SSブログ

ヨード剤による甲状腺の被爆予防について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

東京は計画停電の発表で混乱があり、
電車は多くが停まっていて、
交通機能停止のような状況です。
ガソリンも足りないようで、
スタンドの多くが営業しておらず、
このままだと早晩車の使用も困難になりそうです。
もう少し事前に電力会社と交通機関が、
協議することは出来なかったのでしょうか。
停電自体は仕方のないことだと思いますが、
対応のまずさは非常に疑問です。

それでは今日の話題です。

今日はご質問のあった、
ヨード(あるいはヨウ素)による、
甲状腺のブロックの話です。

被爆の問題もあり、
多分イソジンのうがい液などは、
市場から消滅することが予想されますが、
このイソジンのうがい液には、
通常の濃度のもので、
1cc当たり7mgのヨードが含有されています。
通常医療目的のヨード剤としては、
ヨウ化ナトリウムやヨウ化カリウムの溶剤が使用されます。
僕は使用が必要の際には、
調剤薬局で作ってもらっています。

被爆の予防にヨード剤を使用するのは、
比較的大量のヨードを身体に接取することにより、
甲状腺に取り込まれるヨードを、
ブロックする目的があります。

ヨードは人間の身体では、
主に甲状腺ホルモンの成分として、
その生合成時に使用されます。

甲状腺ホルモンをT3とかT4というのは、
その含んでいるヨードの数を表していて、
たとえばT3であれば、
その構造に3つの無機ヨードを含んでいます。

通常人間のヨードの必要量は、
1日0.2mgもあれば充分で、
土壌にヨードが多く含まれ、
海産物特に海藻類の摂取が多い日本人では、
ヨードの欠乏は殆どなく、
むしろヨードを過剰に摂取している人が多いと考えられます。

さて、放射性ヨードが身体に入ると、
その多くは甲状腺に集まります。

より正確に言うと、
口から摂取されたヨードのうち、
ごく一部は唾液腺に入り、
2割は吸収されて甲状腺に入り、
8割弱は腎臓から排泄されます。

この放射性ヨードが甲状腺の組織を破壊し、
特にお子さんでは甲状腺癌を高率に起こすことが、
チェルノブイリの原発事故の経験などから分かっています。
そのために、
甲状腺癌の予防のためのヨード剤の使用が、
放射線被爆の可能性のある場合には、
有効な予防法とされているのです。

それでは、何故ヨード剤を飲むと、
放射性ヨードの後遺症の予防になるのでしょうか?

これは大量のヨードが身体に入ると、
甲状腺はヨードで飽和された状態になり、
そこに放射性ヨードが侵入しても、
そのヨードは甲状腺に入れなくなるからです。

過剰のヨードはまた、
甲状腺ホルモンの生合成をブロックするため、
甲状腺機能亢進症の治療に、
用いられることもあります。

どの程度のヨードが、
甲状腺のヨードブロックの目的には必要でしょうか?

僕が大学の医局で、
甲状腺学の大家の先生からレクチャーされたノートを見ると、
概ね10mgのヨードでブロックはされる、
と先生は言われていました。

また、副腎シンチという検査があり、
この時には放射性ヨードを使用するのですが、
この時に甲状腺を守るために使用するヨードは、
概ね20mgから30mgです。

甲状腺機能亢進症でヨードを治療に用いる際には、
通常15mg程度を使用します。

ただ、甲状腺クリーゼという、
甲状腺機能亢進症の重症型があって、
その場合一刻も早く甲状腺機能を正常にするために、
一気に1g(1000mg)のヨードを使用することがあります。

つまり、ヨードの使用量にも、
実際にはこれだけの幅がある訳です。

現行の放射能被爆時の緊急的な使用としては、
13歳以上40歳未満の成人では、
76mgを1回使用する、
という方法が日本では採用されています。

放射性ヨードによる甲状腺癌の発症は、
20歳までの年齢では被爆線量に応じて上昇し、
40歳を超えると有意な影響はないとされています。
ただ、大量の放射線を浴びれば、
癌の発症はなくても、
甲状腺細胞が壊死するので、
甲状腺機能低下に陥る可能性はあります。

76mgという量については、
2000年に出た文献で、
放射性ヨードの95%が、
30mgのヨードでブロックされた、
というデータをその元にしています。

ヨードは腸管からの吸収は良く、
吸収されてから10分後には甲状腺に取り込まれます。
その予防効果は甲状腺機能が正常であれば、
概ね24時間は持続します。

従って、76mgというのは、
かなり量的には過剰なのですが、
万一にも取り込まれないように、
という判断からのものなのだと思います。

注意して頂きたいのは、
これはあくまで緊急時の、
一時的な使用を前提にしている、
ということです。

使用は1回限りで、
その効力があるうちに、
被爆しない距離に逃れる、
というのが目的です。

ただ、たとえば副腎シンチと言う検査では、
コレステロールにくっ付けた、
放射性ヨードを使用するため、
甲状腺の保護目的でヨード剤を使用しますが、
この場合は1週間程度はその使用を継続することがあります。
また、甲状腺機能亢進症の治療では、
2週間程度その使用を継続することがあります。

従って、甲状腺機能が正常な方が、
1週間程度30mgくらいのヨードを内服することは、
それほど大きな健康上の問題にはならない、
と考えて良いと思います。
イソジンのうがい液で換算すれば、
これは4ccくらい、ということになります。
これで基本的には甲状腺への放射性ヨードの侵入は、
使用している期間については、
ブロックされることになります。

ヨード剤を使用する面での、
副作用はないのでしょうか?

通常の副作用として多いのは、
胃腸症状です。
胃痛や吐き気はかなり多い副作用で、
大なり小なり起こると考えた方が良いのです。

一番の注意はヨードアレルギーで、
イソジンやルゴール、
造影剤で体調の悪くなったことのある方は、
使用することは出来ません。
慢性の蕁麻疹を生じる病気である低補体性血管炎や、
身体に水疱の出来るジューリング疱疹性皮膚炎では、
ヨードアレルギーを伴うことが多いので、
原則は使用が出来ません。

大量のヨードが長期間使用されれば、
橋本病など甲状腺ホルモンの生合成に、
何らかの問題のあるケースでは、
ホルモンの合成が阻害されて、
甲状腺機能低下になる恐れがあります。
ただ、これはホルモン剤の内服で予防は可能ですし、
通常1週間程度の使用では、
起こらないことが殆どです。

放射性ヨードと甲状腺癌との関連については、
僕自身しっくりしない点があります。

それは、
放射性ヨードは甲状腺機能亢進症の治療として、
広く使用されており、
甲状腺組織を壊死させる量を、
治療目的で使用するにも関わらず、
基本的には若年層に使用しても、
癌の発症が増えることはない、
とされていることです。

この違いが何処にあるのか、
納得の行く説明は、
僕の検索した範囲では、
見つけることは出来ませんでした。

今日は甲状腺の放射線被爆予防目的の、
ヨード剤の使用についての話でした。

より正当な記載は、
「緊急被爆医療研修」のサイトをご参照下さい。
原則としてその使用は、
行政の指示に従って行なって下さい。

この記事は勝手にイソジン等の内服を行なうことを、
促す意図のあるものではありませんし、
放射線の被曝は勿論ヨード剤の使用で、
完全に防御出来る性質のものでもありません。
防御可能なのは、
主に低年齢層の将来の甲状腺組織の発癌リスクのみだからです。

そうした点はご配慮の上、
慎重にお読み頂ければ幸いです。

それでは今日はこのくらいで。

被災された方にとって、
今日が少しでも良い日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(42)  コメント(28)  トラックバック(0) 

nice! 42

コメント 28

midori

何日かぶりに心から笑いました、
いーですね、「一人宴会」「指齧りネズミ」。
和ませて頂いてありがとうございます。
また、ヨードの知識、助かります。
今一番欲しい情報でした、
田舎にちっちゃい姪・甥がいて、母が孫をいたく心配しているので。
by midori (2011-03-14 08:37) 

シロ

自分の無力さを実感しています。わかりました。適度に行動したいと思います。昨日ずっとしんどかったのですが、お風呂に入ったら想像以上に身体が冷えていて湯舟につかったら、症状が和らぎました。今はたくさん重ね着してますが寒いです。
by シロ (2011-03-14 09:20) 

fujiki

いつの間にか自宅も停電区域に入っている。
昨日の10時にはそうでなかったのに…
こんなのは酷い。
準備のしようもない。
by fujiki (2011-03-14 09:21) 

a-silk

ちょっと前にでかい余震があり、外に出ました。
少し心臓バクつきました。
私も大笑いさせていただきました。
ありがとうございます。
by a-silk (2011-03-14 10:29) 

rtfk

海藻をたくさんたべようというチェーンメールが来ました。。。
by rtfk (2011-03-14 10:35) 

あい

テレビなどで水で洗い流す等いっていますが、水が止まってる場合の対処法としてどのような事ができるでしょうか?
よろしく御願いいたします。
by あい (2011-03-14 15:42) 

ごぶりん

>この機会に節電の意識を高め、
電気を節約する社会にしよう、
などとほざいている学者の方がいますが、
電気を使わなかったら、
この社会で消費も出来ないんだよ。

・・・電気を使うなとは言ってないと思うのですが。
無駄な電力消費を控えるべきという事ではないでしょうか?
クリスマスあたりに見られる家の周りを覆うようにしている
電球の点滅とか・・・
(未だにやってる馬鹿もいますけど)

のべつまなく消費されている電力を支えていた原子力発電で
現在多大な被害を被っている福島の方々に申し訳ない気持ちで
一杯なのですが。
by ごぶりん (2011-03-14 16:24) 

fujiki

midori さん、a-silkさんへ
コメントありがとうございます。
笑って頂いて大変嬉しかったのですが、
ちょっと言い過ぎと感じたので、
当該部分は削除することにしました。
早く平常な世の中に復すれば良いのですが…
by fujiki (2011-03-14 16:42) 

fujiki

rtfk さんへ
コメントありがとうございます。
海藻を多少食べたくらいではブロックにはならず、
大量に食べればお腹を壊します。
止めておいた方が無難です。
by fujiki (2011-03-14 16:43) 

fujiki

あいさんへ
申し訳ありません。
僕もそうした点については、
即答出来るような知識はありません。
by fujiki (2011-03-14 16:47) 

fujiki

ごぶりんさんへ
ご指摘ありがとうございます。
当該箇所は表現が過激だと読み直して思いましたので、
削除することにしました。
ご不快に思われたら申し訳ありませんでした。
色々な考え方があるということで、
ご容赦頂ければ幸いです。
by fujiki (2011-03-14 16:52) 

yuuri37

凄いことになっていて、発狂しそうです。
時間に追われた生活している人間には、大変な世の中の到来です。
by yuuri37 (2011-03-14 21:25) 

いち

先生いつもすみません。きょうは、CT検査の件です。1年前に肺がんを疑い、経過観察を含め半年で、5回もCT検査をうけてしまってます。検査は、重要だったので、しかたがなかったのかもしれませんが、原発の汚染の比較で、日常の検査の被爆量とのひょうを見て、また心配になってます。結局がんではなかったのですが、自主的に検査をうけようとおもっていました。最近のCTは低汚染とも聞いていますが先生のご意見をおきかせください。どちらのリスクをとるか?なのですかね。いち
by いち (2011-03-15 07:29) 

fujiki

yuuri37 さんへ
コメントありがとうございます。
この程度で大変とは、
言えないような雰囲気ですが、
でもガソリンはないし物はないし、
電車は動かないし、
燃料棒さんは熱湯のお風呂からお顔を出していらっしゃるし、
大変ですが頑張りましょうね。
きっといいことありますって。
(多分)
by fujiki (2011-03-15 08:26) 

fujiki

いちさんへ
その通りで検査は重要だったので、
それは必要な被爆だったのです。
気にされる必要はありません。
たとえば心筋梗塞の時の血管造影の検査などは、
CTなど遥かに超える被爆を伴いますが、
それでも必要性が高いのでやるのです。
ただ、今後の検査はCTのような被爆を伴うものに関しては、
その被爆のリスクと検査の必要性とを、
しっかり考えて決める必要があると思います。
by fujiki (2011-03-15 08:38) 

いち

先生ありがとうございます。もうひとつ、検査による被爆は蓄積されるのですか?あと、毎年会社の健康診断でバリウム検査もかなり、放射線を浴びているとおもいますが、胃カメラを欠かさず受けていれば、バリウム検査肺がんのX線はうけなくてもいいですかね?私の考は肺がん検査はCTが確実だとおもっています。いかがでしょうか?やはり、こんどは、不安障害が、こちらにうつってしまってるようなきがします。
by いち (2011-03-15 10:47) 

いち

先生何度もごめんなさい。4月に肺の手術をして、1年がたちます。手術をした病院は、がんと診断されたら診るけど、そうでない人は、一般の検査で確認してくださいといわれました。肺がん検査のCTでお勧めの所はありますか?それとも、がんでなかったからもう少し間をあけてもいいものなのですか?すみません。今、心療内科で,でプロメール25を一日1回から、2回にせんしゅうからふやしました。何度もつけたしで質問してすみません。
by いち (2011-03-15 11:07) 

あい

被災地にいる友人が水がないという環境のようで前おきもなく質問してしまい、失礼致しました。。
早く事態が落ち着いて避難できるように願うしかないですよね。
しかしこちらのblogのおかげでイソジンの件を伝えることができました。
お返事も頂きありがとうございます。
皆様と皆様の大切な方々がどうか無事でありますようにお祈りしています。
先生もお体に気をつけて下さい。
by あい (2011-03-15 17:29) 

管理人nemurineko

イソジンについて:放射線医学総合研究所(千葉市)が注意を促す見解を出したと報道されています。
先生の御意見はいかがでしょうか?
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?b=20110314-00000986-yom-sci
by 管理人nemurineko (2011-03-15 21:33) 

fujiki

いちさんへ
被爆自体は蓄積されませんが、
回数を重ねれば、
確率的な影響は加算はされます。
バリウムの検査は、
胃カメラをしていれば、
毎年受ける必要はないと思います。
肺は現時点ではCTが確実で、
ヘリカルCTの線量は、
通常のCTの4分の1くらいのレベルにはなっています。
ただ、通常1年に一度で充分で、
状況によっては数年に一度でも良いと思います。
特にここを…というのはありませんが、
毎年の胃カメラの時に、
いつも診療所で依頼している施設で、
同日にCTを撮ることは可能です。

by fujiki (2011-03-15 21:44) 

fujiki

あいさんへ
お気遣いありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-03-15 21:45) 

fujiki

管理人nemurineko さんへ
上の記事も全文を読んで頂ければ、
イソジンの使用を促す内容ではないことは、
お分かり頂けるかと思いますが、
今度補足をしたいと思います。

見解の内容はちょっと微妙で、
イソジンの危険性を強調する部分は、
やや正確さを欠いていると思います。
うがい液に少量飲んでの毒性があれば、
本来承認される訳がありませんし、
ヨードは吸収率は高いので、
どのような形態であれ、
飲んで無効ということはありません。
添付文書にもヨードが吸収されることは、
はっきり書かれています。
昔は副腎シンチの前処置に、
ルゴール液を数滴飲むような方法もあったのです。
数日前のテレビでは、
「昆布を多めに食べるのは有効」と、
それこそデタラメが平然と流されていました。

ただ、見解の趣旨には、
僕も基本的に賛成です。
不要不急にイソジンを飲むことに、
害はあっても益はありません。

しかし、本当に緊急時には、
無意味な行為ではないと思います。
by fujiki (2011-03-15 21:57) 

ゆうな

 先生のお体が心配です。
 コメントのお返事は要りませんので・・・。
by ゆうな (2011-03-15 22:59) 

いち

先生、こんにちは、ご回答ありがとうございました。CTも色々あるのですね。多分私のうけたCTはヘリカルCTだとおもうのですが、5分位で終わるラセン状のなんとか?といってましたが、どうでしょう。先生の言われている、昔のCTとは一回一回ずらして撮るやつのことですか?けまかくてすみません。胃カメラは必らず六号診療所でときめました。CT設備があれば一緒に診ていただけますか?なければ、保険がきかない、人間ドックでうければいいですか?それとも、いままでの経緯をはなして、保険診療としてもらえるものなのですか?お疲れの所すみません。アドバイスいただけますか?
by いち (2011-03-16 07:27) 

管理人nemurineko

昨晩は早速に丁寧なご回答を頂きありがとうございます。
(言葉足らずの質問で申し訳ありませんでした)
読者は様々な先入観を持ちつつ時間に追われる中で斜め読みする人も多く、文章表現には神経を使う状況になっておりますね…
先生と皆様のご無事をお祈り申し上げます。
by 管理人nemurineko (2011-03-16 08:08) 

fujiki

いちさんへ
らせん状CTというのは、
ヘリカルCTのことです。
CTも健康保険で大丈夫です。
by fujiki (2011-03-16 17:53) 

いち

先生いつも、ありがとうございます。テレビで放射線被爆をCTなんかとよく比較していて、私は安心するどころか、不安がましてしまいました。少なからずそーゆー人もいますよね。でも,パニックを防ぐためには、仕方が無いことなんですかね。これから先どうなるのでしょうか、心配ですね。
by いち (2011-03-17 18:26) 

みさき(サキエ)

先生こんにちは。
以前は女性ホルモンのことでお世話になりました。

最近 後鼻漏と、唾液過多で眠れず食欲もないのですが、
耳鼻科の bスポット療法(ルゴール、塩化亜鉛)というものを知りました。

今ほど体が弱っていない若いときに おそらく ルゴールでのbスポットは何度か近医でうけた記憶がありますが、(そのときへっちゃらでした)

ルゴールの上咽頭への、塗布は
あまりよくないのでしょうか、(>_<)


by みさき(サキエ) (2016-04-22 08:46) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0