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停電と心の闇 [身辺雑記]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

診療所は通常通りの診療の予定です。

昨夜は夕方になって、
急に都心に停電が起こるかも知れないので、
節電をしろとアナウンスが流れ、
診療所のあるビルの大家さんは、
その指示に従ってエレヴェーターの電源を落としました。

その時、
高齢の大動脈瘤をお持ちの患者さんが、
診療所を受診され、
歩くのもやっとの方なのですが、
エレヴェーターが停まっていたので、
階段で2階へと昇ろうとされました。

2階で息も絶え絶えになったところで、
診療所の職員が見付け、
大家さんに掛け合って、
エレヴェーターを再度動かしました。

患者さんの呼吸は荒く、
血圧は急上昇して、
動脈瘤にも影響があって、
おかしくはない状態でした。

幸い少し安静にして症状は取れ、
最悪の事態は免れました。

大家さんを責めるつもりは毛頭ありません。

節電の急な命令のような指示に、
忠実に従っただけなのですから。
それに、事情をお話すると、
すぐにエレヴェーターを再起動してくれたのです。

患者さんはエレヴェーターが、
節電の貼り紙の下に停まっているのを見て、
それでは歩かねば、
と思い階段を無理に昇り始めたのです。

これだけ真面目で律儀な人間が揃っていて、
どうしてこのような不幸が起こるのでしょうか?

東京の夜は、
ネオンサインは消え、
多くの店は時間を繰り上げて閉店し、
街は闇の色を次第に濃くして行きます。

誰も決して悪くはないのは分かります。
あの大臣も親の敵のように憎く思えますが、
急に電力需要が上昇したので、
最悪の事態を避けるために、
急な発表をしたのでしょう。
総理大臣も東京電力の幹部の皆さんも、
皆全力で必死に頑張っているのでしょうし、
国民はすべからく犠牲を払い、
決して心ない発言や悪口は言わず、
その応援をしなければならないのでしょう。

しかし、こんな不安定な状態が続けば、
本当に全てが駄目になってしまいます。

昨日福島の被災地の透析患者の方が、
東京に避難された、
というニュースがありました。

しかし、東京の流通はズタズタで、
計画停電と非計画停電の警告が流れるために、
医療用品も充分には届かず、
ガソリンもありません。
そして、医療用品もガソリンも、
東北の被災地を優先に運ばれます。

要するに疎開は東京電力の守備範囲の外でなければ、
意味がありません。
行政やメディアの方は、
優先して電気もガソリンも供給されるので、
そのことに気が付かないのでしょうか?

テレビを見ていて特に原発のニュースで、
次第に気分が悪くなり、
動悸がしたり吐き気がする方が、
昨日は複数診療所を訪れました。

見たくなどないけれど、
見ないでいればそれはそれで不安になり、
どうしてもまたテレビを点けてしまうのだ、
とある人は言いました。

なるほど昔警告されたテレビの有害性とは、
そうか、こうしたものだったのか、
と愚かなことに今になって気付きました。

被災地で家を失い、
避難所に暮らす方は、
本当にお気の毒だと思います。
ただ、四六時中そうした報道だけを見させられていると、
被災者の方が、
これが足りない、あれも足りない、
と言われるのを、
次第に反発を持って見ている自分に気が付く、
と言われた患者さんもいました。

これを言えば非難される、
とか、
これを言えば炎上する、
などと思えば、
素直で身勝手でエゴイスティックな本音を抑えて、
言って罰せられることのない言葉だけを、
仕方なく口にせざるを得なくなります。

これも正直1つの地獄です。

ガス抜きは絶対に必要です。

しかし、それはテレビで仮装大賞やさんまのバラエティーを、
流すこととはまた別の次元の話だと僕は思います。
それで済むと本当にテレビ局の方が考えているとしたら、
本当にそれだけは憎く思います。

そんなものがこの重い気分を軽くしてくれる訳はないのです。

昨日1つだけ心が和んだのは、
80代の患者さんが、
自分が体験した東京大空襲の話をしてくれたことです。

東京大空襲は昭和20年の3月10日です。
3月11日とはたった1日違い。
こういう因縁をどう考えれば良いのでしょうか?
「頭を守らなけりゃいけない、と言ってね」
とその人は言います。
「訳も分からず穴を掘ってそこに頭を入れたんだがね、
息が苦しくなってすぐに止めたよ」

その人のお父さんはお医者さんで、
当時最先端の「癌」の研究をしていたのだそうです。
手書きの論文を書いていて、
それが完成した日に空襲に遭い、
命と共にその論文も灰になりました。

「歴史は繰り返すもんだね」
とその人は言います。
「先生は頼りなんだから生きてなきゃ駄目だよ」

胸が熱くなって、
ちょっと泣きました。

今日はいいことがありますよね。
でなければ本当に、
もう限界が迫っているような気がします。

石原がお送りしました。
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コメント 6

rtfk

関東地方の 特に首都東京の方々の精神状態も
かなり限界なのではと思います。
西日本の我々も分かち合うことが何かないだろうか?と
考えております。
by rtfk (2011-03-18 10:03) 

fujiki

rtfkさんへ
コメントありがとうございます。
お金や時間の余裕のある方は、
西日本や海外に脱出されているようで、
そんな話を聞くと、
複雑な思いに捉われます。
by fujiki (2011-03-18 21:13) 

HWK

関東も被災地なんですよね。
計画停電や寒くて暗い電車のストレス。
仕事で疲れ、家でもいつ来るか分からない地震に過敏になり、
必要な物資がスーパーにはなく、日々疲弊しています。
今は耐え時?
ホントに4月末まで?
東京が元気にならないと、経済復興は厳しいでしょう。

by HWK (2011-03-19 01:12) 

fujiki

HWK さんへ
コメントありがとうございます。
現実に多くの人が東京からも逃げている訳で、
これで東京が被災地の援助をしろ、
と言っても、
共倒れになるだけだと思います。
少なくとも東京電力の圏外からの援助でなければ、
意味がありません。
by fujiki (2011-03-19 06:24) 

永遠の通りすがり

今日は気温も高いらしいし、計画停電の心配もなし。土曜なので電車も混まない。
なんて受診日和なのでしょう!!と明るい気分にも一瞬なったのですが、ちょっと値を下げ過ぎて歩けなくなってしまったので諦めます(自業自得)。
震災にはそれほど影響されていないと思っていましたが、テレビとTwitterを観続けていたら、ずずんと沈んでしまいました(自業自得)。
先生はお疲れではありませんか?
by 永遠の通りすがり (2011-03-19 07:36) 

fujiki

永遠の通りすがりさんへ
大丈夫だよ。
値を下げると放射能の影響も受け易いので、
ほどほどにして下さい。
by fujiki (2011-03-19 08:20) 

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