による内部被曝の双方による、
生涯に受ける被ばく量は、
実効線量換算で、
0.12mSv程度と計算されますが、
プルトニウム241単独でも、
0.44mSvと計算されます。

つまり、
プルトニウム241の影響は、
239と240を併せたものより、
4倍も多いのです。
更に時間と共に、
これがα線源のアメリシウムに変換されます。

この図はその時間経過を推測したものです。
一番上のグラフは、
長崎の原爆による、
プルトニウムからアメリシウムへの変換を見たものですが、
2008年にプラトーに達すると推測され、
それが実際の計測により確認されています。
真ん中の図は核実験後のフォールアウトのもので、
計算上アメリシウムの産生は、
2040年にプラトーに達します。

一番下のグラフは今回の福島の事例で、
そのアメリシウムの比率のピークは、
2081年に予想され、
それまでは上昇を続けます。
そのプルトニウム239と240に対する比率は、
3倍を超え、
これは核実験後のフォールアウトの10倍に近く、
長崎原爆の100倍に近い数字に達します。

つまり、
将来的には福島原発後のプルトニウムの飛散の影響は、
アメリシウムの影響がその主体となるのです。

アメリシウムは植物に移行し、
特にマメ科の植物では、
プルトニウム239と240の合算より、
3~5倍は多く集積するとされています。

従って、上記の文献の著者らの見解としては、
今後福島原発から20キロのエリアでは、
継続的にアメリシウムの汚染の有無を、
測定する必要性があると記載されています。

今後より問題になるのは、
プルトニウムから派生したアメリシウムの影響で、
特に肥料となるような、
マメ科の植物への蓄積については、
定期的な監視が不可欠となります。

これが第四の事実です。

それでは今日のまとめです。

福島原発事故では、
大量の放射性物質が、
周辺に飛散しましたが、
その比率はチェルノブイリと比較すると、
セシウムやストロンチウムに比べて、
極端にプルトニウムが少ない、
という特徴があります。
これはおそらくは今回の事故が、
ギリギリのところで最悪を免れた、
1つの傍証と思われます。

しかし、
少ないもののプルトニウムが飛散したこと自体は事実であり、
それはプルトニウム241の測定により立証されています。

その飛散範囲は、
セシウムに比べるとかなり限定されていますが、
原発20キロ圏内と、
爆発時の風向き等の関係から、
北西方向ではもう少し広い範囲に及んでいます。
(千葉や水戸の測定では、
セシウムは検出されても、
原発由来と思われるパターンの、
プルトニウムは検出されていません)

その影響はトータルには、
軽微なものの可能性が高く、
人間の健康被害に結び付く可能性は低いと考えられますが、
アメリシウム241の産生は今後2081年まで増加し続け、
マメ科の植物などに蓄積する可能性が高いので、
その環境全体に与える影響については、
今後重点的に監視する必要性があると思われます。

今日はプルトニウムの飛散の影響について、
昨年5月にサンプルが採取され、
今年になって初めて発表された、
日本のデータを元に考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

(付記)
最初の記事では、
まとめに推測に基づく表現と、
アメリシウムの人間への影響を、
現時点での知見より、
推測により強調した表現がありましたので、
誤解を招くことのないよう、
一部表現を穏当と思えるものに改めました。
(平成24年3月14日午前8時修正)
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コメント 4

あきこ

息子の周期表を眺めながら、アメリシウムを発見しました。

α線で、しかも半減期が400年以上ですか・・・。
恐ろしくなりました。
近隣に住む方たちの不安は計りしれないです。
豆類に蓄積されるんですね。、肥料への心配も出てくるとは・・・。α線の内部被曝、本当に怖いです

横浜在住ですが、学校給食の放射能検査はセシウムとヨウ素しか
測らないし、シンチレーションカウンターも「γ線」。
出てくる数値が日々低くなっていく中で、事故から一年たち
少し気持ちの緩んでいる部分がありました。

情報があふれている中で、石原先生の記事はいつもとても
勉強になります。
これからもよろしくお願いします。
by あきこ (2012-03-13 14:40) 

人力

プルトニウムの「最凶伝説」は多分に政治的なものだと私は考えています。半減期の長い核種は、単位時間内に放出す放射線は強いものでは無く、プルトニウム239の半減期2万4千年で、この比放射能(単位時間内の放射線の強さ)はヨウ素131の10万分の1程度です。

経口摂取のプルトニウムがそれ程害を及ぼすものでも無い事も指摘されています。(吸引して肺に吸着した場合、先生が先日書かれていたタバコのボロニウムと同様の被害でしょうか?)

豆科の植物に吸収されたα線核種のアメリシウムが体内でどういう挙動を示すかが問題ですが、排出されてしまうのであれば、それ程問題になるとは思えません。

α線の内部被曝の影響の大きさは研究者によって諸説ある様ですが、プルトニウムの経口摂取実験は確かアメリカで行われていたと記憶しています。その結果は、影響はそれ程高く無いようです、(おぼろげな記憶ですみません)

プルトニウムの大量吸入事故になると、原発作業中や燃料工場での事故などなど例が少ないのですが、生存率が意外に高いデータをネットでは見つける事が出来ます。

プルトニウムの影響は、炉心が露出して燃え盛ったチェルノブイイリ事故が尤も検証に適しているのでしょうが、チェルノブイリ周辺で顕著な影響は出ていないというのがWHOの見解だと思います。(WHOは疑惑のデパートみたいな組織ですが・・・)

原発事故で尤も危険なのは、大量に放出され、強い放射線を出し、甲状腺に選択的に蓄積するヨウ素131であり、食品の流通規制に失敗したチェルノブイリでは子供に甲状腺癌が増加する結果となりました。

「プルトニウムはスプーン2杯で日本人を全員殺す最強の毒物」という宣伝の間違いこそ正されるべきなのだと私は考えますがいかがでしょうか?
by 人力 (2012-03-14 06:08) 

fujiki

あきこさんへ
コメントありがとうございます。
横浜まではほぼ間違いなく、
プルトニウムの飛散はありませんので、
その点はご心配はされないようにして下さい。
by fujiki (2012-03-14 08:22) 

fujiki

人力さんへ
いつもお読み頂きありがとうございます。
アメリシウムの件については、
基本的に原文にあるままの表現なのですが、
読み直すとちょっとそのリスクを、
強調するようなニュアンスが感じられ、
少し記事の表現を改めました。

プルトニウムの影響は、
経口では余程の大量でなければ影響はなく、
皮膚の損傷部位からの被曝や、
吸入の影響が主に重要であると理解しています。

アメリシウムも、
基本的には同等の影響と考えられ、
人間に対する影響は軽微で、
むしろ問題は環境全体、
その汚染された土壌全体の問題と考えます。
by fujiki (2012-03-14 08:29) 

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