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プラザキサの臨床試験結果を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

ワーファリンに代わり得る、
内服のタイプの抗凝固剤、
プラザキサ(一般名ダビガトラン)の日本での発売が近付き、
製品情報概要も出来上がったので、
目を通して見ました。

この薬剤の臨床試験は、
ワーファリンと比較する形で行なわれ、
ワーファリンと遜色のない結果であったことは、
以前にもご紹介しました。

その18000例の心房細動患者さんを対象にした試験には、
300例余の日本人の症例が含まれていて、
日本の添付文書には、
その日本人の結果が紹介されています。

ワーファリンの患者さんが108例、
それに比較されているのが、
プラザキサの少ない用量である、
1日220mgを使用した患者さんが107例、
そして通常用量である1日300mgが111例です。

ご存じのように、
心房細動という不整脈が慢性化すると、
そこからの血栓による、
脳卒中などの血栓症の危険が増します。
これを予防するために、
血が凝固し難くなる、
抗凝固剤というタイプの薬を、
予防的に使用するのです。
この目的でこれまで最も有効性の高い、
とされている薬がワーファリンです。

つまり、今回の試験は、
ワーファリンと比較して、
新薬のプラザキサが、
同等かそれ以上の予防効果を示すかどうかを、
検討したものです。

ただ、日本人に限って言うと、
この例数で1年数ヶ月程度の観察期間なのですから、
その期間にそれほどの脳卒中などの塞栓症が、
起こるとは思えません。
これは無治療なのではなく、
治療している患者さん同士の比較なのですから、
そもそもそれほど塞栓症が発生したら、
そのこと自体が問題になる訳です。

実際、ワーファリンの患者さんで塞栓症の事例は4例、
プラザキサの低用量で2例、
そして通常用量で1例の患者さんが、
その観察期間のうちに脳卒中などの塞栓症を起こしている、
という結果でした。

確かにプラザキサの方が、
塞栓症の発症は少ないのですが、
100例程度でこの期間ですから、
これはもう何とも言えません。

つまり、日本人の患者さんで、
この薬が本当にワーファリンより予防効果に優れているのかは、
これはもう実際に使って見なければ分からない、
というのが実際のところだと思います。

次に副作用を見てみましょう。

プラザキサを日本の臨床試験で使用した218例中で、
出血系の合併症は、
ちょっとした皮下出血のようなものを含めると、
92例に見られています。
対象のワーファリンの患者さんでは、
108例中51例です。
(期間内の合算の数値と思われます)

勿論これは薬との因果関係は問わずに、
観察期間に出血があれば、
それを全てカウントしているので、
この全てが副作用という訳ではありません。

ただ、この短期間にも重症の消化管出血などもあり、
厳しくコントロールされたワーファリンと、
同等の出血性合併症があることを、
想定してこの薬を使う必要があるのだと、
現時点では思います。

ポイントは臨床試験ではワーファリンの効きは、
INRが2~3という、かなり厳しいコントロールが、
その条件になっている、ということです。

そのワーファリンとさほど変わらない合併症が、
通常量のプラザキサで認められる、
ということは、
よく留意した上でこの薬を使用する必要があると、
僕は思います。

日本人では欧米人に比較して、
出血性の合併症が多いのでは、
と言われることがあります。
今回のデータのみでは、
それはあるともないとも言えません。
従って、本当にこの薬が実際の患者さんにおいて、
ワーファリンよりトータルに有用性があるのか、
と言う点については、
実際に使用が始まって数年は経たないと、
どちらとも判断は出来ない、
というのが本当のところです。

次にちょっとこちらをご覧下さい。
ある海外文献からの引用です。
ダビガトランとaPTT.jpg
これはプラザキサの血中濃度と、
その時の凝固機能の検査の1つである、
aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)との、
関連性を見たものです。

この薬の常用量を内服すると、
そのピークの血中濃度は、
60~170μg/l になるとされています。

左上の小さい図が、
その実際の有効血中濃度での、
aPTT の数値を拡大して示したもので、
これを見ると、
通常の血中濃度でも、
ある程度のaPTT の数値の延長が、
見られることが分かります。

大雑把に言えば、
血中濃度がやや高めになると、
aPTT は通常の2倍程度に延長します。

つまり、この数値を測定することで、
プラザキサの効き過ぎがないかどうかを、
ある程度推測することが可能です。

このデータを信用するとすると、
aPTTの数値が、
概ね40秒から80秒の間くらいに収まっていれば、
プラザキサは有効にかつ安全域に、
コントロールされている可能性が高い、
というように考えられます。

同論文の別のデータを参照すると、
ワーファリンで指標とされるPTのINRという数値は、
プラザキサの常用量では、
1.2以下と殆ど延長がなく、
プラザキサの効果判定には、
全く無意味であることが分かります。

特に腎機能の低下している患者さんでは、
プラザキサを使用する際に、
時々aPTTの測定を行なうのが、
現時点では最も有用性のある方法だ、
と言っても良いのではないかと思います。

今日はプラザキサについての、
補足的な話でした。

明日はプラザキサとは違うメカニズムの、
新規内服抗凝固剤、
Ⅹa因子阻害剤に触れる予定です。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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