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屋内退避とは何か、を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からレセプトをやって、
それから今PCに向かっています。

昨日の夜の余震は、
東京でも結構揺れました。
隣に寝ていた妻は一瞬反応しましたが、
今朝聞くと「地震あったの?」という答えでした。

それでは今日の話題です。

今日の話は「そんなことは知ってるよ」
と言われる方が多いかも知れません。
ただ、僕は昨日まで理解していなかったので、
ああ、そうか、と思い、
遅ればせながら記事にすることにしました。
「今頃気が付いたのか」と思われる方は、
スルーして頂いて構いません。

屋内退避指示とは、
一体どういう意味なのか、
という話です。

現在福島第一原発の、
半径20キロ以内は避難指示が、
半径20キロから30キロ圏内には、
屋内退避の指示が、
内閣府原子力安全委員会より発令されています。

原子力安全委員会の防災指針では、
外部被爆による実効線量が10~50mSv(ミリシーベルト)では屋内退避、
50mSv以上では避難指示となっています。
また、内部被曝に係わる等価線量では、
放射性ヨードの小児甲状腺に対する等価線量が、
100~500mSvが屋内退避、
500mSv以上が避難指示の基準です。
他にウランとプルトニウムによる内部被爆の避難基準がありますが、
これは現時点ではあまり関係はありません。

この指示が発令されたのが3月15日ですから、
もう3週間以上が経過しています。

避難指示は分かります。
そこが危険だから取り敢えずそこから離れろ、
という意味でしょう。

この場合50mSv以上の外部被爆が予測された、
ということになるのですが、
それは一体どのような試算なのでしょうか?

「念のための措置だ」というだけで、
何処かにしっかり書かれているのかも知れませんが、
どうもはっきりしません。

指示が出た時点で50mSvの被爆があった訳ではありません。
指示があった時点では被爆はなかったのですから、
ある程度の確率で、
被爆の可能性があったからこそ、
避難が行われた、ということになる訳です。

ただ、分からないのは屋内退避です。

家の中にいろ、ということのようですが、
家だって色々です。
鉄筋コンクリートで機密性の高いビルであれば、
それなりに遮蔽効果はありそうですが、
木と紙の古い日本家屋はどうなのでしょうか?
隙間風の入るのは大丈夫なのかしら?
昼でも雨戸を閉め切って、
隙間にはめ張りをしなければいけないのでしょうか?

必要な時には外に出てもよいのだ、
と後からそう言われましたが、
そんな程度のことなら、
家の中にいることに、
一体どの程度の意味があるのでしょうか?

次々と疑問が湧いて来ます。

一番の疑問は、
屋内退避の指示が続けば、
その地域の商店は店を閉じ、
行政も含めて全てのサービスは行なわれなくなり、
どうしても残る必要のある人以外は、
結果としてその地域を出て行くことが、
ほぼ明らかであるにも関わらず、
その状態が平然と続けられている、
という理不尽な状況です。
これでは兵糧攻めです。
屋内退避とは、
すぐに逃げられない方への、
ある種のいじめなのでしょうか?

そうした疑問を持って、
原子力安全委員会の、
指針を書いた資料を読んでみました。

そこには、
屋内退避の有用性について、
次のような記載がありました。

「大気中に拡散してきた放射性物質からの被ばくを軽減するためには、放射性物質から遠ざかることが最も効果的である。しかしながら、混乱の発生のおそれ等を考慮すれば、被ばくを低減するための簡便な防護対策としての屋内退避が有効であると考えられる。屋内退避措置は、周辺住民が屋内に入り、建物の気密性を高め、口及び鼻をタオル等で保護することをいう」

何となくニュアンスが分かりました。

これはつまり、
一時的に家の中に入れ、という指示なのです。

チェルノブイリのように、
原発が一基、ボカンと爆発します。

すると、周辺数十キロに、
放射性物質が短期間で大量に飛散します。

この時、その爆発が予測可能なものであれば、
予測した時点で、
予測不能であれば爆発を確認した時点で、
概ね半径30キロに避難指示が出ます。
ただ、30キロ圏にいる全ての住民が、
一斉に移動を始めれば、
それはもう大パニックで大変な混乱になります。
そのために、
避難はもう少し狭い領域でまず優先的に行ない、
比較的遠くの地域は、
取り敢えず屋内退避で対応するのです。
これはずっとその場所にいることが前提ではありません。
屋内退避の想定期間はせいぜい数日で
(国際原子力機関の最長予想期間は2日です)、
その後は放射線量が下がれば、
屋内退避は解除になる筈ですし、
そうならなければ、
速やかにそこより遠い場所に避難するのです。
つまり、これはせいぜい2日程度の応急的な措置です。

それならば、
皆でマスクをして、
隙間を塞いだ家の中で、
じっと耐えていれば良いのです。

今の異常な状況の理由は、
その一時的な措置が、
何と3週間に渡って何の配慮もなく続けられている、
という無作為の罪に起因しています。

そもそも原子力安全委員会の防災指針は、
1回限りの放射能の飛散を、
その前提にしています。
この文書の何処を読んでも、
今回の事例のように、
水素爆発が数日の間隔で何度も起こり、
その度に放射能が飛散し、
その上水を撒けばその際にも放射能がばら撒かれ、
3週間を過ぎても終息の気配すらなく、
爆発の危険ならある、
というような状態は、
全く想定はされていません。
爆発も放射能漏れも、
1回限りで、
それをクリアすればそれで対策は終了です。

これはですから津波警報のようなものなのです。

「津波が来るぞ」という警報が流れると、
逃げられる人は高台に逃げ、
その余裕のない人は丈夫なビルの屋上に逃げます。
それがつまり避難指示と屋内退避です。

津波が来て、それが回避出来れば、
その指示はすぐに解除されます。

これならば、何の問題もないのです。

今の状況は「津波警報」が3週間に亘り、
24時間休むことなく出続けている状態と同じなのです。

こんな状態に、
避難にしている人間、
特に屋内退避の地域の人間が、
耐えることが出来るでしょうか?

一番の問題は防災指針には想定されていない災害が起こったのに、
防災指針通りに指示を出し、
それを3週間以上修正することが出来なかった、
という行政の無策にあります。

1回限りの放射能汚染、
1回限りの放射能の飛散や拡散に対する指針しか、
これまで作られては来なかったのです。

食品の被曝量の暫定基準も、
外部被爆や内部被曝の評価の基準も、
基本的には1回限りの放射能の拡散に対応したものです。

つまり、それらの全ては、
本当は現在の悪夢のような状況、
一瞬が永遠に引き伸ばされたかのような、
放射能の拡散が連鎖的に続くような状況に、
対応出来るようなツールではないのです。

そのことが一番典型的に現われたのが、
屋内退避の指示なのではないかと僕は思います。
一時は自主避難を促す、という方針がありましたが、
何となく立ち消えになり、
今朝のニュースなどを見ますと、
屋内退避地域でも、
徐々にライフラインは回復し、
病院も診療を開始したところがある、
とのことでした。
Vを見るとマスクをしないでいる方も多くいらっしゃいます。
要するに本来の「屋内退避」は解除されているのです。
3週間の屋内退避などナンセンスの極みなのですから、
速やかに解除して一旦平常に戻すのか、
それとも今後のリスクを重要視して避難指示に変更するのか、
まずそもそもの方針の不手際を謝罪した上で、
はっきりさせるべきではないかと考えますが、
皆さんはどうお考えになりますか?

今日は屋内退避とは何か、という話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 4

takeshi6925

>まずそもそもの方針の不手際を謝罪した上で、はっきりさせるべき
同感です。また、このままそこにいることで予想される被ばく量についての情報を早期に伝える必要もありました。指示に従え、だけでは自己判断のしようもありません。

ところで、実は、食品の暫定基準値が想定してるのも、短期間でどかんと汚染が広まり、そして収束する(チェルノブイリのような)状況のようだ、と、最近気づきました
ある時点で水源がI131濃度210Bq/kgに汚染され、そして、以後汚染は進まないと仮定。この水源から毎日水をの飲むとするとき、1年でどれだけ被ばくするか?
この場合は、崩壊によって摂取する水の汚染濃度が毎日低下してゆくので、これを加味して計算すると成人の甲状腺等価線量は0.82mSv。乳児の場合は7.2mSv。(摂取期間は365日でも10000日でも、摂取期間がある程度長ければ被ばく量は同じ。)
こう考えれば、この基準値は子供のリスクを考慮して決められていると言えます。
一方で、無視できない量の放射能の流出がだらだらと長期間続く状況では、この基準値は、以前の記事で石原さんが指摘されたとおり、問題の多い値となります。
by takeshi6925 (2011-04-08 18:17) 

minK

本当に色々と歯がゆいですねえ。

by minK (2011-04-09 00:18) 

fujiki

takeshi6925 さんへ
コメントありがとうございます。
暫定基準値の点は僕もご指摘を受け、
初めてそうか、と思いました。
想定外の状況に対して、
被爆量の算定も含め、
もう少し柔軟かつ迅速に対応して欲しいな、
とは切に思います。
今は僕も含めて皆さんの理解も深まり、
専門家の方も慎重な言い回しになっていますが、
3月22日の頃までは酷かったですね。
ただ換算係数を掛けただけで、
被曝の議論が行われていました。
by fujiki (2011-04-09 08:41) 

fujiki

mink さんへ
コメントありがとうございます。
日本の評価がどんどん落ちて行くのがねえ、
何も出来ない分余計に辛いですね。
一刻も早く終息されれば良いのですが…

by fujiki (2011-04-09 08:44) 

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