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第三舞台「深呼吸する惑星」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。
いつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
第三舞台最終公演.jpg
鴻上尚史率いる第三舞台の、
封印解除&解散公演と題された新作公演を、
観て来ました。

第三舞台は今思うと、
バブル期の婀娜花のような劇団ですが、
1980年代の後半を、
野田秀樹の遊眠社と共に代表する存在で、
勝村政信の出なくなった1990年代の始め頃から、
正直そのボルテージはかなり落ち、
公演のテンポ自体も落ちると、
2001年に10年間の封印が発表されました。

そして、
約束の10年後ということで、
昨年に11月から今回の新作公演が始まり、
1回限りで第三舞台の歴史は、
その幕を閉じることになったのです。

この10年、鴻上尚史自身は、
多くの作品を世に送りましたが、
正直第三舞台の最盛期のような動員力はなく、
テレビに出るタレントを起用しても、
実質的にソールドアウトになる、
ということもありませんでした。
客席の空気にも、
かつてのような一体感は感じられませんでした。

今回の作品は久しぶりに、
おそらく15年ぶりくらいに、
かつての第三舞台の熱気が、
束の間甦ったような思いがありました。

満席の客席を見たのも久しぶりでしたし、
観客の期待するものも、
おそらくはかなり一致していたように思います。

いつものように幕前にロキシー・ミュージックの、
「モア・ザン・ディス」が流れると、
それだけでワクワクしましたし、
巻頭のダンスも、
「朝日のような夕日を連れて」を彷彿とさせて、
心が躍りました。

観終わると色々と不満はあります。

しかし、
色々と試行錯誤の劇作の続いていた鴻上尚史が、
かなり純粋にかつての第三舞台を再現していて、
最終公演にまずは相応しい舞台に、
仕上がっていたとは思います。

以下、ネタばれがあります。

巻頭に全員が喪服姿のダンスがあり、
そのプロローグから、
関係のない会社関係の葬式からの帰りだ、
という話になり、
もう死んだ誰かの書いた小説が、
ネットに残っている、
というところから、
その小説の世界に入ります。

その小説は未来のある惑星の話で、
そこには地球人の軍事施設があり、
地球の支配下にあるので、
地球人と惑星の元の住人との間に、
軋轢が生じています。

ところが、その惑星に来た地球人には、
自身のトラウマを再現するような幻覚が生じ、
そのために自殺者が増えるという、
奇怪な現象が起こります。
(元ネタはソラリスですね)

地球の総督がその惑星を訪れる、
というセレモニーが予定され、
そこに向けて思惑のある多くの人々が、
複雑に交差しつつ、
やがてその日を迎えることになります。

SFチックな設定ですが、
それが必ずしも徹底されている訳ではなく、
元々がブログの小説、
という枠組みのせいもあるのかも知れませんが、
過去の出来事などは、
現代と変わりがないように描かれます。

物語の主軸は大学生時代に、
1人の女性を取り合った、
2人の男の物語に収斂し、
筧利夫演じる主人公は、
長野里美演じる女性を奪うために、
ライバルの高橋一生演じる友人の、
作品を盗作して彼を自殺に追い込むのです。
その罪の意識に苛まれて逃れて来た、
その辺境の惑星で、
彼は死んだライバルの幻覚を見て、
記憶を失い、
自分が実は地球人になりすました惑星人で、
地球からの独立解放運動の闘士であると、
思い込むようになります。

お分かりのようにこれは、
鴻上尚史の以前からのテーマの1つで、
筧利夫の姿は、
過去の過ちと向き合わずに人生を過ごし、
自分を自分でない誰かと思い込んで、
虐げられた多くの人を助けるために活動していると、
信じている愚かな誰かの話です。

ブログの小説は、
要するに死んだライバルの書いたものなのですが、
記憶を取り戻した筧利夫に対して、
高橋一生の幻覚は、
「ブログを全て読んでくれたんだね、ありがとう」
と言って筧利夫と長い抱擁をします。

人間の封印している記憶が、
機械の中に現われるというのも、
鴻上得意の設定の1つで、
僕が彼の設定の中で最も好きなものの1つですが、
かつては「もう1つの地球にある水平線のあるピアノ」の中で、
封印されていた過去のレイプの記憶が、
裏で売買されたビデオテープに記録されていたものが、
今回は死んだ人間の書いたブログの記事が、
時間を越えて今の人間に死人と向き合う機会を与える、
という形で再現されています。

正直もう少し複雑な構成でも良かったかな、
と言う気がします。
プロローグにブログの小説を見付ける場面がある以外は、
全てブログの小説の世界になるので、
単調になる印象が否めません。

かつての「ピルグリム」では、
小説家とそのかつての小説世界が複雑に交錯し、
「ハッシャバイ」では、
夢と現実が交錯しましたが、
そうした表現は今回はありません。

筋の流れ自体の平坦さもそうですが、
小須田康人などは異星人役なので、
ずっと顔を緑に塗っていて、
それもちょっと切なくなるのです。

かつての第三舞台のキャラが、
これまで通りに再現されるのは、
同窓会的な雰囲気はありますが、
祝祭的な楽しさは感じました。

勿論昔ほど客席も沸かないのですが、
長野里美の着ぐるみのダンスも、
待ってました、と声を掛けたくなるような楽しさですし、
筧利夫の鬼畜ぶりと、
バブルの時代からタイムスリップして来たかのような、
筒井真理子の怪演も魅力でした。

中途半端な時代性は苛々する気はします。

設定は沖縄の基地を絡めた感じですし、
世代間のギャップや、
放射能問題など、
色々と小ネタを仕込むのですが、
正面切って何かの立場を主張する、
という感じではないので、
何か中途半端は感じがするのです。

ただ、その曖昧にしか主張出来ない部分に、
鴻上尚史さんの、
ある種の誠実さを感じる思いもしなくはありません。

そういう訳で、
色々と不満はあるのですが、
鴻上尚史の芝居の中では、
僕は近年になくワクワクしましたし、
中段は眠気を堪えるには苦労しましたが、
ファンのための祝祭としては成功しており、
時代の一部を第三舞台と共有した方にとっては、
一見の価値のある作品だったと思います。

でも、正直筑紫哲也に見守って欲しい、
というようなごあいさつの文面は、
亡くなられた方を悪く言うつもりは毛頭ないのですが、
鴻上さんには絶対に書いて欲しくなかったな、
と思いました。
大川隆法先生なみとはいかなくても、
召喚するならもっと超大物を、
鴻上さんには呼んで欲しいと思うからです。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

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コメント 7

midori

鴻上さんが劇団主宰者であることは知っていましたが、
私はラジオパーソナリティやエッセイスト・コラムニストとしての彼としか接触しませんでした。
終わってしまうなら、1本くらい観ておけば良かった。
でも「ごあいさつ」にはひっくりかえりましたね(笑)。
by midori (2012-01-09 11:24) 

☆ acco ☆

筑紫さんは日本の芸術の衰退を危惧されていて、
第三舞台が経済難で存亡の危機に瀕した時も、
個人的にサポートに回って救済した、
みたいなお話を、ラジオで聞いた事があります。
鴻上さんはその時の恩義を感じているのかな?

私が高校の時、演劇コンクールの地区予選で
鴻上さんは、普通に審査員をしていました。
今考えたら、贅沢な地区でしたね・・・。


by ☆ acco ☆ (2012-01-10 02:46) 

fujiki

midori さんへ
wowow の放送やDVDの発売もあるようですから、
それで充分かな、という気もします。
生で観る意義というのも、
最近は薄れがちになりましたね。
by fujiki (2012-01-10 08:17) 

fujiki

acco さんへ
確かにそうしたこともあるかも知れませんね。
こうしたところに、
チラと本音が出るので、
そうならないように気を付けます。
by fujiki (2012-01-10 08:19) 

shimo

はじめまして。祝祭という言葉が相応しい舞台でしたね。確かに舞台としては焦点のボケた感じがしました。それぞのテーマが深まらず、軽い印象をうけました。しかしその浅さと広さが劇団結成から解散の歴史を思わせてファンには多幸感を与えたのかもしれませんね。
自分は遅れてきたファンというやつでして、第三舞台を生で見ることはありませんでした。筑紫さんのこともあまりよく知らないのですが、ごあいさつの文面のどこが問題なのでしょうか?自分はそうなのかくらいしか思わなかったのですが、絶対という強い言葉を使われているので気になりました。すみませんぶしつけですが気になってしまったのです。
by shimo (2012-02-07 17:25) 

fujiki

shimo さんへ
コメントありがとうございます。
ちょっと誤解を招く表現であったかな、
と反省しています。
小劇場演劇というのは、
そう簡単に理解されてたまるか、
というくらいのトンガッた部分が、
常にあるべきではないか、
というのが僕の意見で、
筑紫さんのことが書かれている文脈が、
何となく保守的に感じられたので、
「理解されたい。誰かに見守ってもらいたい」
という軟弱な感じに、
ちょっと違和感を覚えたのです。

でも、そんなことは、
余計なお世話だと思いますし、
僕自身も筑紫さんという方のことを、
詳しく知っている、という訳ではありませんので、
イメージだけで書き過ぎた、
という気がしています。
by fujiki (2012-02-08 15:17) 

shimo

コメント返しありがとうございます。
失礼な物言いに丁寧な返答すみません。

演劇にもいかに理解されるか、理解してもらえる表現にするかを常に求められているという空気がある気がします。商業主義というより作る側も見る側もお互いにという気がします。失礼しました。

これからも記事楽しみにしています。


by shimo (2012-02-12 18:22) 

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