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高尿酸血症治療薬一覧(総論) [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今年の5月に新規の高尿酸血症治療薬が、
日本で発売になりました。

フェブキソスタット、商品名はフェブリクです。

今日はそのフェブリクを含めて、
高尿酸血症の治療を考えます。

血液の尿酸値が高いことで、
身体にとってどのような問題があるでしょうか?

一番最初に思い付くのは所謂「痛風」の関節炎です。

尿酸が高い人がたとえばお酒を飲むと、
その翌日に足の指の付け根が真っ赤に腫れて、
歩けないような酷い痛みが襲います。

これが痛風の発作です。

この痛風発作は、
必ずしも尿酸が高いことのみを、
原因として起こる訳ではありませんが、
血液の尿酸値が6.0mg/dl 以下では起こり難いことは間違いがなく、
従って痛風の関節炎を起こして、
その時の尿酸値が7.0mg/dl を超えており、
その尿酸値がお酒を控える、体重を減らす、
などの生活習慣の改善によっても低下しない時には、
尿酸値を下げる薬を、
飲むことが推奨されます。

これは世界的にもほぼ共通の認識です。

問題は痛風発作がなく、
それでいて血液の尿酸値が高い時です。

この場合、アメリカやヨーロッパでは、
基本的には尿酸値を下げる薬は推奨されません。

しかし、日本においては、
血液中の尿酸値が9.0mg/dl を超えていれば他に何も病気がなくても、
8.0mg/dl を超えていて腎障害や糖尿病があればその時点で、
いずれも薬物治療の適応となります。

何故このような違いがあるのでしょうか?

ガイドラインを隅々まで読んでも、
どうもその点にはすっきりした説明がありません。

腎機能や高血圧の状態と、
血液の尿酸値に関連性がある、
というデータが複数存在し、
それが1つの論拠となっています。

つまり、尿酸が高いことにより、
腎機能が悪くなったり、
血圧が上昇したりしているのではないか、
というのです。

しかし、それを証明するのには、
尿酸を薬で下げることにより、
それだけで高血圧が発症し難くなったり、
腎機能が悪化し難くなったりすることを、
示さなければなりませんが、
クリアに人間でそうした治療効果を証明したデータは、
「若干の傾向…」程度のものがあるだけで、
実際には存在しないのです。

このことが、
海外では尿酸を下げる薬の使用が、
痛風の患者さん以外では推奨されていない理由です。

もう1つ日本と海外とで考え方が違うのは、
治療薬の選択です。

アメリカではアロプリノール(商品名ザイロリックなど)が、
尿酸降下剤のうち98%のシェアを占めています。
つまり、それ以外の薬は殆ど使用されていません。

一方で日本ではベンズブロマロン(商品名ユリノームなど)が、
ザイロリックよりむしろ多く使用されています。
この薬はアメリカでは発売すらされていません。

何故このような違いがあるのでしょうか?

日本では以前から、
血液とおしっこの尿酸値を測定し、
高尿酸血症を、
尿酸産生過剰型と尿酸排泄低下型の、
2種類に分類することが広く行なわれていて、
排泄低下が8割に認められるとされています。

そして、この尿酸排泄低下型には、
尿酸の排泄を促進する薬がより有効なので、
排泄促進剤のベンズブロマロンが、
好んで使用されている、
という経緯があるのです。

しかし、この分類は本当に有用なものでしょうか?

尿酸の害と言われるものの1つは、
腎臓に尿酸が沈着することと、
結石を形成することにあります。

尿酸排泄促進剤はむしろ腎臓や尿管への、
尿酸の流入を増やすのですから、
腎臓への沈着や尿管の結石形成は、
少なくとも一時的には増やす結果になるのです。

一方で尿酸の産生を抑える薬であれば、
トータルな身体の尿酸の量は徐々に減ることになるので、
尿酸の排泄がやや低下していても、
その使用を継続すれば尿酸排泄促進剤と、
それほど違いのない効果が期待出来るのです。

このことが、
海外で尿酸排泄促進剤が、
殆ど使われていない理由です。

僕は個人的にはベンズブロマロンは殆ど使用していませんが、
それは上記の理由から、
尿酸排泄剤に尿酸産生阻害剤を凌ぐメリットが、
あるようには思えないからです。

ただ、アロプリノールには、
稀ですが重症の薬疹を起こす、
という欠点があります。
その発症を事前に予知することは困難です。

そこで新薬のフェブリクは、
基本的にはアロプリノールと同じ尿酸生成抑制剤ですが、
その構造にプリン骨格を含まないため、
こうした重症薬疹は起こし難いのでは、
と考えられています。

もしそれが本当であれば、
アロプリノールよりフェブリクを使用することが、
患者さんの安全のためには、
より望ましいということになります。

しかし、今の時点でその結論を下すのは、
まだ時期尚早ではないかと思います。

僕は基本的には痛風発作や尿路結石などのない、
無症候性の高尿酸血症を、
治療することの意義については懐疑的です。
ただ、使用する場合はアロプリノールを禁忌でなければ選択し、
少量から特に湿疹の出現には注意しつつ、
使用する方針としています。

明日は各論として、
個々の薬剤のもう少し詳しい内容を、
ご説明したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

catfish

石原先生、こんにちは♪
フェブリクはいつ取り上げてくださるかなあ❤と首を長くして待ってましたので明日が楽しみです!ちなみにMRさんに頼まれて一箱置いてますが処方はまだありません。新しいお薬は医療費を消耗するので効果が少しの違いだったらどうかなあ・・と個人的には思っています。たとえばプラザキサも維持量だと1日530円くらいかかります。ワーファリンだったら何十円というところでしょうか。いくら後発品でせこせこと節約しても配合剤はいっぱい出てくるし、たまに虚しいです。暗いですね。すみません。
by catfish (2011-06-16 17:37) 

taka

尿酸値は多少高めなので薬をと言われています。
基準値を超えていないので飲みたくありませんでした。
これから色々と考えて見ます。

by taka (2011-06-16 18:42) 

ごぶりん

高尿酸値はメタボリックシンドロームのリスク因子の1つとして認識されつつあるという文章を医療サイトで見ました。動脈硬化を促進する様ですが、メカニズムについては触れてませんでした。
ユリノームも飲み始めに定期的に肝機能の確認をする必要がある位なので余計安易に処方すべきではないかもしれませんね。
個人病院の門前にいた頃は食事指導なしで即、ザイロリックやユリノームが処方されることも結構ありました。
大学病院に個人病院で処方された薬で重篤な副作用を発症された方が結構来られているのを知ってから正直恐ろしくなりました。
そのような患者さんは大体その処方もとの個人病院を受診しないんですね。
by ごぶりん (2011-06-16 21:43) 

ごぶりん

すみません。たびたび・・。

>しかし、日本においては、血液中の尿酸値が9.0mg/dl を超えていれば他に何も病気がなくても、8.0mg/dl を超えていて腎障害や糖尿病があればその時点で、いずれも薬物治療の適応となります。

今春発売のフェブリク以外の高尿酸血症治療薬は痛風発作または高血圧を伴わないと適応にならないと思ってましたが違ってましたっけ?


by ごぶりん (2011-06-16 22:00) 

fujiki

catfish さんへ
コメントありがとうございます。
薬価差はかなり大きいので、
すぐに飛び付くのはどうか、
という思いは確かにあります。
by fujiki (2011-06-17 08:20) 

fujiki

taka さんへ
コメントありがとうございます。
痛風以外で尿酸値を薬で下げることのメリットは、
血圧や糖尿病、高脂血症と比べると、
あまり明確なものではないと思います。
by fujiki (2011-06-17 08:22) 

fujiki

ごぶりんさんへ
メタボ云々は尿酸トランスポーターを介した作用、
という説明が主なもので、
日本人以外の論文はあまりありませんし、
如何にもユリノームの使用に、
都合の良過ぎる理屈だな、
という気がします。
昨年のNew England…の総説にも、
そうした説明は一切ありません。

記事にある適応の基準は、
高尿酸血症のガイドラインの記載です。
保険適応の記載はごぶりんさんの言われるように、
高血圧と痛風の但し書き付ですね。
ただ、実際には有名無実だと思います。
by fujiki (2011-06-17 08:26) 

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