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ロタウイルスの自然免疫を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ロタウイルスの自然免疫.jpg
先月のNew England Journal of Medicine 誌に掲載された、
ロタウイルス感染症についての文献です。

ロタウイルスは小さなお子さんの嘔吐下痢症の、
代表的な原因ウイルスで、
最近日本でもグラクソ社の経口ワクチンが認可されました。

お子さんへの接種をどうするべきか、
迷われているお母さんもいらっしゃるかと思います。

ロタイルス感染症の予防ワクチンには、
現行今回採用のロタリックスとロタテックの2種類が、
世界的に使用されています。

上記の論文にもあるように、
世界的には年間50万人以上のお子さんが、
ロタウイルス胃腸炎のために亡くなっていて、
その大部分は発展途上国に集中しています。
中でも多いのがインドです。

従ってこのワクチンの使用は、
先進国では主に医療費の削減効果と、
お母さんやお父さんの労力の削減効果にあり
(お子さんの感染症のための頻回の通院や、
場合によって入院、
そのためにお仕事を休んだりする損失、
という意味です)、
発展途上国ではお子さんの死亡を阻止する、
というより積極的な意味合いがあるのです。

ところが…

インドではロタウイルスワクチンの効果は、
当初の予想よりかなり低いものだと報告されています。

ロタウイルスワクチンは、
基本的に実際にその病気に罹ったのと、
ほぼ同等の免疫を誘導する効果がある、
とされているワクチンです。

その効果が充分に得られないということは、
実際にこの病気に罹った時の身体の自然の免疫自体も、
あまり充分には働いていないのでは、
という推測がなされます。

そこで上記の論文の著者らは、
インドのお子さんに対して、
その出生時に452例のお子さんを登録し、
その経過を3年間にわたり追跡して、
ロタウイルスの自然感染がどのようなタイミングで起こり、
身体の免疫がどのように形成されるかを、
検討しました。
所謂コホート研究と呼ばれる方法です。

対象児の家庭を週に2回訪問し、
2週に一度ごとに便の検体を採取。
下痢などの症状があった場合には、
2日ごとの検体採取を行ない、
半年ごとには血液の採取も行ないます。

3年間の追跡可能事例は373例。
非常に緻密で労力の掛かった研究です。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

これまでの研究では、
初回のロタウイルスの感染後、
その後の感染を阻止出来る免疫の有効性は、
46~100%である、とされています。

随分と幅のある数値です。

今回のインドの研究では、
3回の感染を繰り返しても、
有効な防御免疫は79%しか形成されませんでした。

従って、場合によっては4回や5回のロタウイルスによる感染を、
繰り返す可能性がある、ということになります。

一方で以前に行なわれたメキシコの同様の研究では、
少なくとも2回の感染を繰り返すと、
その後に重症のロタウイルス胃腸炎には罹っていません。
つまり、2回の自然感染後には、
少なくともロタウイルス感染の重症化は100%防げる、
という結果です。

現行の日本で採用予定のロタウイルスワクチンは、
弱毒化したロタウイルスそのものですから、
自然感染と同等かそれよりは弱い免疫を、
誘導するタイプのワクチンです。

その接種法は生後6週から、
4週間以上の間隔を置いて、
2回の接種を行なう、というものです。
その効果は要するに自然にロタウイルス腸炎を2回繰り返すのと、
ほど同等かそれよりは弱い効果です。

従って、自然に2回ロタウイルスに感染しても、
その後の感染が防御出来ないのだとすれば、
ワクチンを打ってもあまり意味のないことになってしまいます。

ロタウイルスには多くのタイプが存在しますが、
かなりの交差免疫があり、
初回の感染ではその感染した1つのタイプに対する抗体が出来、
2回目にまた別個のタイプの感染を受けると、
今度は交差免疫が成立して、
ほぼ全ての流行型に対する免疫が成立する、
というのが一般的な考え方です。

そのタイプは抗原の蛋白質により、
G血清型とP血清型とが存在し、
G1[P8]とか、G2[P4]のように表現するのが通例です。

日本で採用になるグラクソ社のワクチンは、
このうちG1[P8]のみの生ワクチンです。

1種類のワクチンを2回接種することにより、
他の多くの抗原型の感染の悪化も、
同様に阻止出来るというのがその理屈ですが、
今回のインドの論文を読むと、
著者らはその免疫の有効性に疑義を呈しています。

実際にお子さんの感染を検証してみると、
初感染の半数以上は出生6カ月以前に起こっており、
初感染後に同型の感染にも、
必ずしも罹り難くなっている、
ということがありません。

これは1つには感染するウイルスのタイプが多いという、
インドの特殊性にもその理由があるのかも知れません。

欧米の同様の研究では、
ワクチンの重症化阻止効果が確認されているからです。

ただ、それでは日本でのこのワクチンの効果がどの程度のものなのか、
という点については、
まだ明確なデータはないのが実際ではないかと思います。
日本での臨床研究は、
あくまで比較的少人数のお子さんで、
接種後の重症下痢症の発症の頻度を、
検証しただけのものです。

日本のこの分野の研究者は、
概ね「ワクチンどしどし打ちまくろう」という考え方の方なので、
ワクチンの効果や安全性についての検証には、
あまり御熱心ではないことが多く、
ロタウイルスのワクチンについても、
「世界では打つのが常識なのだぞ」
というご神託の元に接種が始まりそうですが、
ロタウイルス感染後の免疫誘導のメカニズムには、
まだ不明の点が多く、
その接種に果たしてどの程度の有用性があるのかについては、
今後もっと実証的な検証が必要となるのではないかと思います。

今日はロタウイルス感染についての、
最近の知見をご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ごぶりん

今までノロ患者さんにお薬を出したことは多々ありますが、ロタウィルス
患者さんはお目に掛かった事がないので、ワクチン必要?と思ってたら
日本でも年間10人ほど亡くなられる方がおられるんですね。
ノロの死亡例はないのに。
死亡した患者さんの背景が知りたいと思って調べてもよく分かりませんでした。
遺伝子のタイプなんかで抗体の出来易さが判別できたらいいんですけど。
by ごぶりん (2011-08-17 21:36) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
亡くなる方の統計に関しては、
ちょっと微妙な点があると思います。
概ねワクチン推進の意図で、
そうした数字は書かれていることが多いからです。
by fujiki (2011-08-18 08:10) 

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