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「乳児と大人のヨードの取り込みに違いはない」は本当か? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は今日は通常通りの診療です。

夜電源はそのままにしておいたら、
朝家のPCが勝手に再起動されていて、
サーバーには繋がるのですが、
インターネットエクスプローラーが開きません。
XPの古いPCなので、
何かエクスプローラーが更新されると、
不具合が生じるようなのですが、
再起動しても復旧しません。

憂鬱です。

それでは今日の話題です。

今年の3月25日に、
日本核医学会という、
放射線安全教の信者の方が多く入信している学会が、
放射能は安全ですよ、
という内容の声明を出しました。

その中にこんな一節があります。

【一部の報道が「乳児の甲状腺が発達途上でヨウ素が取り込まれやすい」としていますが、取り込みの力に年齢差はありません。】

僕はこれがどうもずっと引っ掛かっていました。

この文章の言わんとする所は、
大人の甲状腺が摂取したヨードの2割を取り込むとすれば、
乳児の甲状腺も同じように、
摂取したヨードの2割を取り込みますよ、
ということです。

100ベクレルの放射性ヨード131を、
何らかの形で体内に取り込めば、
大人でも乳児でも、
甲状腺に取り込まれる放射性ヨードは、
20ベクレルで変わりはないのですよ、
ということです。

随分と自信満々の書き方ですが、
これは本当でしょうか?

正直なところ、
それが絶対に間違いである、
という確証はありません。

ただ、今回色々と調べましたが、
上の記載を事実とする根拠も、
実際には存在しないと僕は思います。

このことを証明するには、
1歳未満のお子さんに、
実際に放射性ヨードを飲ませて、
その甲状腺への取り込みを、
検証しなければなりません。

しかし、倫理的な観点から言って、
そんな研究が実証的なレベルで、
されたとは思えません。

ICRPの甲状腺等価線量に係わる換算係数は、
乳児においても甲状腺への取り込みが、
2割であることを前提にしているので、
おそらくはそれを鵜呑みにしただけのことなのかな、
と僕は推測します。

ただ、乳児の甲状腺機能というのは、
1歳以降とは異なる性質があり、
乳児の放射性ヨードの内部被曝に関しては、
それより高い年齢層とは、
別個の意味合いを持って考える必要性があります。

その点を非常に軽視するような声明の記載には、
僕は納得の行かないものを覚えるのです。

それで今日は乳児の甲状腺機能の特殊性について、
僕の理解する範囲の事実をお話しします。

胎児は妊娠11週の段階で、
既に自分の甲状腺ホルモンを作り始めます。
この時はまだ、
通常甲状腺のホルモン産生をコントロールしている、
甲状腺刺激ホルモンは分泌されてはいません。
つまり、胎児の甲状腺はまず自前で、
ホルモンを作り始めるのです。
下垂体からの甲状腺刺激ホルモンの分泌は、
概ね18週以降に始まるとされています。

胎児が作る甲状腺ホルモンは、
お母さんの胎盤から運ばれる、
お母さんが摂取したヨードを、
その原料にしています。
従って、母乳と同じようにヨードの移送体が、
胎盤にも発現していて、
血液のヨードを濃縮して、
胎児に送り込む訳です。

出産と同時に、
甲状腺刺激ホルモンが急上昇します。
これを1つの合図にして、
新生児は自前の甲状腺をフル稼働させ、
大人の産生量に匹敵する量の甲状腺ホルモンを、
産生し続ける状態が継続されます。

大人は常時大量のホルモンを、
甲状腺の中に備蓄しており、
その一部が血液中に放出されて働く仕組みですが、
乳児はその日産生されたホルモンを、
その日のうちに使い切る、
という一種の自転車操業の状態を続けます。

クレチン症という、
先天性の甲状腺ホルモン欠乏症がありますが、
この時には薬として、
甲状腺ホルモン剤を新生児期から飲む必要があります。
この時の補充量は海外文献によれば、
概ね大人と同量か、
場合によってはそれより大量が必要となるのです。
(日本では10μg/kg が1つの目安になりますので、
海外用量よりは大分量は少なくなります)

甲状腺ホルモンは神経組織の発達や、
骨格の成長に重要な役割を果たします。
通常出生4ヶ月までに治療を開始すれば、
知能発達の異常は、
出現しないと言われています。

このことは逆に言えば、
神経組織の発達において、
出生から1歳までの期間に、
充分な量の甲状腺ホルモンの存在が、
必要不可欠であることを示しています。

この生成に必要な材料を補給するために、
先日お話ししたように、
母体はヨードを母乳に濃縮し、
平均でも100μg以上のヨードが、
母乳を介して乳児に与えられるのです。

ヨードの取り込みが何割かは、
データがありませんので何とも言えません。
ただ、大人と同量かそれ以上のヨードを、
実際に乳児の甲状腺が日々取り込んで、
大人と匹敵するか、
時にはそれを超える量の甲状腺ホルモンを、
日々使用していることは事実です。

甲状腺刺激ホルモンが抑制されるT4の濃度は、
大人では2.2μg/kg 程度ですが、
1歳から10代半ばまでは3.5μg/kg というデータもあります。
新生児では10μg/kg でも抑制が掛かりません。
これは甲状腺ホルモンのセットポイントは、
お子さんでは高めに設定されている、
すなわち、
ヨードもそれだけ多く取り込むように、
身体がコントロールされていることを示しています。
そして、1歳未満では、
基本的に甲状腺ホルモンの産生に、
ブロックが掛かりません。

これだけのデータをお示しした上で、
皆さんは最初の放射線安全教信者組織の、
声明文の内容をどう思われるでしょうか?

僕は明確に否定は出来ませんが、
実際に多くのヨードを使用している以上、
その取り込みは大人より多くなければ、
理屈に合わないと思います。

上のデータはそれ以外に、
小児にヨードブロックは果たして有効なのだろうか、
という本質的な懐疑を、
提示しているように僕には思われます。

皆さんもよくご存知のように、
放射性ヨードの内部被曝を防ぐために、
大量のヨードを内服して、
それを防御することが可能であると言われています。

それは大人では確かに、
ある程度の有効性が期待出来ます。
しかし、お子さん、特に1歳未満では、
少し過剰のヨードが体内に入っても、
ブロックは掛からないと思います。
ブロックが掛かるのは、
甲状腺刺激ホルモンの抑制が、
甲状腺へのヨードの取り込みを減らす、
という前提があっての話です。
しかし、小さなお子さんでは甲状腺ホルモンの代謝が早く、
取り込みも亢進しているのですから、
ブロックの効果はあまりないと考えられるのです。

チェルノブイリの被曝による甲状腺癌の増加の主因は、
ミルクや母乳の汚染であったことは明らかです。
従って、1歳未満のお子さんを守るためには、
ヨード剤ではなく、
お母さんが被曝を避けることこそ、
一番の重要事なのです。

チェルノブイリの被曝により、
お子さんの甲状腺癌が著増したのは、
実際には計算上より多くの放射性ヨードの被曝が、
主にお母さんを介して、
乳児にもたらされたからだと考えられます。

所謂「安全デマ」は、
2つに分けて考えることが出来ます。
1つは安全性の明確でない放射線量を、
「データがないので安全だ」
と言い切ることによるデマで、
もう1つは被爆量を非現実的な仮定を積み上げて、
実際より遥かに少なく見積もるデマです。

放射性ヨードの被曝に関しては、
多くの方が言われるように、
危機は去りつつあると信じたいのですが、
安全デマには惑わされずに、
出来得る範囲の防御策を、
特に小さなお子さんには、
まだ継続する必要があると僕は思います。

今日は新生児期のヨード代謝から、
放射性ヨードの内部被曝の予防を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんは良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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