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牛肉から放射性セシウム、を考える [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
昼の往診がドタバタの感じなので、
昼まで雨が本降りにならないでくれると良いのですが…

それでは今日の話題です。

福島県から正規のルートに従って、
出荷された肉牛から、
規制値を大きく上回る放射性セシウム(134+137)が、
検出されたというニュースがありました。
それに関してある大新聞を読むと、
農産物への放射性物質の移行について、
研究されている先生のコメントとして
次のような文章が書かれていました。

「仮に1キログラム当たり650ベクレルの牛肉を、1日200グラム、1年間食べ続けたとしても人体への被曝は0.6ミリシーベルトにとどまる。一般人の年間限度1ミリシーベルトにも届かず、数回食べたくらいで心配する必要はない」

皆さんはこの文面をお読みになって、
どういう感想をお持ちになりますか?

この先生のご指摘の内容が、
誤りでないことは僕も理解はしています。

上記の内容は実効線量係数を0.013μSv/Bqで換算しただけの、
今では誰でも知っているような、
ブログネタにもならないような計算です。
引用部分にはありませんが、
記事の記載は全てセシウムで、
先生のご発言の部分もそうです。
仮にこの計算がその通りのものなら、
検出されたのは全てセシウム137である、
ということになります。
セシウム134とセシウム137の、
実効線量係数は異なるからです。

仮にセシウム134とセシウム137の合算でこの数値であるとすると
(勿論事実はそうである可能性が高いと思いますが)、
その比率が半々であると仮定して、
預託実効線量おおよそ0.76ミリシーベルトになります。
更にはもしセシウム137が650ベクレルなのだとすれば、
ほぼ同量のセシウム134も含まれている可能性が高くなり、
この数値は一気により多くなります。

しかし、そんなことはこの先生にとっても、
取材をされた記者の方にとっても、
どうでも良いことなのかも知れません。

勿論この先生に対面か電話なのかは分かりませんが、
取材をされた記者の方にとっても、
こんな計算など先刻承知の上だったのだと思います。
ただ、いつもの決まり文句の「安全」のお墨付きには、
それなりの肩書きのある先生を、
担ぎ出す必要があった、
というだけのことなのでしょう。

セシウムをセシウム137と解釈すれば、
上記の内容に誤りはありません。

ただ、1キロ当たり650ベクレルというのは、
最初に見付かった牛肉の話で、
同じ新聞の過去の記事によれば、
その時点でも3000ベクレル以上の検出の事例もあった筈です。
(大阪では4000ベクレルを超える報道もあったと思います)
セシウムは水と共に流れ出易い性質を持っているので、
所謂肉汁が流れ出たような状態では、
その肉の放射線量自体は、
当初よりかなり減少していることが予想されます。
つまり、解体の時点では、
より多くの放射性セシウムが、
含有されていたことが想定されます。

風評被害に配慮したためと、
実際にその牛肉を食べた方のお気持ちに配慮したためもあってか、
報道でもあまり実際のセシウムの計測値は、
はっきりとは明示されていないケースが、
結構見受けられます。
「暫定規制値を超えた量ではあるが安全」
という表現が多用されています。

ただ、上記の記事のコメントのように、
650ベクレルという数値を明記するのであれば、
本来は3000ベクレルを超える計測値のものもあったことも、
同時に明記するべきではなかったかと、
僕は思います。

3000ベクレルで同様の小学生レベルの算数をすれば、
1年間で2.8ミリシーベルトになります。
(これは新聞の記載の計算通り、
全てセシウム137と仮定した場合の話です)
その場合は年間限度の1ミリシーベルトを超えることになりますが、
その場合は「安全」ではないのでしょうか?
いやいや、多分その場合には、
20ミリシーベルトまでは安全、とか、
100ミリシーベルトまでは大したことはない、
という別の基準を持ち出せば、
それで済むことなのかも知れません。

僕はこのニュースは物凄くショックでした。

まさかある程度の放射能による汚染が想定される地域で、
震災後に雨に濡れた可能性のある稲わらを牛に食べさせ、
その牛を体表からサーベイメーターでγ線量を測定するだけで、
通常のルートで出荷するなどと言うことが、
実際に起こるとは到底考えられなかったからです。

僕は絶対に尿や糞便のセシウム137とストロンチウム90の測定は、
全頭ではなくても各農場で数頭ずつは、
行なわれているものと思っていました。

内部被曝と外部被爆は違うのです。

セシウム137もストロンチウム90もβ線を出し、
体表からその計測は非常に困難です。
従って、内部被曝の検査は、
それとは別個に行なわなくてはいけないのです。

勿論肉自体の全頭検査を行なえば、
より確実なのは間違いがありませんが、
出荷時点で尿中のセシウム137が検出されなければ、
肉にもそれほどの量の放射性セシウムの蓄積はない、
ということの傍証になりますし、
逆に尿中のセシウム137が上昇していれば、
その時点でその牛は食用に適さないのですから、
不必要に解体するような手間とコストを省くことも出来るのです。

セシウム137に関してはカリウムの摂取や、
ラディオガルダーゼの使用、
またリンゴペクチンなどの使用で、
その排泄を促進することは可能です。
文献を読む限り、
一定期間の排泄促進により、
肉の放射線量を暫定規制値以下に下げることは、
可能だと思います。

従って、尿中のセシウム137が検出された牛には、
排泄促進剤の使用を行ない、
その上で再検でセシウム137が検出されなくなれば、
解体して肉の検査に、
移行させれば良い理屈です。
(勿論出荷時期というのはあると思いますので、
これはあくまでセシウム量を下げることは可能だ、
ということのみの意味合いです)

本来はスポットで良いので、
ストロンチウム90の測定とプルトニウムの測定も、
同時に施行するべきです。

ストロンチウム90は必須で、
プルトニウムは何度か検出されなければ、
終了でも良いと思います。

こちらをご覧下さい。
牛の身体の放射性物質.jpg
これは昭和38年の文献です。
当時は米ソの核実験のフォールアウトで、
日本の穀物と家畜は汚染されていたのです。
こうした文献が当時は多く発表され、
牛肉がどのように放射能で汚染されるのか、
その経路や体内での分布の問題、
その対処の問題が検証されています。
この論文はほんの1例で、
稲わらなどの飼料により汚染が起こることも、
当然の前提とされています。

この文献によると、
セシウム137は牛の全身に広く分布していて、
どの部位に多い、
という一定の傾向はありません。
血液中や胃、睾丸にも分布しています。
つまり、セシウム137については、
ある部位のみの検査を行なえば、
それで基本的には問題はない、
ということが分かります。
ある肉の部位で検出されれば、
当然別の部位にもあるのです。

一方でストロンチウム90は、
第1胃、腎臓及び大腸にのみ検出されています。
つまり上記の部位及び骨髄を除けば、
ストロンチウム90の蓄積については、
牛肉の摂取時には、
それほど気を配らなくても良いのです。

こうした先人の業績が、
実際には有用に活用されていない現実は、
大きな問題があるのではないでしょうか?

僕は以前セシウムの内部被曝に関しての記事を書いた時に、
こうした文献に一通り目を通したのですが、
今回の事態を予測することが出来なかったことに、
自分の予測の甘さが悔やまれてなりません。

勿論その放射線量はそれ自体では問題のないレベルのものです。

当該の牛肉をお食べになり、
ご不安に駆られている方がいらっしゃいましたら、
それはご心配ないと僕も断言します。
ただ、セシウム137の排泄を促進するために、
1ヶ月はリンゴペクチンの摂取をお勧めします。
本来は尿中などのセシウムレベルの測定は、
そうしたご不安のある方には、
行政で行なわれるべきものだと僕は思います。
「安全」の空手形だけではいけない、
と思うからです。
(実際にはセシウム134のデータは乏しいのですが、
137と同様に排泄されると考えて、
ほぼ間違いはないと思います)

ただし、今後は絶対にこうしたことがないような、
対策は是非望みたいと思いますし、
安全な牛肉はすぐにでも出荷するべきだと思います。
これは本当に深刻な日本の農業と畜産業全体の危機なのであり、
明らかに杜撰な指導で出荷しておいて、
一旦発覚すると今度は全て出荷停止、
のような対応は、
最悪のものだと思うからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごぶりん

貴重な文献紹介有り難うございます。
検査方法も勿論ですが、農林水産省からの通知が畜産農家の方々に
行き渡ってなかったのも大きな問題かと思いました。
先生がチャンピックスの件でも言及されてましたが、情報の確実な伝達が疎かになっていたのでは。
また、情報のフィードバックも確立して欲しいです。

by ごぶりん (2011-07-20 08:44) 

Hirosuke

「予見し得ない事は必ず起こる。」の諺どおりですね。
by Hirosuke (2011-07-20 13:05) 

kobayasi tooru

先生のおっしゃるように杜撰な指導で出荷させられた牛もかわいそうです。
排出促進によりセシュウムのセシュウムの低下も図れるものであるとすればますますのの感を強くします。
国会の質疑で武部元農相が民主党政権は家畜に冷たいと言っていましたが。
by kobayasi tooru (2011-07-20 23:44) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
これはもっと通知を徹底させて慎重な出荷をすれば、
日本の牛肉の安全性の評価は上がった訳ですし、
一部の全ての食品は危険だ、
と政治運動をされているような方々にも一矢を報いることが出来たのですから、
つくづく行政の対応の拙さには、
暗澹とする思いです。
by fujiki (2011-07-21 08:12) 

fujiki

Hirosuke さんへ
コメントありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-07-21 08:13) 

fujiki

kobayasi tooru さんへ
コメントありがとうございます。
もう少し慎重にすれば、
何の問題もなかったのに、
と思うと無念でなりません。
by fujiki (2011-07-21 08:14) 

あん

>その牛を体表からサーベイメーターでγ線量を測定するだけで、


食肉として出荷した牛とは別に、全国に9300頭の牛を生きたまま移動させて、日本各地の牧場に引き取らせたようです。この馬鹿政府は。
同じく体表を計測したのみで。

移動した牛も検査の必要があるだろうし、尿とか糞で引き取った牧場の厩舎内や牧場が汚染されないかも心配ですね。

豚や鶏も数万~数十万単位で全国に移動したんですよね。
しかも計画避難準備区域という汚染度の高すぎるところの牛、豚、鶏を移動したと

この政府はアホすぎて呆れます
チェルノブイリの時は汚染家畜の拡散はせずに殺処分してたのに
by あん (2011-07-21 09:25) 

fujiki

あんさんへ
コメントありがとうございます。
おそらく農水省の方針だったのではないかと思いますが、
それこそこうした案件こそ、
政治主導で適切な方法を選択して欲しかったと思います。
ただ、僕もそんなこととは気が付かなかったので、
あまり大きなことは言えません。
責任の所在を明確にするべきと考えますが、
そんなことは実現はしそうにないですね。
by fujiki (2011-07-22 08:17) 

田村

はじめまして。田村と申します。
”セシウム137の排泄を促進するために、
1ヶ月はリンゴペクチンの摂取をお勧めします。”
とありますが、どこでどうしたら手に入るのでしょうか?
実家が東北のため、家族を心配しています。


by 田村 (2011-07-22 16:02) 

fujiki

田村さんへ
ネットによく作り方が出ています。
リンゴジャムを作るような要領ですね。
東京には青森産のリンゴが出回っています。
輸入の粉末も多く販売されているようですが、
その安全性などは何とも言えません。
by fujiki (2011-07-22 21:01) 

田村

ありがとうございます。確認してみます。
by 田村 (2011-07-22 23:58) 

chienosuke

いつもためになる記事ありがとうございます。
ベラルーシに居る知人に聞いたのですが
あちらではアップルペクチンは、服薬している人は摂取しないように医師から言われる、もしくは摂取するタイミングを医師から指示されるようです、
薬の成分も一緒に排出されてしまう可能性があるからだそうです、
そのことについてこのブログでは触れておりませんが先生はどうお考えですか?
by chienosuke (2011-07-24 10:58) 

fujiki

chienosuke さんへ
コメントありがとうございます。
確実とは言えませんが、
カリメートのようなカリウムのキレート剤と、
同様に考えて良いのではないかと思います。
ジギタリスはその濃度が上昇するので注意で、
カリウム、マグネシウム、アルミニウム、カルシウムなどの含有剤は、
その効果が減弱します。
これは胃薬や便を柔らかくする薬ですね。
それ以外の薬剤に関しては、
同時の服用でなければ、
それほど気にする必要はないのではないか、
と思います。
by fujiki (2011-07-24 21:01) 

kermit

とても参考になる記事に感謝いたしております。
素人の質問で誠に恐縮なのですが、
尿や便の排泄によって、人間や動物の体内から体外に出た
セシウム137やストロンチウム90は、トイレなどから下水に流れたり
牛舎の床に溜まったりはしないのでしょうか?
体からこれらの物質が素通りしても、体に残らないだけで生活環境の
どこかに拡散されてしまう、というのは間違った理解でしょうか?

また、全国に9300頭の牛を生きたまま移動させて、
日本各地の牧場に引き取らせたそうですが、
福島から牛を出したら、それらの牛が出す糞尿も一緒に全国に拡散されてしまう、と考えるのも間違った理解でしょうか?

本当に素人で申し訳ありませんが、ご見解をお伺いできたら幸いです。
by kermit (2011-07-31 10:54) 

fujiki

kermit さんへ
コメントありがとうございます。
それはkermit さんのお考えの通りで、
セシウムはそのトータルな放射線量としては、
自然に減衰するだけのことで、
人間が目の色を変えているのは、
放射性物質を移動させるだけのことです。
要するに自分の敷地の中にあると心配で夜も寝られないけれど、
隣に捨てればそれで安心、という考え方です。
これは環境問題であり、
人間の身体や牛の体内から、
排泄されたからそれでおしまい、
という問題ではないのですが、
その辺の認識は、
多くの方に乏しいのではないか、
と僕は思います。
by fujiki (2011-08-01 08:19) 

kermit

分かりやすいお返事をありがとうございます!
今回の各種核分裂生成物の拡散問題は、
「境問題であり、人間の身体や牛の体内から、
排泄されたからそれでおしまい、という問題ではない」ということを
教えて頂いた内容により、一層確信いたしました。

そのような視点から今回の問題を説明してくれる人がほとんどいないことに唖然としています。
by kermit (2011-08-01 09:44) 

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