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妊娠中のヨード過剰のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から介護保険の意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は妊娠中のお母さんのヨード過剰摂取が、
お子さんに与える影響についての話です。

ヨード(ヨウ素)はご存じのように、
甲状腺ホルモンの材料として、
身体にとって重要な微量元素です。

ヨードの1日の必要量は、
成人で150~200μg程度ですが、
妊娠中にはお子さんの甲状腺ホルモンの産生にも、
ヨードが必要になるため、
その倍量の300μg程度のヨードの摂取が望ましい、
とされています。

胎児は12週頃から自前で甲状腺ホルモンの産生を始めますが、
それは胎盤を通して胎児の血液中に入る、
ヨードをその原料としています。

しかし、日本人の食生活では、
ヨードの摂取量は非常に多く、
平均1日2000~3000μg(2~3mg)という推計もあります。
要するに必要量の10倍以上という高摂取量です。
厚生労働省は許容制限摂取量を1日3000μgとしていますが、
2008年に昆布の過剰摂取を原因とする、
お子さんの甲状腺機能低下症を報告した研究者は、
妊娠している方のヨード摂取量は、
1000μgを上限にするべきだ、
という意見を提言しています。

何故、お母さんのヨードが過剰であると、
お子さんが甲状腺機能低下症になるのでしょうか?
そして、ヨードの摂取量は、
どのくらいにするのが適切なのでしょうか?

ヨードは甲状腺ホルモンの材料です。
そうであれば、
材料が増えればむしろホルモンが沢山作られて、
機能亢進になっても良いのではないか、
と普通は考えます。

しかし、実際にはある程度以上のヨードが、
大量に甲状腺の中に入ると、
甲状腺ホルモンの合成自体が抑えられ、
むしろ機能低下が一過性には生じる、
とされています。
この機能低下の状態は、
甲状腺の働きに特に問題がなければ、
2~3週間後にはほぼ元のレベルに回復します。

ただ、問題は甲状腺のホルモンを作る働きに、
何らかの異常がある時です。
代表的な病気は橋本病で、
この病気は甲状腺の自己免疫疾患ですが、
ホルモン合成に軽度の異常を伴うことが多く、
そのために過剰ヨードによる機能低下が、
より起こり易くかつ持続し易いのです。

ここまでは普通の大人の話です。

胎児や新生児は大人と同じくらいの量のホルモンを、
日々作っていますが、
ヨード感受性が高く、
過剰なヨードの毒性に対して、
敏感であると考えられています。

このため、妊娠中に過剰なヨードがお母さんに摂取されたり、
授乳期に過剰なヨードが乳汁中に移行すると、
お子さんはその影響を受けて、
甲状腺機能低下症が持続し易くなるのです。
特にそのポイントは、
まだ脳下垂体の機能が出来上がる前に、
大量のヨードの影響を受けることで、
12週から20週くらいの時期が一番リスクが高く、
この時期の未熟な甲状腺が大量のヨードに曝されると、
その後永続的な甲状腺機能低下が、
生じ易いとされています。

胎児に巨大な甲状腺腫が生じた、
という症例報告が昨年日本で論文になっています。

お母さんはお子さんのためにヨードが必要と考え、
妊娠の初期から出汁昆布のパックを、
そのまま食べることを続けていました。
すると、妊娠中期に胎児の頚に、
巨大な甲状腺腫が超音波で見付かり、
帝王切開後に甲状腺ホルモンの使用にて、
お子さんの甲状腺機能低下症は改善し、
甲状腺腫も縮小しました。

推測では1日5000μg以上のヨードが、
妊娠初期から中期に掛けての期間に、
お母さんに摂取されていたものと考えられます。

この事例のポイントは、
これだけ過剰のヨードが身体に入っていたにもかかわらず、
お母さんの甲状腺機能は正常であった、
ということです。

つまりお母さんには過剰なヨードが持続しても、
ホルモンの抑制は一時的で、
数週間で正常化したのです。

一方で同じ過剰なヨードが、
感受性の高い胎児にとっては毒性を持ち、
甲状腺の機能低下は持続して、
それにより甲状腺刺激ホルモンの刺激を受け続けて、
甲状腺は肥大してしまったのです。

生まれ付きの甲状腺機能低下症を、
クレチン症と呼び、
その原因の多くは不明ですが、
クレチン症のお子さんを生んだお母さんの、
妊娠中の食事を検討すると、
1日のヨード摂取量が1500μgを超えており、
少なくとも素因のある胎児に、
そうした大量のヨードが移行することが、
甲状腺機能低下症のリスクとなることを、
示していると思われます。

放射性ヨードの被曝の問題以降、
ヨードを多めに摂ることが、
被曝を防ぐためにも有効である、
とするやや安易が考えが普及しています。

しかし、少なくとも妊娠中、
特に妊娠の初期においては、
ヨードの過剰な摂取が胎児の甲状腺機能に、
悪影響を与える可能性が高く、
1日のヨードの摂取量は、
300μg以上1000μg以下を目途に、
過剰摂取を避けることが必要だと僕は思います。

今日は妊娠中のヨード摂取についての話でした。

念のため補足しますが、
この摂取量はあくまで安全を最大限考えて、
という意味合いなので、
ヨードを沢山摂ると直ちにお子さんの甲状腺に影響が出る、
という性質のものではありません。
絶対のものではなく、
ご妊娠中の方は、
過度のご不安を抱かれないようにお願いします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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オリガ

実家は岩手県大船渡市です。
幼い頃より、365日ワカメを食べない日はありませんでした。
今年こそ津波の影響で全く食べておりませんが、いつもの年なら三食味噌汁かおひたしに加えてメカブも必ず御飯にかけて食しております。

現在、私は妊娠しておりませんが、同郷の友人で妊娠中の人は私と同じく年中ワカメを食べない日はない毎日です。
食習慣をやんわり変えてあげるに適した言い回しを教えてもらえませんか?
by オリガ (2011-06-04 14:37) 

fujiki

オリガさんへ
コメントありがとうございます。
ご妊娠中にご不安になればよくありませんし、
難しいですね。
昆布が何といってもヨードが多いので、
昆布のだし汁のようなものは気を付ければ、
概ねOKだと思います。
「海草の摂り過ぎも身体に良くないことがある」
くらいのニュアンスで、
ワカメも1日おきくらいのペースにしてもらうのが、
無難ではないかな、
と言う気がします。
by fujiki (2011-06-05 21:09) 

akari

現在妊娠初期のものです。
妊娠が判明した途端に虫歯が痛みだし、歯科で神経抜く処置をしました。
現在その根幹治療中ですが、消毒薬に歯科用ヨードを使用し、実際にはそれを綿などに染み込ませたものを歯の中に詰め、上から仮詰めをして、一週間すごしました。その間、ずっと唾液に薬のような味がしていたのですが、おそらく歯科用ヨードが漏れて、唾液と一緒に飲み込んでいたようです。時期的には妊娠6週〜7週くらいの1週間です。
胎児への影響がすごく気になるのですが、教えていただけたらと思います。
by akari (2012-12-14 12:28) 

fujiki

akari さんへ
イソジンガーグルで、
1㏄当たり7㎎のヨードを含有していますが、
単純に考えて、
仮に綿に10㎎のヨードが含まれていたとしても、
1日で全てが吸収されるのではなく、
ジワジワと吸収されたと思いますから、
1日の吸収量は甲状腺の抑制量より少なく、
使用も短期間ですから、
大きな問題はない可能性が高いと、
お考え頂いて良いように思います。

あまり気にされることなく、
ご妊娠を継続されて問題はないと思います。
by fujiki (2012-12-15 07:40) 

cooky

たまたまこのブログを見つけたのですが、ヨウ素の事など
全く知らず、妊娠14週までほぼ毎日インスタント味噌汁(少量のワカメ昆布エキスも入っているもの。)、のり一畳サイズ1枚そして妊娠12週前後におしゃぶり昆布を12gくらいのパックを一週間で一日1パック×3パック位食べてしまいました。 また特にヨウ素など気にせず、もずくやメカブ、麺つゆなどをたまに食べたりしてたのですが、これは胎児に影響がある量でしょうか? 今からやめても間に合いますでしょうか?
by cooky (2013-03-18 23:03) 

fujiki

cooky さんへ
おしゃぶり昆布は、
当面止めておいた方が良いと思います。
味噌汁か海苔1枚の、
どちらか一方程度に、
海藻の摂取は留めておいた方が良いと思います。
ただ、記事にも書きましたように、
それで必ずお子さんに影響が出る、
というようなものではありませんので、
過度なご不安は持たれないようにお願いします。

お母さんの甲状腺機能の採血は、
一度しておいた方が良いかも知れません。
産婦人科の先生にも、
一応そのお話はしておいて頂いて、
後はそんなにご心配はせずに、
ご妊娠を継続して頂くのが良いと思います。
by fujiki (2013-03-19 06:19) 

えみり

初めまして。 ニュージーランドに住んでおり、妊娠前からヨード 250umgが含まれたサプリメントを妊娠8週頃まで飲んでいました。
ニュージーランド人はヨウ素不足の人がほとんどらしく、このサプリメントも妊娠中、授乳中の人ように作られたものです。
先日、日本人はむしろヨウ素過剰に注意と知り、妊娠8週頃にサプリメントをとるのを止めました。 妊娠前から8週頃まで過剰にヨウ素をとった可能性がありますが、赤ちゃんに影響がある可能性がありますでしょうか?
待望の妊娠で、不安に思っています。


by えみり (2013-04-30 14:25) 

fujiki

えみりさんへ
これはその地域の食生活によるものなので、
ニュージーランドで生活をされている環境では、
適度なサプリは大きな問題はないように思います。
ご心配なくご妊娠を継続されて良いのではないでしょうか。
by fujiki (2013-05-02 08:23) 

えみり

お返事頂きありがとうございます。
日本に居るときのようには海藻類を食べる機会が少ないのですが、
時々日本から持ってきた、わかめや、昆布でだしをとって料理をする時があります。こちらの助産師さんにはサプリメントをとるように勧められますが、私の場合は時々海藻類を食べるなら、必要ないのかなと思っています。 良いバランスを見極めるのが難しいです。

お忙しい中ご返答頂き、本当にありがとうございました。

by えみり (2013-05-03 06:12) 

リンママ

はじめまして。
妊娠後期に入った者です。
海藻類の摂取に制限があることを今になり知りました…。便秘予防などの効果があるということで特に問題視していませんでした。

私の地元では煮付け料理がありそのなかに煮付けの昆布も入っていて、気づけばちょうど妊娠12週あたりに身体に良いものだと思い、結び昆布を(乾燥を戻し味付けした縦10センチくらい)4つ程食べてしまっていました。次の日まであまりを少しは食べていたかと…

こんぶが大好きとか、毎食常用しているわけではなく、たまに食べるといったことをこれまでにも何回かですがありました。出汁も規制の粉末昆布だしを使ったりともあり…胎児に影響がないかかなり不安です。

毎日常食してるわけではないので大丈夫でしょうか!?とても心配です。
by リンママ (2013-06-10 11:10) 

fujiki

リンママさんへ
一時的な摂取は大きな問題はないと思いますし、
ご心配はされずに、
出産を迎えて頂きたいと思います。
問題になるのは別箇にお子さんに甲状腺の異常がある時で、
そうでなければ問題は生じないと思います。
念の為産科の先生には、
その旨お話はして頂いて、
エコー検査の時などに、
少し気を付けて見て頂くのが良いかも知れません。
by fujiki (2013-06-11 08:50) 

リンママ

早速のご返答、ご多忙にも関わらず感謝いたします。
今までのエコー健診で何も言われたことはないのですが、次の健診でドクターに聞いてみます。

時々食べる分には問題はないのですね。お弁当にも昆布などの炒めものなど入れたりもしていたので…

とりあえず先生の解答でとても安心しました。毎度の妊娠、神経質になってしまい自分でももっと気持ちを楽に持たなければとおもうのですが…

ありがとうございます。元気な赤ちゃんに会えるのを楽しみに、あと少しのマタニティライフ楽しみます。

by リンママ (2013-06-11 09:52) 

なーまま

はじめまして。質問させていただきたいことがあります。
現在妊娠16週なのですが、食べづわりで1日中何かを食べていないと気持ちが悪く、コンビニ等で売っているおつまみの昆布を、毎日1袋、3週間ほど食べ続けてきました。
ヨウ素のことなど気にせず、太らないようにと昆布を選んだのですが、摂取しすぎでしょうか?
by なーまま (2015-08-08 22:23) 

fujiki

なーままさんへ
昆布を毎日はちょっと多いと思います。
2から3日に一度くらいを上限に、
お考え頂いた方が安全だと思います。
by fujiki (2015-08-09 08:21) 

なーまま

やはり多いですよね。次の検診でよくみてもらいます。
ありがとうございました!
by なーまま (2015-08-09 21:24) 

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