SSブログ

携帯電話の脳腫瘍リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からカルテの整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
携帯電話と発癌.jpg
先日ニュースになった携帯電話と脳腫瘍との関連について、
国際癌研究機関がどのような討議をしたかの概要が、
今月のLacet Oncology 誌に掲載されました。

読んでみましたが、
そう新たな情報がある、
ということではありませんでした。

これまで検証可能なこの分野における臨床研究を、
レビューして検討した、
というのが実際の内容です。

そもそも携帯電話の電磁波が、
脳腫瘍のリスクになるとすれば、
それを立証するにはどのような臨床研究が、
望ましいものでしょうか?

一番確実な手法は、
ある一定の人数の方を、
2つのグループに振り分け、
第一のグループは一切携帯電話は使用せず、
電磁波を送信するような施設には近寄らず、
第二のグループは携帯電話を使用して、
それで一定期間後に、
どちらのグループに脳腫瘍が多かったかを、
検証すれば良いのです。

しかし、ちょっと考えれば、
そんな研究は困難なことが分かります。

今の時代に携帯電話を一切使用しないという人は非常に少なく、
仮に実験のためにそうした強制をするとすれば、
それは社会生活に大きな制限を加えることになりますし、
一方で実際に携帯電話を使用しない人を、
実験の対象に選ぶとすると、
その人達はかなり「変わった」人である可能性が高く、
それだけで大きなバイアスが掛かることになり、
結果の信頼性が乏しくなります。

更には脳腫瘍になる確率はそもそも非常に低く、
また被ばくから発癌までの時間も長いので、
少なくとも数万人規模の対象者に対して、
10年以上の期間を観察しなければ結果は得られません。

そこで、それよりは信頼度は低いのですが、
ある人数の人をエントリーして、
追跡調査を行ない、
その中で携帯電話を多く使用する人と、
殆ど使用しない人とを後から分けて検討し、
どちらが脳腫瘍の発生が多かったかを検証するような方法が、
まずは取られることになります。

これをコホート研究と言いますね。

今回検証されたコホート研究は、
デンマークの携帯電話加入者を対象としたものです。

デンマーク全域で、
1982年から1995年までに携帯電話を契約した、
42万95人を対象とし、
全国癌登録と照合したところ、
2006年までの追跡調査で、
そのうちの257人が脳腫瘍の1つである神経膠種を発症していました。
これを一般人口から算出された、
癌の発症確率と比較するのです。
結論としてはこの研究結果からは、
脳腫瘍と携帯電話との明らかな関連性は得られませんでした。

今回取り上げられたコホート研究はこれだけです。
これはまだ携帯電話が徐々に普及してゆく時期の研究なので、
こうした比較が可能ですが、
携帯電話が一般に普及した現在では、
ほぼ不可能ではないかと思います。

後の殆どは症例対照研究です。

症例対象研究というのは、
脳腫瘍の患者さんを最初にリストアップするのです。
そこに対象となる脳腫瘍のない方をリストアップして、
両者の背景に携帯電話の使用が、
影響していないかどうかを解析します。

たとえばある病院で100人の脳腫瘍の患者さんがいたとすると、
同じ病院に受診していた、
100人の脳腫瘍のない患者さんを対象にして、
両者のグループで、
携帯電話の使用に差がなかったかどうかを解析するのです。

これは後付けなので、
最初からある集団を対象にして経過を見る、
という方法に比較すると信頼性には劣るのです。

しかし、もともと1000人を追跡しても、
脳腫瘍になる方は1人はいないのですから、
コホート研究で脳腫瘍と携帯電話との関連性を検討することは、
非常に困難で、
こうした研究で妥協せざるを得ないのです。

この症例対照研究は世界各国で行なわれています。

今回問題になりそうな結果が出たのは、
その1つはINTERPHONE(インターフォン)研究と呼ばれる、
世界規模の症例対照研究で、
ヨーロッパを中心にして日本も参加しています。

この中で2708例の神経膠腫の患者さんと、
2972名のコントロールとを比較したところ、
携帯電話の使用のあるなしで検証しても、
オッズ比は0.81で有意な差はありませんでしたが、
年間1640時間以上使用しているユーザーに限って解析すると、
オッズ比が1.4と有意な上昇を認めました。

更にスウェーデンの同様の研究において、
1148例の神経膠腫の患者さんを、
2438例の対象者と比較したところ、
1年以上携帯電話を使用している人でオッズ比が1.3、
2000時間以上の使用において、
3.2と有意な上昇が認められました。

オッズ比というのはリスクが何倍になった、
というのと似た表現で、
前向き研究ではリスク比を、
後ろ向き研究ではオッズ比を使う、
というのが原則です。
大雑把に言えば2000時間以上携帯電話を使う人では、
使わない人の3.2倍神経膠腫が起こりやすかった、
という意味合いです。

以上の2つの症例対照研究が、
今回の携帯電話の発癌性についてのコメントの、
主に根拠となった結果です。

ただ、この結果に関しては、
脳腫瘍の患者さんに対して、
後から聞き取りが行なわれているので、
そのためのバイアスが結構掛かり
(患者さんはその質問を受けた段階で、
自分の病気の原因が、
ひょっとしたら携帯電話の電磁波の影響ではないか、
という先入観を既に持っている、
という意味合いです)、
その点で信頼性に欠ける部分があるのではないか、
と言う議論もあるようです。

聴神経腫瘍に関しては、
日本の症例対照研究で有意差ありとの記載がありますが、
その詳細は確認していません。

そして、それ以外の脳腫瘍については、
有意にその関連性を示すような結果は認められませんでした。

携帯電話は耳に当てて使用するのが、
脳への影響を大きくするので、
ハンドフリーのタイプのものであれば、
その影響はグッと小さくなります。

上記の解説では、
脳への電磁波の影響は、
それだけで10分の1以下になる、
と書かれています。

また、電磁波の脳への吸収線量は、
小児では大人の倍になり、
頭蓋骨の骨髄への吸収線量は、
大人の10倍以上になる、
という報告も紹介されています。

ある医療従事者の方が、
「小児は放射線の影響で癌になり易いと、
騒ぐ無知な奴らがいるけれど、
細胞の増殖が早いので、
逆に1つの細胞への影響は小さく、
修復もされ易いので、
むしろ放射線には子供の方が強いのだ」
という説を事実として書かれていましたが、
それはお書きになった「あなたの」お子さんは、
そういう強さをお持ちなのかも知れませんから、
どしどし電磁波も放射線も、
自由に浴びて頂ければ良いと思いますが、
一般にはそうした考えは危険だと僕は思います。

今回の結果をどう考えるのかは微妙なところで、
明確に携帯電話が脳腫瘍の原因と、
言い切れるようなものではありません。

しかし、特に耳に機器を当てての、
毎日数時間の通話を、
お子さんの時から継続することは、
ある程度の将来的な発癌のリスクになりうることは、
日頃から認識しておく必要があるのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(33)  コメント(8)  トラックバック(0) 

nice! 33

コメント 8

ごぶりん

君子危うきに近寄らずというところでしょうか。
例え明確な危険性が立証されてなくても疑わしき時はなるべく避けた方がいいと思いました。
それにしても携帯で1日5時間もしゃべる人ってどんな職業の人なんでしょうか?
正直、調査に掛かる費用を、携帯に限らず生物に対して有害の可能性のある電磁波を
発生させる機器からそれらを遮断させるマテリアルの開発に廻してくれる方がいいかなぁ~。
下手な文章で済みません。
by ごぶりん (2011-07-16 23:35) 

ゆうな

 私も、子供の機嫌を良くするために、携帯電話を使用していました・・・。


 特に、食事の用意をしている時間には、台所よりも携帯電話のほうが危険性が少ないと考えていた為です。



 明日から、携帯電話の使用方法をきちんと考えたいと思います。


 いつも、お世話になりまして、有り難うございます。


 最後になりましたが、先日は、私の体調にお気遣い下さいました返信を、ありがとうございました^^



 私は、過保護が行き過ぎて、自分の体調をコントロールできないところがありすぎて、とても弱い人間です。
 先生の、毎日のブログに、どれだけ心癒されているかは、御想像にお任せ致しますが、いつも、元気を頂いています。



 これからも、毎日、先生のブログを拝読していきたいと思っています^^
 
 あ、これ、以前にも書き込みさせて頂きましたね^^




 いつも、本当に、有り難うございます。
 どうか、お体、御自愛下さいますように。
by ゆうな (2011-07-17 04:05) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
これは主にGSMと呼ばれる通信方式の、
電磁エネルギーが強いことが問題視されていて、
現行日本で使用されている携帯電話では、
そのリスクはより低いものと考えられます。
ただ、聴神経腫瘍のものは日本のデータです。
by fujiki (2011-07-17 22:57) 

fujiki

ゆうなさんへ
コメントありがとうございます。
お子さんの長時間の通話は、
色々な意味で控えた方が良いのだと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-07-17 22:58) 

ごぶりん

お返事ありがとうございます(^-^)

”ただ、聴神経腫瘍のものは日本のデータです。”というのは
本文の
「聴神経腫瘍に関しては、
日本の症例対照研究で有意差ありとの記載がありますが、
その詳細は確認していません。」
の部分でしょうか?
本格的な疫学的調査はなされてなさそうですね。

「これは主にGSMと呼ばれる通信方式の、
電磁エネルギーが強いことが問題視されていて、
現行日本で使用されている携帯電話では、
そのリスクはより低いものと考えられます。」
→少し気が楽になりました。利己主義のきらいはありますが…。

by ごぶりん (2011-07-18 09:25) 

fujiki

ごぶりんさんへ
INTERPHONE Study の1つとして、
英文の文献になっていますが、
僕は原文は読んでいません。
上記の解説に引用はされています。
ただ、日本で行なった症例対照研究なので、
日本の携帯電話ユーザーが、
対象となっていると思います。
by fujiki (2011-07-18 09:54) 

midori

ふとした疑問。
電子レンジの光を見るな、などと言われますけど、
それで温めた物食べても大丈夫なのかしら?
そんなこと言い出したらきりがないですかね。
科学の力で便利な世の中になっていて、
その恩恵を受けていることは十分承知の上なのですけれど。
時々はたと、考えてしまいますねぇ。
by midori (2011-07-19 16:58) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
これは電子レンジを含めて、
全ての電磁波が有害だ、
という説の方もいて、
一方で高線量の放射線以外は、
物理的な振動を与えるだけなので、
無害である、という説の方もいて、
はなはだ不明瞭です。
まあ、科学の領域の問題と言うより、
政治的な案件なのだと思います。
by fujiki (2011-07-20 08:23) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0