SSブログ

この一言を言えば世界が崩壊する [ミステリー]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は祝日で診療所は休診です。
いつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

今日は外出にはきつそうだし、
家で少し片付けをしたり、
サッカーの再放送を見ようかな、
という感じです。
サッカーは良かったですね。
僕が見ると絶対負けるので、
深夜のライブは見ませんでした。

休みの日は趣味の話題です。

ミステリーはとても好きなのですが、
何が最も好きかと言えば、
それまで伏せられていた犯人が、
指摘される瞬間の、
永遠が濃縮されたような感じの、
静謐な一瞬が好きなのです。

「犯人はあなたですね」
という台詞には、
何かワクワクとするものがあります。
その一方で、
何か切ない思いがします。

それはそれまで開かれていた物語が、
閉じられる一瞬だからかも知れません。

僕の好きなミステリーは、
そんな訳で犯人の隠されていた物語が、
犯人が指摘されたその瞬間、
いや指摘された犯人が自分が犯人であることを認めた瞬間に、
それまでの世界が崩壊し、
根底からその様相を変える、
という種類の物語です。

そして、その犯人に魅力がなければいけません。

クリスティーの「アクロイド殺し」は、
最初に読んだのは小学生の時ですが、
その時の読後の印象は強く心に残っていて、
名探偵ポアロが、
「犯人の条件はこれこれの特徴を持っていることで…」
というような推理を、
ダダダッとするのです。
その最後に「すなわち、○○さん、あなたです」
みたいな言い方で犯人を指摘すると、
その瞬間に世界の様相が一変するのです。
この犯人はとても切なくて、
僕はそれをとても愛おしく感じたのです。

辻真先の「仮題・・中学殺人事件」というのは、
「アクロイド殺し」の一種のパロディで、
いきなりオープニングで、
色々なミステリーの犯人が、
無造作にバラされている、
という酷い作品なのですが
(ですから一通り内外のミステリーの名作を読んだ後でなければ、
決して読んではいけません)、
最後に登場する犯人は、
これも非常に切なく哀しくて、
その余韻は数日は消えませんでした。

クリスティでは「ナイルに死す」の犯人も好きで、
物凄く手の込んだ犯罪計画なのですが、
名探偵ポアロの理詰めの追求から、
一種の引っ掛けで本性を現わすのですが、
その時の犯人の切ない風情が、
非常に心に残ります。

殊能将之の「美濃牛」の犯人も僕好みで、
横溝正史のパロディみたいな大作なのですが、
絶対にリアルには存在しない犯人の造形とその悲しさが、
ちょっと無理筋の気もするけれど、
心を打つのです。

その原点の横溝正史では、
意外と犯人が金田一耕助に、
直接指摘される場面は少ないのです。
大抵犯人が指摘される時には、
犯人はもう死んでいます。
その中では名作「獄門島」が、
指摘された瞬間に犯人はその場で命を絶つのですが、
極めて日本的な無常観が漂い、
印象に残っています。

江戸川乱歩はその作品の中で、
常に犯人が露になる瞬間のカタルシスに拘った作家ですが、
「蜘蛛男」の犯人が本性を顕わす時の様子とか、
「地獄の道化師」や「妖虫」の犯人の自虐的な悲しさなどは、
特に強く印象に残ります。
彼の作品の犯人はちっとも意外ではないのですが、
彼の名文とその幼児的な恐怖に接すると、
そんなことは枝葉末節のように思えるのです。

古典だとメイスンの「矢の家」の犯人とか、
ヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」と、
「僧正殺人事件」も良いですね。

悪の造形という点で言うと、
P・Dジェイムスの「皮膚の下の頭蓋骨」の犯人とか、
レジナルド・ヒルの「骨と沈黙」の犯人も、
圧倒的な凄味がありました。

言葉というのは不思議なもので、
人間同士の場面においては、
その場で絶対に言ってはいけない、
それを言えばその場を成り立たせていた基本的な原理が、
全て崩壊してしまう、
というような言葉が、
必ず存在しているような気がします。

言葉の力、というのは、
その意味では非常に重くて、
そして人間の世界において、
圧倒的な破壊力を持っているのです。

昔から本当に重要な言葉は、
決して口にしてはいけない、
というような禁忌が存在しているのも、
そうした意味合いではないかと思います。

そして、人間は常にそうした「危険な言葉」を、
頭の中で吟味しているのです。

伏せられた犯人が最後に暴かれるタイプのミステリーは、
そうした禁忌の言葉によって、
世界が崩壊するということに対する怖れを、
小説の小世界の崩壊で表現したもののように、
僕には思えてならないのです。

僕達は常に頭の中で、
この世界を崩壊させ、
自分自身を崩壊させる言葉を吟味し、
それを抑圧することによって日々の生活を成り立たせながら、
その一方で核兵器のボタンを目の前にした独裁者のように、
破滅の時を甘美に追い求めている存在なのかも知れません。

今日は僕にとってのミステリーの魅力の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
nice!(25)  コメント(6)  トラックバック(0) 

nice! 25

コメント 6

acco

私が今一番読み返したいミステリーは、
少年探偵団シリーズです。

乱歩自身が随所で『読者諸君』に語りかけてきたり、
二十面相に捕らわれた小林少年が、
徐に鞄から伝書鳩を取り出して、
こっそり明智小五郎に居場所を知らせたり…と、
今となっては、見所満載です。

殺人は起こりませんが、別な意味でおススメです☆

by acco (2011-07-19 00:48) 

人力

「美濃牛」は最後のどんでん返しが好きです。秘密にされていたのは探偵の存在だったなんてミステリーは私は始めてでした。あれ程インパクトのある探偵を、大事にしない殊能将之は、本当に理解不能です。読者をケムに巻く事を無二の喜びとしているのでしょう。
by 人力 (2011-07-19 04:12) 

yuuri37

ミステリーは、それほど多くは読んでいません。ただ、金田一のシリーズは読みあさりましたね(⌒-⌒; )なぜだろう・・・
「ナイルに死す」は、よく覚えています。江戸川乱歩は母が好きで、これいいからとよく勧められて読んだのですが、いつも途中で
怖くなってしまって、登場人物が頭から離れず、自分の日常に押し入って来るのが嫌でした。私の脳は、お子様なのですね(笑)
by yuuri37 (2011-07-19 06:48) 

fujiki

acco さんへ
コメントありがとうございます。
僕の小学生の頃に一通り読みました。
乱歩の良い意味での幼児性が、
こうした少年少女向けの読み物には、
ピッタリしていたという気がします。
by fujiki (2011-07-19 08:28) 

fujiki

人力さんへ
殊能将之さんは全ての作品に、
趣向があって楽しいのですが、
最近はあまり作品を発表されていないのが残念です。
以前のサイトの日記も楽しみにしていたのですが、
今はツィッターだけになってしまい、
それも残念です。
by fujiki (2011-07-19 08:30) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
僕も同じで結構何度もうなされました。
でもその感じが、
今は僕の財産になっている気がします。
by fujiki (2011-07-19 08:32) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0