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インフルエンザワクチンの集団接種の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザ集団接種効果文献.jpg
アメリカの医学誌Plos one誌の昨年11月号に掲載された、
インフルエンザワクチンの効果についての論文です。

この雑誌については、
僕はあまり知識がないのですが、
ウェブで見ると滅多矢鱈に沢山の論文が載っていて、
それも世界各地の疫学データのようなものが多いので、
論文は一定のレベルに達しているものではありますが、
やや敷居は低いのかな、
という気がします。
(感想なので誤りでしたら申し訳ありません)

年末に大新聞にこれについての記事が載り、
それを見て探したらかなり以前の論文でした。
報道のタイミングもちょっと微妙で、
「出しなよ!」
みたいな何処かからの天の声があったのかしら、
という気もします。

皆さんご存知のように、
日本では1978年から1994年まで、
小学校でインフルエンザワクチンの、
集団接種が行なわれていました。
学校で半強制的にワクチンを打つのです。
僕の小学生時代はもう少し前ですが、
それでも「強制接種」は行なわれていた記憶があり、
その恐怖は今も生々しく覚えています。
注射針など勿論変えてはいませんでした。

その集団接種は、
あまり効果がないのではないか、
と言う意見と、
副反応に対する批判的なマスメディア等の論調があり、
1995年からは中止されました。

アメリカではインフルエンザワクチンの接種は、
65歳以上の高齢者と、
慢性のご病気を持つ人、
そして乳幼児と妊娠された女性に対して、
主に推奨されています。

つまり、
小学生や中学生の集団接種というのは、
日本でしか行なわれなかった、
ちょっと特殊な方法であったのです。

この小中学生の集団接種の功罪については、
色々な意見があります。

上記の論文の最後にお名前のある、
菅谷憲夫先生は、
ワクチン推進、タミフル推進の、
急先鋒的なお立場で発言をされている先生です。

従って、
当然この論文の趣旨も、
インフルエンザワクチンの集団接種には、
効果があったのだ、
というお立場です。

ただ、今回の論文においては、
実際に接種した小学生への効果を、
検証しているのではないのです。

それでは何を検証しているのかと言うと、
高齢者の肺炎やインフルエンザによる、
死亡が減少したかどうか、
という影響を検証しているのです。

ここが、
非常に興味深いポイントです。

インフルエンザの感染を広げる最大の要因は、
集団生活をしているお子さんから、
そのご家族を含む周辺に感染が伝播することです。

特にご高齢の方がインフルエンザに感染する、
最も大きな要因は、
ご家族のお子さんからの感染か、
その方が施設に入所されていれば、
そこでの集団感染です。

つまり、
お子さんに集団でワクチンを接種する意味合いは、
お子さんの感染を予防すると共に、
その周辺の感染すると重症化の予想される年齢層の方、
つまり高齢者の感染予防にも繋がるのではないか、
というのが著者らの推論で、
実際にそうした結果を示唆するデータが、
海外でも報告はされています。

そこで今回の論文においては、
日本の人口統計を元に、
肺炎やインフルエンザによる高齢者の死亡数が、
集団接種の前後でどのように推移したかを検討しています。

こちらをご覧下さい。
インフルエンザ集団接種効果の図.jpg
2つのグラフがあり、
上が日本のもので、
下はアメリカのものです。
両者ともそれぞれの国の人口統計を元に、
肺炎及びインフルエンザの「超過死亡数」を算出しています。
これはややこしいのですが、
実際の死亡者の数を示しているのではなく、
仮にインフルエンザが流行しなかったとした時の死亡者の数より、
どれだけ死亡数が増えたかを、
統計的に割り出して数字にしているものです。

下のアメリカのグラフを見て頂くと、
1978年から2006年まで、
それほどの死亡数の推移はないことが分かります。

実際には1980年代の後半から、
インフルエンザワクチンを接種した高齢者の数は、
どんどん増えているのですが、
そのことにより、
インフルエンザによる超過死亡は、
減少はしていないのです。

シンプルにこれを見ると、
「高齢者ではインフルエンザワクチンは、
あまり効果がないのだな」
ということを示すものだと思いますが、
この論文はワクチン推進派の巨頭が書いたものなので、
そうした推論はされていません。

アメリカは通常、
コストに見合わない医療は行なわないと、
そう思っていたのですが、
こうしたデータがありながら、
ワクチン接種は推進しているところを見ると、
そうか、必ずしもそうではなく、
アメリカでもやりたいことはやるのだな、
ということが分かります。

つまり、アメリカは何があっても、
何らかの理由でワクチンを打ちたい国なのです。

ちょっと余談でしたので、
本題に戻ります。

上の日本のグラフに目を移して頂くと、
点線の引かれた1994年の集団接種中止以降、
高齢者の超過死亡が増加し、
2000年代の初め頃から、
再び減少に転じていることが分かります。

つまり、
お子さんの集団接種が施行されていた時には、
高齢者へのワクチン接種は、
殆ど行なわれていなかったにも関わらず、
高齢者のインフルエンザによる死亡は抑制されていて、
それが集団接種の中止以降、
高齢者の死亡が増加しており、
そのことは、
お子さんへの集団接種が、
間接的に高齢者へのインフルエンザの感染を、
防御していたのではないか、
というのが、
この論文の著者らの推論になるのです。

著者の主張はおそらく、
こうした間接的なメリットもあるので、
小中学生に対する集団接種も、
復活させるべきだ、
ということになるのだと思います。

それではあまり有効性のない、
高齢者への接種は推奨されなくなるのか、
と言うと、
そんなことはなく、
全ての年齢層でじゃんじゃんワクチンを打ち捲ろう、
と言うのが結論となるようです。

非常に興味深いデータですが、
何となく僕にはしっくりしない点があります。

ワクチン接種者が激減したことにより、
1994年以降インフルエンザの感染が増加したこと自体は、
事実だと思います。

ただ、2000年代の前半からは、
再び超過死亡は減少しており、
これには幾つかの要因が考えられますが、
タミフルなどによる治療法の進歩と、
インフルエンザの診断キットによる診断の迅速化、
そして高齢者へのワクチン接種が増加したことが、
要因として考えられます。

僕は老人ホームの嘱託医での経験から考えて、
矢張り高齢者のワクチン接種の影響が、
大きいと思います。

しかし、アメリカのデータを見ると、
あまり高齢者のワクチン接種により、
目に見えた効果が確認出来ません。

つまり、超過死亡の増減には、
国別に何らかの別個のファクターがあり、
アメリカと日本のデータをこのように比較して、
ワクチンの集団接種の効果と言い切るのは、
少し無理があるのではないかと思うのです。

そもそも高齢者の感染を予防するために、
お子さんが集団でワクチンを打つ、
という発想はどうでしょうか?

ワクチンの効果というのは、
基本的には打った方が感染しない、
という個別の効果をまずは目標とするべきで、
それが困難であれば、
今度はある集団に接種して、
その集団での感染の広がりを、
最小限に食い止めるという効果が期待されます。

しかし、それも無理なので、
ある集団に接種することで、
他の集団の感染を間接的に減少させよう、
というのは、
あまりにもってまわった考えのように、
僕には思えます。

勿論そうした効果もあるでしょうが、
それは接種した集団への効果が、
しっかり存在することが前提で、
それがあやふやでは意味がないと思うのです。

インフルエンザワクチンには一定の効果がありますが、
それは他の多くのワクチンと比較すると、
かなり見劣りのする限定的なもので、
仮にお子さんへの集団接種の再開が議論されるとすれば、
本当にコストに見合った効果があるのかを含めて、
もっと実証的な議論が不可欠のように、
僕には思えます。

今日はインフルエンザワクチンの集団接種の効果についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

人力

アメリカの子供達はワクチン漬の様ですね。
これでは、自己免疫の発達が阻害されるのではないでしょうか。

ワクチンを推進する論理は、放射線のリスクと同様で、
危機を煽ってゼロリスクを求める風潮を助長しています。
まさにマッチポンプを絵に描いたような構図ですが、
ワクチンによる障害の確率が低いので、
ワクチンの有効性が引き立って見えるだけなのだと思います。

自己免疫(本当の)が喚起されない事で
失われる何かがあるとしたら、
そのリスクを測りに掛けるべきだと思うのですが・・・。

次世代医療の目玉と注目されるワクチンですが、
私は「ワクチン神話」には注意が必要かと思います。
by 人力 (2012-01-10 13:44) 

midori

先生こんにちわ。
歯のほうは如何ですか。

集団接種のときの、西陽の差し込む教室で
子ども3人ほどが同じ注射器で次々と腕を針刺される光景は、
今思い出すと悪夢のようですね。

さて。ご相談なのですが、
昨夜、閃輝性暗点が現れました。
15年ぶりくらい、2度目です。
若い人に出やすいと聞いていたのと、
あんまり久しぶりだったので少々驚いたのですが、
覚悟していた頭痛は全く出ませんでした。
まぁ仕事始めのストレス(仕事が机に山積)と、
連休で気が緩んだ、緩急のためと思われますが、
昨年秋に悩まされためまいもちょっと頭をよぎり。。。
家系的に、頭か心臓で命を縮める体質だと思うので、
少ぉし気になっています。
by midori (2012-01-10 16:37) 

fujiki

人力さんへ
コメントありがとうございます。
僕は医療における放射線の使用も、
代替するものがあれば、
中止の方向に向かうのが本来だと思いますし、
ワクチンも、
感染症の予防として、
別箇の方法を検討するべきだと思います。
両者とも現状は勿論必要性はある訳ですが、
それが「絶対」という今の考え方は大いに疑問で、
ある種の思考停止だと思います。

僕は落ちこぼれなので、
その僻みもあってこうした考えになるのだと思いますが、
科学の権威に対する変な信仰心がなくならないと、
医療はまっとうな方向には進まないと思います。
by fujiki (2012-01-11 08:40) 

fujiki

midori さんへ
お気遣いありがとうございます。
歯はまあまあですが、
治療は長く掛かりそうです。

多分お疲れによるもので、
ご心配はないと思いますが、
繰り返すようなら、
眼科的なチェックと、
脳のMRIは一応検討された方が良いかも知れません。
by fujiki (2012-01-11 08:42) 

midori

先生ありがとうございました。
たしかに12月の疲れは取れていませんが。。。
でもまぁあと半年くらい忙しい日が続くので
ある程度仕方ないとして、慎重に生活して様子をみつつ、
また何か気になるような症状が出るような場合には
ご相談に伺わせていただきます。
by midori (2012-01-11 09:56) 

蒼

こんにちは。
いつも興味深く拝読しています。
私も先生と同じく放射線やワクチンなど代替できるものがあれば
という気持ちでいます。
もっと言えば、自分も含め患者の立場としても医療に
魔法のような方法を求めてはいけないのだと思っています。
ところでインフルエンザワクチンについて以前に母里啓子先生の
ご著書などを拝読しまして、子どもたちへの集団接種中止の
きっかけは前橋レポートだと思っていました。
前橋レポートの見解などは先生からご覧になって
ワクチン否定が強すぎるでしょうか。
by 蒼 (2012-01-11 14:01) 

fujiki

蒼さんへ
コメントありがとうございます。
僕は基本的には前橋レポートは正しいと思います。
1つにはお子さんのワクチン接種量を、
全粒子ワクチン時代のままに据え置いたので、
用量が少な過ぎて、
充分な効果がなかったのだと考えます。
また、現行でもその時の流行株と、
ワクチン株が一致していれば、
その予防効果は高いと思いますが、
少しでも変異があると、
矢張りかなり限定的な効果しかないのが実際と考えます。
by fujiki (2012-01-12 08:25) 

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